表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/201

【裁雷】と【経験】




「それにしても……まさか七階位の天使ともあろう者が、物語の主人公に惚れてしまうとは」


「奴は天使になってからまだ一万年と経っていない。人間らしさが残っていても不思議じゃないだろう」



 早々に調教を終えてしまったせいで、ウルが然程堪えていなさそうなのが気に入りません。

 しかし、『直ぐに向かう』と答えてしまった以上、時間を掛けていてはリーリアさんの心象が悪くなってしまうでしょう。



「はぁ……では、久し振りに後輩の顔でも見に行くとしましょう」


「目的を忘れるなよ? ごしゅ――フィオドール」



 ……思ったより調教が効いていましたね?






***






「1番から5番までの介入経路が遮断されました! 現地の天使達との交信途絶!」

「使用していない経路を繋ぎ直してください。交信が回復次第、天使の生存を最優先で」

「6番以降で介入した天使達も待ち伏せを受けています! 形勢は不利です!」

「今すぐ撤退させて下さい。完了したら直ぐに経路を切り離して――」



「ひぐっ…うっ…ご、五階位……メルトシアス様の消滅を確認……」


「経路の番号は?」

「じゅ……18番です」

「そう。18番経路を遮断、他の五階位の天使を複数人で見張りに立たせてください。天界へは絶対に侵入させないで」



 告げながら、私――リーリアはあまりの状況に絶望していました。

 さっきから流れてくる情報は全て天使達に不利なものばかり、相手は私達より小さな世界のはずなのに。

 介入するどころか、こちらに攻め入られるのを防ぐので精一杯。


 もし……もしここへの侵入を許してしまったら?

 五階位が討滅されているなら、戦えるのは七階位の私と六階位の先輩達だけ。

 まだ相手の最大戦力も、総数も分かっていない……情けない。やっぱり私なんかじゃ――



「いやぁあああああああああああ⁉︎」


「「「⁉︎」」」

「ど、どうしたの? 情報は正確に報告して!」

「六階位! ……六階位の天使様がぁあ⁉︎」



 ついに六階位も討たれてしまいました……もう、私しかいない。

 私しか、勝てる可能性が無い……



「現地から全ての天使を撤退。介入経路は一つだけ残して他は聖力の供給も遮断。伝令班はもう一度、七階位の天使達へ救援を要請して下さい」


「は、はい!」

「先輩達が来るまでは、私が前へ出ます。私が囮になれば多少は時間が稼げるでしょう」



 どうやら力の強い者が集中して狙われている様ですし、私が介入する事で囮にはなれるでしょう。


 せめて七階位の先輩達が来るまで耐えなくては……



「ッ⁉︎ 最後に残した経路が相手に利用されています! 隔壁も突破されました! 出現位置は――ここです!」


「総員、退ーー」



「くたばれやクソ天使ぃいいいいいい‼︎」



 やはり狙われるのは私。

 光の粒子を散らしながら現れたのは、日に焼けた肌の筋骨隆々な大男。

 手に持っているのは……見たことが無い程大きな鉈。


 大丈夫、訓練通りにやれば大丈夫。まずは《雷槍》で――



「しゃらくせえ!」



 抵抗(レジスト)⁉︎ 障壁の展開も無しなんて、大魔王級じゃないですか⁉︎

 次の《雷槍》は間に合わない! せめて物理障壁を――



()ったぁあああああ‼︎」



 乾いた音を立てて、物理障壁も破られてしまいます。

 眼前に迫る大鉈。

 体はピクリとも動きません。


 何もできない。

 やっぱり私に七階位は相応しく無かったじゃないですか……フィオ先輩――









 ……? 諦め、目を閉じていたのにいつまで経っても衝撃が来ません。

 消滅ってこんなに何も感じないものなのでしょうか?


 目を開けると、そこに広がるのは光を纏う金色の翼――えっ……金色⁉︎


 嘘……金色の翼って『最上天使ケイレム』様⁉︎


 ケイレム様が振り返り、そのご尊顔を……うん? フィ、フィオ先輩?



「『ケイレムが天位七階位、【経験】のフィオドール』が馳せ参じました。リーリアさん、お怪我はありませんか?」



 ケイレム様……いやでもフィオ先輩ですよね?

 ど、どういう事なんですか……






***






 天界に私以外の男が見えたので、思わず消し去ってしまいましたが……

 私の知らない所で、天使になれる条件が変わってたりするんですか? それとも誰かの使徒だったのでしょうか?


 いや、どちらにしても私が許しませんけどね。

 ここは私のハーレムにするのです。男は私一人だけで十分。



「助かりました……えーと、フィオ先輩?」



 おっと、そうでした。今回の目的はリーリアさんでしたね。

 栗色の髪に、髪の色より少し明るい瞳……言い表すなら『垢抜けた田舎少女』でしょうか?

 私が教育係をしていた時はずっとおどおどしていましたが、少し見ない内に随分と立派になったようですね。



「とりあえず、状況を教えて貰えませんか?」

「あ、はい! 少々お待ちください……観測班! 情報を統合してフィオ先輩へ!」


「こ、こちらです!」



 おお、仕事が早いですね。

 私が『干渉局』にいた時は、もっとごちゃごちゃしていましたよ。

 報告が百年越しだったりして『あ、そういえば143番経路が封鎖されていました。やっぱりあそこの世界は介入しない方がいいですねー』とか――



《そんなのはお前の代だけだ。他の天使はしっかりと管理していたからな?》

《わん、わんわん!》

《ッ⁉︎ ば、馬鹿にしやがって!》



 ウルを弄って癒された事ですし、情報の確認をしましょうか。



「あ、あの! フィオドール様からお願いします!」

「緊急時ですので……申し訳ありません」

「いえっ……こ、光栄です」



 通常は口頭での報告になるんですが、情報量が多かったり、緊急時には聖結晶を通しての情報共有が可能です。

 そしてこの観測班の子はなかなかの胸をお持ちで……


 あーっと手が重力に逆らえない――



「あ――んっ⁉︎」


「これは……失礼しました」

「いえ、その……光栄です」



《こんな緊急時に何をやっているんだお前は……》

《こんな時だからこそ、ですよ。緊張を解しているのです》



 情報のやり取りは一瞬です。後は頭の中で整理するだけですね。


 どれどれ? ふむ、ふむふ――うん?



「リーリアさん」


「は、はい! 何でしょうフィオ先輩」

「人間界へ干渉したんですよね?」

「はい! いつもと同じ手順を踏んで、観測から介入へ移行しました」

「そうですか……」

「あの……何か不手際があったのでしょうか?」



 いえ、不手際ではないのですが……頭の中に広がるこの景色、見覚えがありますね。


 どこまでも続く荒野に鈍い曇天、そしてむさ苦しい小麦色の肌をした男達。

 もしかしなくとも……魔界に繋がってませんか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます

ブックマーク・評価・感想などいただけますと
作者が非常に喜びます!よろしくお願いいたします

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