第46話:勇者選定祭、受付開始!
本日六話です(これで今日はラスト)
――数日後。
そういえば、この数日の間に。
前にコハクが人の姿になった時、
「先に言ってよ!」
と《暁ノ華嵐》のみんなに言われたので、今回はちゃんと先に説明しておいた。
シロは今の小さな姿だけじゃなく、みんなを背中に乗せられるくらい大きくなれること。
ユキは猫の姿と、人の姿を行き来できること。
最初はみんなかなり驚いていたけど、少しすると、
「……まあ、ユズちゃんだし」
みたいな感じで納得されてしまった。
なんか解せない。
そんなこともありつつ。
《勇者選定祭》の話が出てから、街では来訪者用の区画づくりが少しずつ始まっていた。
クロエたちは外側の土地を確認して、どこまでを来訪者向けにするか決めている。
ネフィエラたちは宿泊場所で使う布や寝具について話し合っていて、メリエルたちは食事を出す場所ができた時のために、保存しやすい食材や料理を考えているらしい。
「ほんとに、私が何もしなくても進んでる……」
少し離れた場所からその様子を眺めながら呟くと、隣にいたコハクが呆れたように尻尾を揺らした。
『お主が何もしなくても、という言い方はどうかと思うがの』
「でも私、何も指示してないよ?」
『皆、自分で考えて動ける者たちじゃからな』
「すごいね!」
『お主が感心する側なのか……』
よく分からないけど、ちゃんと進んでいるなら良いことだ。
私はそのまま視線を街から手元へ戻す。
今考えているのは、王都へ行く時に何を持っていくか。
「やっぱりシロたちのご飯は多めにいるよね」
「わふっ!」
名前を呼ばれたと思ったのか、シロが元気よく尻尾を振る。
「あと、おやつも!」
「わふ!」
「ユキの分も!」
「にゃあ」
「コハクは?」
『妾は別に何でもよい』
「ほんと?」
『うむ』
「じゃあ王都で美味しいもの探そう!」
『結局そこに行き着くのじゃな』
だって、せっかく初めて王都へ行くんだから。
お祭り。
屋台。
お店。
珍しい食べ物。
それに、まだ見たことのない魔物。
考えるだけでも楽しい。
『……お主』
「なに?」
『まだ本戦までかなり先じゃぞ』
「分かってるよ!」
『本当か?』
「分かってる!」
……たぶん。
そんなことを話しながら、何となくメニューを開いた時だった。
「あれ?」
《フレンド》の項目に、小さな新着表示が付いている。
「シフォンちゃんからだ」
開いてみる。
《勇者選定祭の参加受付、始まったよ》
「もう!?」
『何がじゃ』
「大会の受付!」
『ほう』
私はすぐに《イベント》を開く。
前まで《受付開始前》になっていた部分が変わっていた。
《大型イベント》
《勇者選定祭》
《参加受付中》
「ほんとだ!」
いよいよ始まるらしい。
まだ予選そのものじゃないけど。
それでも、今まで説明を読んでいただけだったものが、本当に動き始めた感じがした。
◇
「受付始まった!」
「知ってるよ」
少しして。
また街へやって来た《暁ノ華嵐》のみんなを見つけるなりそう言うと、シフォンちゃんが笑った。
「その連絡したの私だからね」
「あ、そっか」
「ユズちゃん、相変わらずだねえ」
ハルカちゃんも楽しそうだ。
「みんなもう申し込んだの?」
「私はした」
ミオちゃんが即答する。
「早い!」
「受付始まってすぐ」
「そんなに!?」
「クロネも」
シフォンちゃんがクランチャットを確認する。
「たぶん開始直後」
「やっぱり!」
「『申し込んだ』って一言だけ来た」
「クロネちゃんらしい!」
「私も済ませたぞ」
アカネちゃんも腕を組みながら言う。
「おー!」
「出ると決めていたからな。迷う理由もない」
「みんな早いなあ」
「ユズは?」
ミオちゃんが聞いてくる。
「出ないよ!」
「知ってる」
「じゃあ聞かないでよ!」
「一応」
「一応でも出ない!」
ここは変わらない。
私が出るのは大会じゃなくて、応援する方だ。
「そういえば」
私はシフォンちゃんとライラちゃんを見る。
「二人はどうするか決めた?」
「私は決めたよ」
シフォンちゃんが先に答えた。
「今回は出ない」
「出ないんだ?」
「うん」
少し意外だった。
「やっぱり迷ってたから?」
「それもあるけどね」
シフォンちゃんは少し考えるようにしてから続ける。
「今回は個人戦中心だし、ミオたちも出るから、私は外から見てる方がいいかなって」
「外から?」
「応援したり、情報まとめたり。あと、みんなの試合も見たいし」
「じゃあ私と同じ!」
「ユズちゃんは理由がちょっと違う気がするけど」
