勇者とスライム
いつもより少し長めです。
性格歪んでるなこの王女さん。さすが勇者の素質を持った存在だと言うべきか、どうやら勇者達にかけた魅了は完全ではないのが僅かながら救いだが、王女さんの言うことに対しての優先順位が高くなってしまうくらいにはハマってしまっているのが今後どうなるかだな……
あ、なんで俺が勇者召喚なんてリアルタイムな出来事を知っているかって?
『時空の管理者』のせいかグニっと時空が歪んだことを海を越えた遠い方向で感じたから『天眼』で眼を飛ばして探ると、お城の中で魔法陣を囲ってる怪しい集団に辿り着いたからそれをずっと見ていたのだ。
王女さんが魅了をかける瞬間も見ていて、正直妨害することも出来たが、かからないと分かった王女さんが勇者達に何をしでかすか読めなかったからそれは止めておいた。最悪召喚されてすぐに殺されることもあると思ったのだ。
そして召喚された勇者達だか、男3女2の組み合わせで、恐らく日本の同一の高校から来たようだ。
オーラからして陽キャラのイケメンが1人、その友人であろう筋肉質が1人、そして美少女が2人、最後に明らかに浮いた陰キャでオタク気味な男の子が所在なさげに1人の計5名が呼ばれたようだ。どうやら混乱から復活した勇者達は王女の魅了も手伝って素直に説明を受けているようだ。説明の内容は
「我がアルメルフェンド王国が、魔王と繋がっている隣国サウロン帝国からの侵略を受けている」
「その侵略行為により何の罪もない王国の民が無惨にも殺され、奴隷として連れて行かれたりしている」
「魔王を倒すか、サウロン帝国を滅ぼしてほしい。それできっとこの悲しみにあふれた王国にも光が差し込むだろう」
王女からの現状説明の一切を疑うことなく信じきった勇者達は、別室に移動してステータスを確認するようだ。
なんだあの水晶は。あ、手で触れるとステータスが空中に表示されるのね。ステータスって念じても出てこないのかな。あ、それだと自己申告になってしまうから個人でのステータス表示の仕方を知る前に5人のステータスを知っておこうという事か。
まずは1番勇者っぽい陽キャイケメンが触った。
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name: クニミツ・ササキ
race: 勇者
level: 1
skill: 身体強化Ⅲ 光魔法Ⅴ 聖剣召喚-
option: オルファ神の加護
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何とも勇者っぽいスキルだ。それも最初から光魔法が5レベルか。種族も勇者になっている。勇者を《鑑定》。
《種族【勇者】。異世界から『勇者召喚』の魔法陣によってこの世界に喚ばれた者に強制的に付与される。その世界の言語を理解し、成長速度全般に補正。》
俺は喚ばれた訳ではないから種族も勇者じゃないと。まあ勇者召喚したつもりが亀出てきても困るだろうけどね。
あら、ステータスに見慣れない欄があるな。オプションが付いてるよ?オルファ神?神様いるの?この世界。《鑑定》っと。
《オルファ神の加護。現在この世界を管理している中級神の中の1柱。『勇者召喚』で喚ばれた者は総じてこの神から加護を得ることになっている。》
この勇者が特別な訳ではなく喚ばれると貰えるものなのね。そして神は沢山いるという新事実。玄武も文献によると四神つって神らしいんですけどー?ステータスのどこにも書いてないですけどー?
