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死について  作者: 無用先生
9/9

最後に

余は介護施設に勤務している。

死について考えることが増えたのはそれが一因であると思う。

利用者が死んだからではない。余自身が、死に向かっていることを意識する。


利用者の生活支援が業務であって工場や商社のような生産や流通から疎外される日常。

社会的地位も収入も低く、生活支援だけが続く。

施設には年中行事も、年末年始も年度もあるが。時給で介護に従事するスタッフにはそれは飾りのようなもの。

二月や五月にも他の月と同じ時間、勤務しなければならないのは。

単なる労働条件の不利(これとても深刻に重要であるが)ではなく。

年度を単位として時間割のある学校や予算管理のある官庁(いずれも三月末に昇級する)のような秩序がないことだと、余は思う。

そもそも生活支援が職務であるということが。秩序だった近代的組織(工場、銀行、官庁…究極的には軍)の幹部を養成するために構成された学校文化とは相容れないようにも思う。

介護保険制度ができてから教育を受ける若い世代はまた違うのかも知れないが。


昭和の教育や現在の介護保険制度についての意見は詳しく書かない。

ただ利用者や家族が生活費として出す金と、企業を維持する金とは性質も規模も違う。

一割負担(保険者が九割を負担)によって一桁のサイズアップがされてはいるが、それでも余が受けとる金は時給千円。

少ない資金で高齢者の生活を維持するために編成されるケアチームなるものは昭和の教育を受けた人間が観念する組織とは似て非なるもの、むしろ対立するものでもある。

指揮系統も判然としない職場。

日常生活支援といいながら転倒(高齢者にとっては命に関わる)や急病に備えた、一種の非常事態が延々と続く。

年末年始もゴールデンウィークも関係なく。


野蛮ではあっても田舎の小学校が一億円の滑り台を購入できた時代も、介護保険(余も薄給から負担金を徴収されている)が社会の大きな部分を占める現在も。

いま生きている人間は死に向かっている。


暖房の利いた介護施設で勤務する余は寒さに弱くなっているが。

この寒い冬に気づいたのは死後の世界の有無に関わらず人には臨終があること、

それについて人は容易に知り得ないこと。

仮に知り得たとして、臨終で脳が没落すればその知識も恃みがたいことである。

介護の教科書にはターミナルケアだのグリーフケアだのと載っているが。それがどうしたのかと余は思う。

時給千円の余にとって月額20万の施設でのうのうと暮らす利用者の死だの家族の悲しみだのもはや知ったことではない。

余の死が問題だ。

だが結びにひとつ付け加えるなら。

読者たる足下にもそのときは必ず…。





余が子供の頃の教育はでたらめだった。

たとえば風紀にはやかましいのに。

健全な発育のため、あるいは必要以上に色気付かせないためなどの理由で。

更衣が男女同じ教室だったり、カイボウのような野蛮な遊びが半ば奨励されたりもした。


アニメを見るのは良くないがニュースを見るのはよい。

だがニュースではイランイラク戦争の(どちらの陣営だったか忘れたが)将校が華々しく階級章と勲章を飾ってインタビューを受けていた。

その弊害はアイマスクを着けた三倍速い敵とは比較にならない。アニメではなく本物の得物で殺し合いをしているのだから。

余が通っていた学校では

教師に勉強のことは聞いてよいが武器の質問は禁止!

になった。

イランとイラクどちらが強いか、といった下らない質問が多すぎたからだ。

そのような下らない時代の、教室の掃除について書こうと最初思ったがやめた。

理由は本文にある通り。


余が幼少の頃は。

鉄筋コンクリートには死に対抗する力があると信じていた。

頑丈な基地があればイランやイラクのミサイルも防げる。

将来は総理大臣になって。好きなだけ一万円札を印刷して。

その金で鉄筋コンクリートよりも硬い物質を買って軍事基地と病院を兼ねたような無敵の建物を造りたい。

ついでに女の子の前でズボンを下ろした(ブリーフがどうなったかは書かない)奴等も死刑にしたいと思った。

現在は鉄筋コンクリートに死を防ぐ力がないことも、

内閣総理大臣に無制限に紙幣を発行す権能がないことも知っている。

だが総裁人事を握られた日本銀行が実質的に独立しているのか、いないのかは余にもよく解らない。




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