「応援するのは同じだよ!」
「それはそうだね」
シフォンちゃんも今回は観戦側らしい。
それなら一緒に応援できる。
「ライラちゃんは?」
「私は出ることにした」
「おー!」
今度は参加するらしい。
「決めたんだ!」
「うん」
ライラちゃんが頷く。
「やっぱり、二次予選まで行けたら自分の索敵とか隠密がどこまで通用するのか試してみたいから」
「本戦は?」
「そこまで行けたら、その時考える」
「じゃあ本戦まで行こう!」
「簡単に言うね」
「でもライラちゃんなら行けそう!」
「期待が重い」
そう言いながらも、少しだけ笑っていた。
「じゃあ」
私は指を折りながら数える。
「クロネちゃん、ミオちゃん、アカネちゃん、ライラちゃん!」
「うん」
「四人!」
「四人だね」
「応援する人増えた!」
「それ、前は『三人くらいなら大丈夫』って言ってなかった?」
「あ」
言った気がする。
「四人なら……」
「なら?」
「まだ大丈夫!」
「何が基準なんだろうね……」
シフォンちゃんが苦笑していた。
◇
「そういえば」
エリスちゃんがイベントページを開きながら言う。
「参加者数、見られるみたい」
「ほんと!?」
「ほら」
私はすぐ横から覗き込む。
そこには参加受付中の文字と一緒に、現在の登録者数が表示されていた。
「……増えてる」
「うん」
「今また増えた!」
「受付始まったばかりだからね」
「また!」
見ている間にも数字がどんどん変わっていく。
「これ全部、日本サーバー?」
「そうだよ」
「多っ!」
前に八千人と聞いた時。
私はそれでも多いと思っていた。
でも。
「これ見たら八千人って少ないね……」
「そういうこと」
エリスちゃんが頷く。
「参加受付が終わる頃には、かなりの人数になると思う」
「みんな勇者になりたいの?」
「全員がそうとは限らないんじゃない?」
ハルカちゃんが横から言う。
「大会だからとりあえず参加する人もいるだろうし」
「一勝したいとか」
「自分がどこまで行けるか試したいとか」
「お祭りだから出るとか」
「なるほどー」
確かに。
全員が本気で勇者を目指しているとは限らない。
私みたいに出ない人もいる。
逆に、とりあえず遊んでみたい人だっているんだろう。
「一次予選って、受付終わったらすぐ?」
「少し間はあるみたい」
シフォンちゃんが日程を確認する。
「そのあと期間制のレート戦が始まる」
「みんな、その時はここから参加できるんだよね?」
「できるよ」
「王都行かなくていい?」
「まだ行かなくていい」
「じゃあ応援もここから?」
「観戦空間に入ればね」
「そっか!」
つまり。
まだ王都へ行くのは先だけど、大会自体はもうすぐ始まる。
「じゃあ私、みんなの試合登録しとこう!」
「登録?」
「見逃さないように!」
「ああ」
シフォンちゃんが何か思い出したように頷く。
「観戦機能に《注目プレイヤー登録》あるよ」
「それ!」
私はすぐに探す。
「あった!」
説明には、登録したプレイヤーの対戦が始まる時に通知を受け取れると書いてある。
「便利!」
「ユズちゃん」
「うん?」
「通知」
「……あ」
シフォンちゃんがじっと私を見る。
「切ってるでしょ」
「切ってる」
「やっぱり」
「でもこれなら……」
設定を確認する。
「あ!」
「どうしたの?」
「イベント通知だけオンにできる!」
「それなら大丈夫だね」
「これにする!」
私は迷わず《イベント通知》だけをオンにした。
これなら普通の通知は今まで通り出てこない。
「じゃあ、クロネちゃん、ミオちゃん、アカネちゃん、ライラちゃん!」
四人を順番に登録する。
「できた!」
「これで試合始まったら分かるね」
「全部見る!」
「一次予選、対戦数かなりあると思うよ?」
「……できるだけ見る!」
「少し弱くなった」
「でも応援する!」
そこは大事だ。
◇
「大会始まるなら」
私はイベントページを閉じる。
「王都行く準備もしないと!」
「だから」
シフォンちゃんがすぐに止める。
「本戦まではまだ先だって」
「分かってるよ!」
「ほんとかなあ」
「でも準備は早い方がいいでしょ?」
『それについては妾も同意じゃな』
「コハク!」
私は嬉しくなって振り返る。
「ほら!」
「そこだけ切り取らないで」
『旅の支度というものは、余裕を持って行うに越したことはない』
「だよね!」
『ただし、お主の場合は必要以上に早すぎる気もするが』
「むー」
味方だと思ったのに。
「そういえばユズちゃん」
ライラちゃんが聞く。
