干渉局:交渉課
「こ、ここが交渉課です……」
「先程までとは違って賑やかだな」
「ここはお喋りな天使が集まってるんですよ。後は容姿が整ってるとか……胸が! 大きいとか、そんな理由で所属してる天使もいます」
「うんうん、異世界の住人と交渉するのが役割だからね! 容姿が優れてるのは重要なのさ!」
「と言っても、天使は美形揃いですからね……皆さん一様にお美しいですよ?」
「あはっ……照れるね」
「えっと、クレフス様やニンクの言った事も間違いではないのですが……」
「言ってやれセリー。副局長だからって遠慮する事はない」
「は、はい……ここに所属している天使の方々は、何かしらの交渉術を会得しています。口が上手い方もいれば、催眠術を扱える方もいますし……その……」
「胸を使って色仕掛けもしますよ。フィオドール様」
「ニ、ニンク! ……まぁ、そういう方もいます」
ふむ……ちょっと口頭では理解できませんね。局長補佐が業務を把握していないのはまずいでしょう。
交渉課では“色仕掛け”を用いる方に話を聞きましょうか……これも仕事ですから、仕方なくですよ? ウル。
「セリー。ここでも誰かに話を聞きたい……『適当』に声を掛けてくれないか?」
「えっと……“適当”、ですか?」
「ああ、間違っても色仕掛けを扱う天使に声を掛けるな」
「そんな事しなくても、皆に話を聞けば良くないかな? 狐に乗ってキリリス様が来たから、すっごい注目されてるし」
「ふふ……フィオ坊……ふさふさでありんすね?」
「キリリスさん……私は果ててしまいそうです」
「ちっ……気に食わん」
「って事で……おーい! 話を聞きたいから、気になる子はこっちおいでよ!」
「あ、あの……お仕事の邪魔をされては――」
「いやセリー、今のままでも仕事にならないと思うけど……フィオドール様が来たんだよ?」
「今は狐の姿ですが、オーラは隠し切れませんか……」
「ふふ……この毛並みでありんすからね? はぁ……凄い……」
くっ……耐えるのです。これもキリリスさんの感触を味わう為……
心なしか尻尾を撫でる手付きが色っぽいものへと変化している気がします。恐らくあと少しで陥落するはず……尻尾を抱き寄せる瞬間も近いですよ。
「クレフス様ー! お話しに来ましたー!」
「来ましたー!」
「たー」
「うん、三人共よろしくね! 話はこっちの狼――ウルと、狐さんにどうぞ!」
「狼……第三使徒のウル様?」
「狐? キリリス様?」
「九尾」
「【経験】の第三使徒、ウルだ。干渉局の現状に不満が無いか調査している」
「不満? 無いです! あ、もっとお話しがしたいです!」
「もっと色んな異世界に行きたいです!」
「温泉に入りたい」
「……リーリアに伝えておこう。後は……ご主人様から何かあるか?」
「そうですね……」
「狐さんが喋った⁉︎ すごい! 狐さんと話すのは初めて!」
「キリリス様のペットですか⁉︎」
「ご主人様?」
仲の良い三人娘……前者二人はまだ天使として若そうですね。髪の長さこそ違いますが、全員が茶髪……まさか三姉妹ですか?
顔付きもどことなく似ている様な……しかし、姉妹全員が天使になるなど滅多な事ではありません。聞いてみましょうか。
「お三方は姉妹なのですか?」
「すごいです! 狐さん、よく分かりましたね⁉︎ 三女です!」
「似てましたか⁉︎ 次女です!」
「長女……です」
「それは……お名前を教えていただいても?ああ、私はフィオドールです」
「フィオドール様と同じ名前なんですね! 私はサシオンです!」
「あ、あれ? ……クィウムです」
「『ケイレムが天位四階位、シノ』です」
四階位……爵位持ちの魔族と互角に戦える強さですね。シノさんが長女と言う事は、彼女が一番強いのでしょうか?可能性は高いですね。
そしてシノさんは私が七階位だと気付いている様子、わざわざ名乗りまで用いてくださいました。ここは私も本当の姿に……どう思いますか?キリリスさん。
「ダメ……でありんす。フィオ坊?」
「承知しました。でしたら……今の私は狐さんです」
「ご主人様……くっ! 狼になっていれば威厳があったのに」
「んー? どうかな? そんな次元じゃ無いと思うんだけど……」
「やっぱり狐さんでした! あのあの、撫でてもいいですか⁉︎」
「え、いやフィオドール様なんじゃ……」
「不敬すぎてヤバイ」
「フィオ坊、鳴いておくんなし」
「狐の鳴き声ですか……なかなか難しい事を言いますね」
「鳴けば尻尾を挟んでも――」
「ケェーン!」
「狐さん! ふわ〜……すっごい毛艶がいいです!」
「な、鳴いた……フィオドール様じゃないの?」
「ただの狐かもしれない」
サシオンさん以外の方も恐る恐る近づいて来ますね……噛んだりしませんから大丈夫ですよ。
ですが、今の私は視点が低い事をお忘れなく。それ以前に狐でした……これは何をしてもお咎めなしなのでは?
チリン――
「ふふ……」
しかし、背に乗る狐さんが許してくれそうもありませんね。せめて手を舐めるくらいは許していただけませんか? ローブに顔を突っ込んだりはしませんから……
そしてキリリスさん、私は鳴きました。まさか七階位ともあろう者が約束を違えたりしませんよね?もし、違われる様な事があれば……私は生ける災厄として、干渉局を破壊するほど暴れ続けます。
「どうすれば……【霊獣変化】を使うか? だがこんな事で奥の手は……」
「ウルも大変そうだねー? 僕はもう流れに身を任せてるよ」
「フィ、フィオドール様を撫でるだなんて……」
「セリー、涎出てるよ?」
「なっ⁉︎ で、出てないから⁉︎」
残念です。キリリスさん……ここで貴女と争う事になろうとは。
確かに貴女の能力は強い。しかし、私とて数多の能力を所持しています。勝負の鍵はどちらが早く相手の抵抗を貫くか……私の秘奥を――これはッ⁉︎
「この感触は……唇――」
「また喋りました! 狐さんはどこから来たんですか⁉︎」
「わ、私は撫でるのやめとこうかな……」
「化かされた」
「んひゅ……ふぃおふぉう?」
「色不異空、空不異色、色即是空、空即是色――」
「な、何の呪文だ⁉︎ ご主人様⁉︎」
「何これ? なんかすっごい澄んだ聖力だね?」
ふぅ……干渉局を破壊する?キリリスさんと争う?何を言っているのですか。
この世は皆同体……形あるものは空であり、形の無いものも色なのです……そして全てはキリリスさんの唇へ集約される。これが悟りですか――
チリン――
「さて、行きましょうか……皆さん」
「はっ⁉︎ ご、ご主人様……尻尾に鈴が付いてるぞ⁉︎」
「んっ……ふふ、お揃いでありんすね?」
「すごいねフィオ兄さん……天界が更に浄化されてくよ」
「フィオドール様?ニンクにも鈴を付けてください! 何処でもいいですから!」
「え、ちょ……行くってそんな突然⁉︎ あの、ありがとうございました! お三方!」
「いいよー!またお喋りしようね、狐さーん!」
「こ、これからよろしくお願いします!」
「七階位ヤバすぎ」
「あのー! フィオドール様⁉︎ 介入部はそちらではございませんから⁉︎ こっち! こっちですよー⁉︎」
これは……気が急いてしまいましたか。私は一刻も早く天界を浄化せねばなりません。
そして実績を持ち、この教えを広めるのです……待っていてください介入部。狐唇教が参ります……




