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もふもふ召喚士の自由気ままなVRMMO冒険記 ~可愛い魔物を集めていたら、いつの間にか最強の魔物国家ができていました~  作者: 黒海苔
第2章:魔物達の居場所

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第30話:この子だけ別のゲームをしてない?

これでシフォン視点は終わりです。

 魔の森、その中心近く。


 無数の魔物たちが暮らし、道があり、水路があり、畑があり、家まで建ち始めている場所。


 その中心人物として名前を聞かされていた《ユズ様》。


 《暁ノ華嵐》の八人が想像していたのは、少なくとも普通の少女ではなかった。


 強大な魔物を従える女王。


 魔物たちから絶対的な信頼を寄せられる支配者。


 あるいは、人間の姿をしているだけの高位NPC。


 そんな存在を、誰もが何となく思い描いていた。


 けれど。


「ユズ様だ」


 ゼルフィナが示した先にいたのは、淡い紫色の長い髪を揺らす一人の少女だった。


 白とラベンダーを基調にした可愛らしい装備。大きめの袖に、フリルやリボン。


 とてもではないが、ここまで見てきた魔物たちの頂点に立つ存在には見えない。


「…………」


 八人が揃って足を止めた。


 ちょうどその時、少女がこちらに気づく。


「ん?」


 ぱっと表情が明るくなった。


「あ、こんにちはー!」


「…………」


 誰も返事をしなかった。


 シフォンも、ハルカも、アカネも、セレナも。


 ミオも、ライラも、エリスも、モモカも。


 揃って、何も言えなかった。


「……?」


 ユズが不思議そうに首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや……」


 ようやくシフォンが口を開いた。


「えっと、ユズ……ちゃん?」


「うん!」


 即答だった。


 普通。


 あまりにも普通。


 少なくとも、八人が勝手に想像していた《ユズ様》とは、かなり違っていた。


「えっと……」


 シフォンは気を取り直して、一番気になっていたことを聞いた。


「ユズちゃんって、プレイヤー?」


「そうだよ?」


「…………」


 八人が、また止まる。


「……プレイヤーなの!?」


 ハルカが思わず声を上げた。


「うん?」


 ユズは逆に不思議そうにする。


「みんなもそうでしょ?」


「そうだけど!」


「じゃあ一緒だね!」


「一緒……?」


 ハルカは思わず周囲を見回した。


 巨大蟻。


 蜘蛛。


 蜂。


 小型魔物。


 家。


 水路。


 畑。


 工房。


 倉庫。


 そしてアラクネの護衛。


「……一緒?」


「何が?」


「いや」


 シフォンは思わず笑ってしまった。


「何でもない」


 もちろん、何でもないわけではない。


 どう考えても、何かがおかしい。



 ◇



「それで、もう一つ聞いてもいい?」


 シフォンが気を取り直して続ける。


「なんで“ユズ様”って呼ばれてるの?」


「それ!」


 今度はユズの方が勢いよく食いついた。


「私も分かんないの!」


「……え?」


「普通にユズでいいよって言ってるんだけど、なぜかみんなユズ様って呼ぶんだよね」


「当然だろう」


 横からゼルフィナが口を挟む。


「何で!?」


「ユズ様はユズ様だからだ」


「説明になってないよ!」


 ユズが少し頬を膨らませる。


 その姿は、どう見ても王には見えない。


 少なくとも、本人にそういう自覚がないことだけはよく分かった。


「じゃあ」


 シフォンが笑う。


「私たちはユズちゃんって呼んでもいい?」


「うん! その方がいい!」


「分かった。じゃあ改めて、よろしくね。ユズちゃん」


「うん! よろしく!」


 その横で、ゼルフィナが少しだけ複雑そうな顔をしていたが、特に何も言わなかった。



 ◇



「ねえ」


 今度はハルカが周囲を見回しながら聞いた。


「ここって、ユズちゃんが作ったの?」


「私が?」


 ユズは少し考える。


「うーん……作ったっていうより、みんなで作った?」


「みんなで?」


「うん」


 ユズは周囲へ視線を向けた。


 建築中の家。


 働く蟻たち。


 布を運ぶ蜘蛛。


 花畑や果樹。


 忙しそうに飛び回る蜂たち。


 道端では、小型魔物たちが元気に走り回っている。


「最初は、みんなが安心して住める場所があったらいいなーって思って。それで少しずつ増えて、気づいたら……」


 ユズは両手を広げた。


「こんな感じ!」


「……気づいたら?」


 エリスが聞き返す。


「うん!」


「道路、あるよ?」


「あるね!」


「水路」


「ある!」


「畑」


「ある!」


「倉庫」


「あるよ!」


「工房」


「ある!」


「……」


 エリスは少し黙り込んだ。


「全部ある」


「便利だよ!」


「そういう話ではないと思います」


 セレナが小さく笑う。


「?」


 ユズは本気で分かっていない顔をしている。


「……これ」


 アカネが周囲を見ながら言った。


「普通に町じゃねえの?」


「町?」


 ユズはまた首を傾げる。


「町なのかな?」


「聞かれても困るんだけど」


