経緯
この世には、法で裁けない罪がある。その罪を侵した少年は、日々後悔の念に追われ、その事実から逃げていた。
…しい…
…苦しい…よ…
…助けて…たす…
(バッ!)
「ハァハァ………くっ…またかよ…。」
俺はまた、“あの”夢を見た。
あの夢を見る度に、俺は何度も何度も苦しめさせられる…。
「くそっ、早く忘れたい…。一刻も早く。」
俺は、そう願うしか無かった。
第1話:経緯
「おはよー、虔太。」
「あぁ、お早う永瀬。」
いつもと同じ朝の光景。
いつもと変わらぬクラスメート。
俺が、この街に来てから約半年が経った。
始めは、こっちでの暮らしに馴れるまでが大変だったけど、今になってようやく馴れてきたって感じだ。
この学校に編入してから、友達も数人程出来た。今では、笑い合う仲だ。
しかし、俺がこっちに来るまでの経緯はまだ誰にも話していない。いや、話したくないのが本音だろう。
「はい、じゃあ135ページを開いて下さい。」
普段通りの授業。
平和なクラス。
俺が、この高校に編入したのは、4月の半ばだった。
ここは、10年前に設立したばかりらしく、歴史が浅い学校である。
主な校則は、遅刻や頭髪・持ち物検査など、大抵の私立高校と同じだった。
「じゃあ…、四葉君。このページの三行目から読んで。」
「あ、はい。」
正直、この学校に転入出来て俺はようやく安堵している。もう二度と、あんな所に居たくなかった。
あの場所へは、二度と帰らない。
放課後、俺はいつも一緒に帰っている永瀬と数人で、教室の床を箒で掃いていた。
「どうした、虔太? お前、今日一日中さ、顔色がずっと悪かったぞ?」
「そうか? 心配してくれてありがとな。」
「いやいや、ただお前がいつもと違っていたなと感じただけさ。」
「すまんな、永瀬。」
永瀬 和秋は、俺がこの学校に来て最初に俺へ声を掛けてきてくれた奴だった。いつも明るく気さくな彼は、どうやらクラスのムードメーカー的な存在らしい。俺も、彼が相手なら話がしやすい。
「さぁて、全部掃いちまったから、さっさと片付けて終わりにすっか!」
「そうだな。」
「ゴミ捨ては女子達がやってくれるらしいから、俺達は先に帰ろうぜ。」
「あぁ。」
都会の高校と郊外の高校とでは、随分違う。
空気もよどんでなく、騒音もあまり無く、快適だ。
この高校の先生方も大抵おおらかで、嫌な先生など居ない。
この街での生活は、俺にとって有意義な時間になる…、筈だった。
翌朝、朝のHRの時だった。担任から来週、また新たに1人編入する話を聞かされた。
「先生、そいつは男ですか? 女ですか?」
永瀬が、大きな声で質問した。担任はため息をつき、少々呆れ気味に言った。
「お前は高2にもなって、まだそんな事を聴くのか?」
「高2だからこそ、転入生は気になりますよ。」
永瀬が食い気味に答えると、担任はやれやれとした表情を浮かべながらこう言った。
「はぁ…、まったく。 そうだ、女子だ。 東京の都立羽栄学園高校からこの学校に来る。皆、仲良くしてやってな。」
(っ?! は、羽栄学園だと?)
「マジかよ?女子だ、女子!」
永瀬は、喜びを前面に出しながら教室中を走り回った。皆、その姿に大笑いしていた。
(くっ…、今更なんなんだよ。 あれは、もう終わった事だ。俺は、苦しまなくて良い筈だ。なのに、何故…。)
俺は、気分が悪くなり学校を早退した。