干渉局:介入部
「セリーさん、ここが介入部ですか?」
「は、はいフィオドール様。そうなんですけど……」
「……誰も居ないな」
「天使手――もとい、人手が足りないのは介入部でしたか」
「みたいだねー? 僕にも介入させてくれたらいいのに」
内装は……今までの部署と違う点がいくつかありますね。部屋自体がかなり大きく、さらには円柱状の装置が置かれています。
あれは何でしょうか?薄っすらと中が透けて見えますが……む、これは女性の匂い。
「に、匂いだと?くっ……オレには分からん」
「いくら獣人とはいえ、本物の獣には敵わないでしょう」
「うん?何の話だい?」
「ふふ……狐も良いでありんしょう?」
ええ、キリリスさん。何よりも貴女と同じだという点が素晴らしいですね。
さて……私の嗅覚が確かなら、あの装置の中には女性――天使が入っているはずなのですが……どうでしょうか?
ここは、先程から私の尻尾に興味津々なニンクさんに聞いてみましょう。
「ニンクさん。あの装置には一体何が入っているのですか?」
「はい、フィオドール様。装置には介入中の天使……その本体が入っています」
「本体……どういう意味でしょう?」
「あー、フィオ兄さんの時は異世界に肉体ごと転移してたね……」
「クレフスさん……ええ、魔界へ行く時も以前と同じ様に転移しました」
「そうなんだ? でも今じゃ精神だけ異世界に送るのが主流なんだよ」
「ふむ、精神だけですか……しかし、それだと不便ではありませんか? 向こうで物に触れないでしょう」
「そこであの装置の出番って訳さ……おっと、ごめんね?僕が説明しちゃう所だったよ」
「いえ……お構いなく、クレフス様。私とセリーは介入部の事をあまり存じませんので」
「そうかい? じゃぁこのまま僕が話すね……えーと?」
「あの装置が何の役割を果たしているか、だ」
「ありがと、ウル。あの装置は異世界へ介入する時、天使に合わせた肉体を生成してくれるんだ」
異世界に肉体を……それはすごいですね。送り込むのが精神だけなら、聖力の消耗も少なく済みそうです。
気になるのは生成される肉体の強度でしょうか? 介入する内容によっては戦闘も発生しますからね……貧弱な肉体では能力の使用に耐えられないのでは?
「その装置はオレでも使えたりするのか?」
「ウルが? うーん……難しいんじゃないかな」
「何故だ? 聖力が無いと使えない代物なのか?」
「いやいや、そうじゃなくてね? 使用者の力が強すぎると、生成された肉体が崩壊しちゃうんだよ。だから僕もあの装置は使えないんだ」
「……欠陥品ではないか」
「そうだよね? 壊しちゃおっか」
「だ、ダメですからね⁉︎ あの『介入補助装置』は開発局の方々が作った傑作なんですよ⁉︎」
介入補助装置……そのまんまですね? 命名者には遊び心が足りません。私だったら『フィオドール○号』にします。
『じゃぁ私、フィオドール一号に入るね』『それなら私はフィオドール二号に入ろっと』そんな会話を耳にする事が出来たかもしれないというのに……しかし、私の中に入るというのは何か違いますね。
入られるよりも入りたい、挿入されるよりも挿入したい……やはりこれは譲れません。
「だがセリー……肉体が崩壊してしまうのでは階位の高い者は使用できないぞ?」
「で、でも! 介入補助装置を使えば、肉体が朽ちても消滅する事は無いんです! 天使の生存率が大幅に上がったんですよ⁉︎」
「そのせいで介入の成功率は下がってるんだけどねー。僕はあんまり好ましく無いかな」
「そんな⁉︎ クレフス様ぁ……」
「あはは……まぁ天使が減らないのは喜ばしい事だよ? けど本末転倒な気もするんだよね」
「ふむ、それがクレフスさんの不満……という訳ですか」
「うん? 副局長も不満を言っていいの?」
「良いのではないでしょうか? リーリアさんには匿名で伝えておきますよ」
「おお! 助かるよフィオ兄さん! せめて装置を使わずに介入できたら、僕にも仕事が回ってくるかもしれないし!」
「少しは事務を――いや、余計な仕事を増やしそうだな」
天使にも向き不向きがありますからね。七階位ではフレイヤさんが挙げられますか……正面きっての戦闘では非常に頼りになるのですが、細かい指示を理解できな――ゴホン。これ以上は彼女の名誉の為に言えません。
何にせよ苦手な物を無理にやらせる事はありません。いくら天使の数が少ないとはいえ、そこまで切羽詰まってはいませんからね……
「ど、どうしましょうか?フィオドール様……流石に介入中の方からは話を聞けませんので……」
「一度リーリアの所に戻ろう、ご主人様。もう主要な部署は回ったはずだ」
「僕も付いて行くよフィオ兄さん。リーリア局長にも顔を見せておきたいし」
「……そうですね」
一応、全ての部署に目を通しましたし……リーリアさんの所へ戻って補佐を始めましょうか。
ついでに聞いた不満の内容でも伝えましょう。一刻も早くリーリアさんの負担を軽減し、私との時間を作ってもらわなければ……
「まだです。フィオドール様」
「……ふむ、ニンクさん。“まだ”とは?」
「まさか……お忘れですか⁉︎ 『休憩室』です!」
「行きましょう」
「ちっ! せっかくご主人様が忘れていたのに……余計な事を」
「あははっ、見るだけなら直ぐだよ……見るだけだよね?」
「ニンク? その……大丈夫なの? 下着とか……」
「セリー……私はあれからずっと勝負下着だよ」
やって参りました。本日のメインイベント、休憩室でお戯れの時間です。
ウル……彼女たちは三階位。手を出しても計画に支障はありませんね? クレフスさんは無理だとしても、ニンクさんとセリーさんなら問題無いはずです。
《はぁ……少し待て。カリン様に確認を取ってみる》
《待ちましょう。ついに天使を手篭めにする時が来ましたか……》
《まだ許可は出ていないぞ? ……それに》
チリン――
「ふふ……面白い冗談でありんすね。フィオ坊?」
《お前に狐が突破できるのか?》
ここで立ち塞がりますか……いいでしょう。そろそろキリリスさんにも私の実力を理解していただきます。
貴女が【天界一】と呼ばれるのも今日限り。いい加減その渾名も重荷でしょう? 私が代わりに背負って差し上げますので……
《おい、ご主人様!『ダメ』だそうだ。キリリスが居るのはまずいと――》
《いいえ、お待ちください。ここでキリリスさんを打破します》
「……ほんに、面白い冗談でありんす」
「すぐ楽にして差し上げますよ。キリリスさん」
「はっ⁉︎ 待てご主人様!」
「え? ……何さこの雰囲気。さっきまであんなに仲良さそうに――うわぁっ⁉︎」
チリン――
「きゃぁ⁉︎」
「な、何? なんでお二人が戦い始めるの?」
初撃は防がれてしまいましたか……密着した状態で九本の尾を防ぎきるとは、流石に一筋縄ではいきませんね。
私の戦果は着物の切れ端のみ。それに対して――
「ふふ……この尻尾はわちきが頂くでありんすよ?」
「ええ、構いません。この様に――いくらでも生やせますので」
「素敵……尻尾を集めて寝具にいたしんしょう」
そう上手く行くでしょうか? 私の【経験】は浅く無いですよ、キリリスさん。
私は……そうですね。あの着物をここで剥ぎますか……それを勝利条件にしましょう。流石に命の奪い合いにはなりませんから……なりませんよね?