ステータスを公開した陽キャ君は王女さんにすごいすごい、とおだてられ鼻が高くなっているようだ。まあステータスが勇者ぽいラインナップだもんな。陽キャ君に『聖剣召喚』を試してみるよう王女さんが言っている。いい気になってドヤ顔で手を前に出して叫んでるぞ。「我が声に応えよ!聖剣召喚!!」だって。前半部分いらないよね?アドリブでよく出たなそのセリフ。
出てきた出てきた。おお、あれが聖剣か。なかなかかっこいいじゃないか。何もない空間を割いて陽キャ君の眼前に現れたのは、白銀に輝く鞘に収まった両刃のロングソードだ。おっかなびっくり陽キャ君が鞘から引き抜くと、シャンと澄んだ音が鳴って陽キャ君の体に剣と同じ白銀色をした、全身をカバーする鎧が出現しそれが元からそこにあったかのように陽キャ君の体にピッタリフィットした。
………眩しい。エフェクトはカッコいいけどちょっと眩しいぞそれ。王女さんも直視出来てないではないか。それにしてもあの聖剣には《装甲》みたいな効果があるのかな?どう考えても聖剣を抜いた瞬間に鎧を纏ったもんなあ。
《聖剣召喚。勇者の魂に合った聖剣を召喚する。強力な聖剣には特殊なスキルが内包されていることがある。》
ほう?じゃああの聖剣は?
《聖剣エクスカリバー。魔を祓い、所有者の各パラメータを上昇させる効果を持つ。『聖鎧』『魔物特効』》
随分とベタな聖剣だなエクスカリバー。陽キャ君が身につけているあれは『聖鎧』か。剣を抜くと自動で発動するんだな。そして魔物へのダメージを数段階高めるスキルも持ってるな。まさしく魔王を倒すための剣みたいな。
上から下まで勇者っぽくなった陽キャ君は見せつけるかのように胸を張って王女さんに声をかけている。おい?勇者っぽいからってイケると思い始めたか?そして王女よ、いくら扱いやすいからってほくそ笑むな。『天眼』はお見通しだぞ。
残りの勇者達もステータスを表示させ、それぞれ拳闘士や僧侶や賢者的なスキルを持っていて勇者パーティーぽくなった。そして最後の1人残った、どこからどうみてもオタク君!君の番だ!私の予測ではクズスキルしか与えられず追放されるか、中途半端に使えるスキルを手に入れ、ある程度進んだところで陽キャ勇者パーティーの誰かに追放される未来が見える。
うーん、なんというか微妙?
オタク君のステータスはこちら。
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name: カズキ・マツモト
race: 勇者
level: 1
skill: 身体強化Ⅲ 調理Ⅱ 射撃Ⅱ 収納魔法Ⅲ
option: オルファ神の加護
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パッとしない…強いて言うなら収納系の魔法を持っているから荷物持ち係かな…
王女さんも微妙な顔してるし。頑張っても魔王城の手前までしか行けなそうなステータスだ。
オタク君項垂れてる。めげずに頑張って!どこかで覚醒とかするかもよ!
王女さんが言うには、勇者達はしばらく王城で勉強や訓練をしてそのうち迷宮にレベル上げに行くらしい。
……この世界ダンジョンもあるの!?
意識して探してみるとすぐに見つかった。迷宮の中は空間が歪んでいるようで『時空の管理者』に引っかかるのだ。なるほど勇者達のいる王国の近くにも2つの迷宮があって1つは森の中にあって、様々な格好をした冒険者みたいな人たちがパーティーを組んだりして地面にポッカリと空いた穴の中へ進んでいく。もう1つは、王城の近くにあり、穴を囲うように統一された鎧を纏った兵士達が迷宮の内外を見張っている。勇者達が潜るのはこちらの迷宮なのだろう。ちょっと覗いてみよう。
1層はゴブリン
5層までゴブリンしか出ないなここ。
6層からはゴブリンに加え、狼やコボルトがたまにでてくる。
9層までは同じ。
10層にいるのは…二足歩行の牛だ。
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ミノタウロス。強靭な筋肉に包まれた牛の魔物。圧倒的な膂力で振り下ろされる斧は一撃で人間程度を粉砕する。肉は美味。
level: 20
skill: 筋力向上Ⅴ 斧術Ⅱ
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10層にはこいつ1体しかいないからボスモンスターって感じかな?20層にはとても広い部屋に、ガルーダという大きな鳥の魔物が1体だけ侵入者を待っていた。10層ごとにボスが待ち構えているのか。迷宮面白そうだな。この島のボスのあのドラゴン倒したら迷宮とか街とかにも行ってみようかな。