「王都って《転移》では行けないよね?」
「うん!」
私は即答する。
「行ったことないから無理!」
「やっぱり」
《転移》で行けるのは、私が一度行ったことのある場所だけ。
だから王都アステリアには、最初だけ自分で行かないといけない。
「じゃあどうやって行く?」
ハルカちゃんが楽しそうに聞いてくる。
「シロに乗る!」
「即決!?」
「だって速いよ!」
「まあ成体になればかなり速いだろうけど……」
シフォンちゃんが少し考える。
「ずっと乗っていくつもり?」
「ダメ?」
「ダメとは言わないけど、せっかく初めて王都まで行くなら途中の町とか寄ってもいいんじゃない?」
「途中の町?」
「うん。街道沿いにいくつかあるよ」
「お店ある?」
「あると思う」
「美味しいものは?」
「あると思う」
「魔物は?」
「それは知らない」
「行く!」
「決まるの早いなあ……」
でも。
確かに。
王都へ行くだけじゃなくて、その途中にも知らない場所がある。
「じゃあ普通に旅しながら行こうかな!」
『それもよかろう』
「コハクも?」
『妾とて、外の世界を実際に見る機会はそう多くなかったからの』
「あ!」
そうだった。
コハクは知識はいっぱいあるけど、実際に外を見た経験は少ない。
「じゃあ一緒にいろいろ見よう!」
『うむ』
「ユキも!」
「にゃあ」
「シロも!」
「わふっ!」
「楽しみ!」
王都までの道中。
それも旅行の一部になるらしい。
「……ユズちゃん」
「なに?」
「大会」
「あ」
「忘れてない?」
「忘れてないよ!」
たぶん。
◇
少しして。
《暁ノ華嵐》のみんなはまた自分たちの拠点へ戻ることになった。
「じゃあ、うちから参加するメンバーはこれで決まりかな」
シフォンちゃんが確認する。
「クロネ、ミオ、アカネ、ライラが参加」
「うん」
「私は不参加」
「うん!」
「他のみんなも今のところ予定通り観戦側」
「じゃあ応援組いっぱいだね!」
「そうだね」
「頑張ってね!」
私は、その場にいる参加者三人を見る。
クロネちゃんはいないけど、あとでメッセージを送っておけばいい。
「任せて」
ミオちゃん。
「まずは一次予選だな」
アカネちゃん。
「できるだけ上まで行ってみる」
ライラちゃん。
「みんな本戦まで行けるよ!」
「また言ってる」
「行ける!」
「分かった分かった」
シフォンちゃんが笑う。
そして、みんなが帰ったあと。
私は改めて《イベント》を開いた。
そこには。
《《勇者選定祭》参加受付中》
《第一次予選開始まで――》
という表示。
「……いよいよ始まるんだね」
「わふ」
「にゃあ」
『そうじゃな』
世界中で。
たくさんの人が参加する大きなお祭り。
その先では《勇者》が決まって。
その勇者には《魔王城》へ向かうための地図が渡されて。
そこから《邪神》の攻略が進むかもしれない。
たぶん。
すごく大事なイベントなんだと思う。
「よし!」
『何じゃ』
「王都で食べたいもの調べよ!」
『……』
「コハク?」
『お主は本当に、最後までそっちなのじゃな』
「だって楽しみだもん!」
私は笑いながら、もう一度イベントページを閉じた。
大会が始まるまで。
まだ少しだけ時間がある。
だったらその間に。
いっぱい準備しておこう。
大会の応援も。
初めての王都旅行も。
どっちも楽しむために。
次話の投稿はだいぶ先になりますので楽しみにお待ち頂けたら幸いです。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。
宣伝ですが、戦闘描写の練習も兼ねて、新しくVRMMO作品の連載を始めました!
タイトルは
『伝説の殺人鬼、脱獄してVRMMOにハマる
~現実世界で殺し尽くして飽きたので、今度は魔王になって異世界を滅茶苦茶にしようと思います~』
です。
伝説の少女殺人鬼が、VRMMOで吸血鬼の少女になって好き放題するお話です。
こちらは『もふもふ召喚士』とはかなり雰囲気が違い、戦闘多め・主人公もだいぶ危険なタイプになっています。
基本的にはこれまで通り『もふもふ召喚士』の連載を中心に続けていきます。
新作の方は、今のところ気分転換や戦闘描写の練習として、たまに更新していく予定です。
もし好評でしたら、こちらも少しずつ連載を続けていこうと思っています。
興味のある方は、以下のURLからご覧ください!
https://ncode.syosetu.com/n1160mx/
ちなみに脱獄魔王の主人公の立ち絵は以下のような感じです。




