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閑話 セリーとニンク

第4部分でフィオドールが寝室に戻った後のお話になります。

天使セリー視点です。

 



「ふふっ……では」



 ああ、フィオドール様が行ってしまいました。

 もう少しお話……いえ、お姿だけでも見て居たかったのに。


 それにしても、たかが『天位三階位』でしかない私――セリーの事まで気に掛けて下さっていたなんて!


 何てお優しい方なのでしょうか?

 瞳は見せて下さいませんでしたが、もしあの時見つめられていたら……

 私、私は……ああ! ダメですフィオドール様! 私達は天使、そんな卑猥な行為なんて――



「行っちゃったねー」


「……は! ええ、そうね」



 ニンクの声で我に返りました。あ、危なかったです。

 もう少しで私はフィオドール様と……ああ! ダメですフィオドール様ぁ⁉︎



「セリー、ありがとね? 私の事庇ってくれて」


「……いえいえ、同期の仲じゃないですか」



 いけませんね、天使が煩悩に染まるだなんて論外です。

 こんな事が『保守派』の方々に知られたら……しょ、消滅させられてしまうかもしれません。

 煩悩を振り払わなくては……えーと、そう! 同期! 同期です!

 天界で天使の同期というのは非常に貴重ですからね。


 私達のような中位に上がったばかりの天使は、人間界への介入を任される事は無いのですが――



「私ねー? 天魔大戦でフィオドール様が戦っているところを見た事あるの」


「えぇ⁉︎ 羨ましい!」



 そう、『天魔大戦』です。

 私達の住む天界とは何もかも違う、もう一つの世界――『魔界』。

 その魔界と私達の天界が不定期に繋がってしまうんです。

 初めて魔界と繋がった時、天使達は友好的に接触したそうです。

 でも……ダメでした。

 魔界の住人、『悪魔』や『魔族』と呼ばれる者達は交渉を中断、その場で襲い掛かってきたそうです。

 仕方なく天使達もこれを迎え撃ち、次第に全面戦争へ発展して行った……


 それが天魔大戦と呼ばれる戦争の始まりだと伝えられています。


 私とニンクはまだ二回しか大戦に参加していません。

 それでも、何人もの同期が討たれ、消滅して行くのをこの目で見ています。

 人間だった時から死とは隣り合わせでしたが……やっぱり仲間を喪う感覚は慣れません。

 もっと私が強かったら、皆の事も守れたのでしょうか……



「五対の翼がね? 私達のと違って金色だったの。それに凄く強くて、格好良かった」


「五対って……ほぼ本気って事じゃない! 相手は公爵? まさか……魔王?」


「ううん、大魔王って言ってた」


「だっ⁉︎ 大魔王⁉︎」



 私達天使は、この胸の聖結晶からどれだけ力を引き出せるかで翼の枚数が変わります。

 基本的に一階位につき一対ずつ増えて行って……七階位の天使様で、最高七対十四枚。

 フィオドール様は七階位だから、つまり――



「ほ、本気を出さずに大魔王を討滅した……ってこと?」


「うん。この目で見たもの、間違いないよ」



 つ、強い! 強過ぎますフィオドール様! その上で優しくて、あんなに格好いいなんて!

 もちろん、他の七階位の天使様もお強いのでしょう。

 七階位へ至るには大魔王を討滅しなくてはならないと聞いていますから……

 でも! そんな大魔王を五対の翼で倒してしまうフィオドール様!


 まるでお伽話に出てくる『最上天使ケイレム様』みたい……



「私ね、その光景を見た時に思ったの」


「うん?」


「『フィオドール様に処女を捧げよう』って」


「……え?」



 ニンクが私を見つめて来ます。

 で、でも……目にハイライトが……ハイライトはどこ?

 えっ? フィオドール様と話してた時はあんなに嬉しそうだったじゃない⁉︎


 それがどうして――



「その乳が!」


「ひぃ⁉︎」


「フィオドール様を惑わすその乳が憎い!」



 乳――胸⁉︎ た、確かにフィオドール様もおっしゃっていましたが……あれ?

 でもフィオドール様は目を閉じていらして……



「セリーは言ってたよね?『フィオドール様の為に尽くします!』って、ならフィオドール様を惑わすその乳は要らないよね?」



 だ、ダメです。もしかしたら、更にフィオドール様の魅力的な所が判明したのかもしれないのに……今は考えているだけの時間がありません。



「お、落ち着いて? ニンク」


「私は落ち着いてるよ。セリーにもお乳付いてるね。無駄に大っきいのがさー?」



 ニ、ニンクも無い訳じゃないでしょう⁉︎ もう、どうしたらいいんですか……

 それに、どうせ捨てるくらいならフィオドール様に――ああ!



「そうです!」


「そうだよね? やっぱり要らないよね? じゃあちょっと痛いけど我慢してね。死――」


「ふ、二人で『経験の園』へ行きませんか⁉︎」



 ニンクの指先が、私の胸に触れる直前で止まっています……というかニンク。

 最後『死んで』って言おうとしてませんでしたか?

 ……憎いのは私の胸ですよね? 私個人が憎い訳では無いですよね?


 恐る恐る顔を上げると……やりました!

 ニンクの目にハイライトが! ハイライトが戻っています!



「それって……フィオドール様の領域だよね?」


「そうです! 二人で一緒に行きましょう!」


「行ってどうするの?」



 ……ここです。ここで間違えば私の胸はニンクの気が済むまで小さくなってしまうでしょう。

 いえ、さっきの様子を見るに命も危ないかもしれません。

 で、でも言えませんよ。いくら何でもだ、抱い――



「どうするの?」


「フィオドール様とお話を……」


「死ん――」


「だ、抱いて貰いに! 抱いて貰いに行きましょう!」


「二人で?」


「は、はい……二人で」



 ああ……申し訳ありませんフィオドール様。セリーはふしだらな天使です。

 命惜しさもあったとはいえ、ちょっといいかなと思ってしまいました。



「じゃ、行こう!」


「行くって……えぇ⁉︎ 今からですか⁉︎」


「そうだよ! すぐ行くの! セリーの気が変わらないうちに早く!」


「ダメですよ⁉︎ フィオドール様の予定も分からないし、それに……」


「それに?」


「私、その……下着が!」



 セリーは……セリーはふしだらな天使です。

 でも自分では止められないんです……



「そうだよね……とっておきの着て行かないと!」


「あ、ニンク⁉︎」



 ニンクが私の手を引いて走り出してしまいました。

 違うんです、今着ているのがとっておきなんです!

 黒くて透け透けなんです……でも、この状態を見せる訳には⁉︎












「フィオドール……やっぱり危険」




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