考え事している今も勝手に砲身がウルフという狼の魔物の群れに向けられ、機関銃が火を吹いた。《氷魔法》だから吹く火はないけど。最近は、ここしばらく森を探索しつつ魔物を倒していた。今も全滅させたウルフやその上位種、木に擬態したトレント、地中から飛び出す巨大モグラや、気配を消して背後から襲いかかる巨大蜘蛛など沢山の種類の魔物を見つけ次第、というか進むと自動で索敵した砲身が魔物の方を向いて弾をばら撒くので、俺自身は考え事をしながら進んでいただけだけれど。
今は森の中心部へ向かって進んでいる。中央へ進むほど魔物のレベルが上がり、ライフル弾1発では殺しきれなかった魔物がいたくらいだ。2発目で貫通させて殺したけれども、一瞬ヒヤッとした。その硬い魔物はこいつだ。
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フォレストスネイル。森の掃除屋と呼ばれるタニシの魔物。その殻はとてつもなく硬く、殻をいくら攻撃しても傷一つ付かないと言われるほどの強度を持つ。
level: 48
skill: 硬化Ⅸ 外殻Ⅸ 消化力向上Ⅴ
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スキルレベルが高すぎる。スキルレベルが9だとこちらも相当力を込めないと倒すことができないのだ。
このタニシは森をゆっくりと徘徊し、死んだ生物を下についた口で取り込んで消化してそれを栄養にして生きている。森の掃除屋と呼ばれるのも納得だ。殺すけど。
チューニングされて適切な威力を持ったライフル弾が背中の砲台から発射される。高速で飛んだ弾はタニシの殻を突き破り中身をズタズタにして役目を終えた。またレベルが上がったようだ。
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name: ハルカ・ドウジョウ
race: 玄武【時空種】
level: 36
skill:
『天眼』
『装甲』
『魔の理』
『水の支配者』『時空の管理者』
『異世界の思考』
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ステータスにはレベルくらいしか変わった点が無いが、新しくできたことも増えた。
まずは『装甲』に周囲の気配を感知する力が備わった。これで魔力だけでなく気配でも敵に対応できるようになれた。まあ『天眼』で周囲の違和感にはすぐに気づけるようになっているが。
あとこれは1番大きなことかもしれないが、以前《再現魔法》を手に入れていたのを覚えているだろうか?『時空の管理者』に取り込まれてはいるが、この前ふと、生前の姿を想像しながら魔法を使ってみると、なんと寸分違わず前世の人間の姿になれたのだ。全裸で。魔法を解くとパッと肌色の肉体が消えて亀のボディになった。これで街に行けるようになった。いつか人間の姿で勇者に会いに行って、地球での話を仄めかして自分は帝国で召喚された勇者と名乗って勇者達を動揺させたりと夢が広がるなあ。性格は悪くないですよ。
さあ気を取り直してどんどん魔物を殺してレベルを上げよう。レベルの上限がどこまでなのか分からないからな。予想では40レベルかなあと思っている。まだまだ遠い可能性もあるけど。
おっあれはスライムかな?グネングネン動いた赤い半透明をしたゲル状の物体が地面の上を蠢いている。
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エンペラーグラトニースライム。スライムの最終進化先の1つ。物理的なダメージの一切を受け付けず、コアを破壊しない限り再生し続ける。取り込んだ魔物の分だけ自身の力が増す。
level: 73
skill: 物理攻撃無効- 吸収Ⅸ 分裂- 再生Ⅸ 加速Ⅷ
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出会ったどの魔物よりもレベル高ぇー!物理攻撃無効を持っているということはお得意のライフルや機関銃も恐らく効かないだろう。久々に俺自身の力で闘うのか。どう魔法を使っていこうか。絶えずゲルの中を巡っている10センチ程の丸いコアを破壊するには…………
よし、何とかなるだろう。
俺は今まで隠れていた太い木の陰から抜け出し、スライムの後ろ(?)側から姿を見せた。
評価、ブクマありがとうございます!