 アカネは苦笑した。


「自分のとこだろ?」


「でも、みんなで住んでる場所だよ?」


「それを一般的には町って呼ぶと思う」


 エリスが淡々と答える。


「そうなの?」


「多分」


「へえー」


「反応軽いな」


 アカネが笑う。


 その時だった。


「ユズ様」


 後ろから声がかかる。



 ◇



「クロエ!」


 歩いてきたのは、黒と赤を基調にした人型の女性だった。


 整った姿勢と、真面目そうな表情。


「先ほどゼルフィナから、人間の客人が来たと聞きました」


「うん!」


 クロエは《暁ノ華嵐》の八人を見る。


「初めまして。私はクロエ。蟻たちをまとめています」


「……蟻?」


 ハルカが目を瞬く。


「女王蟻のクロエだ」


 ゼルフィナが補足した。


「女王!?」


「はい」


 クロエは平然と答える。


 その直後。


「まあ、こちらの方々ですの?」


 今度は柔らかな声が聞こえた。


 蜘蛛を思わせる意匠を身につけた、上品な雰囲気の女性がこちらへ歩いてくる。


「ネフィエラ!」


「ごきげんよう。わたくしはネフィエラ。蜘蛛たちをまとめておりますの」


「……女王蜘蛛?」


 エリスが確認する。


「そうですわ」


「二人目……」


 ハルカが呟く。


「女王が二人」


「ねーねー!」


 さらに明るい声が割り込んできた。


「お客さんってこの人たち?」


 楽しそうに近づいてきたのはメリエルだった。


「メリエル、来たんだ!」


「気になったからー。わたしはメリエル。蜂のみんなをまとめてるよ!」


「……」


 シフォンは一度目を閉じ、それからゆっくり開いた。


「女王、三人?」


「そうだよ!」


 ユズは笑顔で答える。


 何がおかしいのか、まるで分かっていないらしい。


 クロエ、ネフィエラ、メリエル。


 三人とも自然にユズの近くへ集まる。


「ユズ様。お客様への説明でしたら、私も同席しましょう」


「わたくしも」


「わたしもー」


「……」


 八人がまた黙った。


「どうしたの?」


 ユズが首を傾げる。


「いや……」


 シフォンは少し迷ってから聞いた。


「ユズちゃん、本当に何したの?」


「え?」


 ユズは真顔で答える。


「何も?」


「何も……」


 ハルカが周囲を見回す。


「これで?」


「うん?」


 今度ばかりは、誰もすぐに突っ込めなかった。



 ◇



「じゃあ、これも聞いていい?」


 シフォンは、ずっと気になっていたもう一つの質問を口にした。


「ここって、国なの?」


「国?」


 ユズは即座に首を振る。


「違うよ?」


「違うんだ」


「うん。みんなで住んでるだけ!」


「……」


 シフォンはクロエを見る。


 クロエは、少しだけ目を逸らした。


 ネフィエラは口元に微笑みを浮かべ、メリエルは楽しそうにしている。


「クロエ?」


「……」


「どう思う?」


 クロエはしばらく考えてから、真面目な顔で答えた。


「現状、国家制度が整っているわけではありません。ですので、ユズ様の言うことも間違いではありません」


「言い方めちゃくちゃ含みあるんだけど」


 ハルカが突っ込む。


「ですが」


 クロエはそのまま続けた。


「今後も住民が増え続けるのであれば、規則、役割、管理……そういったものは必要になるでしょう」


「ほら!」


 ハルカがユズを見る。


「国じゃん!」


「まだじゃない」


 ユズ。


「まだって言った!?」


「え?」


「無意識!」


 シフォンが笑う。


 ネフィエラも、くすくすと楽しそうに笑った。


「ユズ様らしいですわ」


「本人だけ全然気づいてないもんねー」


 メリエルまで続ける。


「何が!?」


「ふふ」


「教えて!」


「そのうち分かりますわ」


「ずるい!」



 ◇



「そうだ。もう一つ」


 シフォンが思い出したように言う。


「なに?」


「ここって、私たち以外のプレイヤーが来ても大丈夫?」


 その質問に、クロエ、ネフィエラ、メリエル、ゼルフィナの表情がわずかに変わった。


 外部の人間を受け入れる。


 それは当然、慎重に考えるべき問題だった。


 けれどユズは、ほとんど迷わなかった。


「うん!」


「ユズ様」


 クロエが思わず声をかける。


「ただ」


 ユズは続けた。


「みんなに危害を加えないなら、来たかったら来ていいよ!」


 そして、いつものように笑う。


「人がたくさんいた方が楽しいし!」


「……」


 クロエは額に手を当てた。


「ユズ様。最低限、決まりは必要です」


「決まり?」


「住民への攻撃禁止。無断で物を持ち出さないこと。立入禁止区域。それ以外にも、来訪者が増えるのであれば、いくつかルールを定める必要があります」


「じゃあ、クロエに任せる!」


「……」


「お願いします!」


 ユズが笑顔で頭を下げる。


「……承知しました」


 クロエの表情に、わずかに疲れが見えた。


「クロエ、また仕事が増えましたわね」


 ネフィエラが楽しそうに言う。


「あなたも手伝ってください」


「もちろん」


「メリエルも」


「えー」


「えー、ではありません」


「はーい」


 その一連のやり取りを、《暁ノ華嵐》は黙って見ていた。


「……本当に、普通に生活してるんですね」


 セレナが穏やかに呟く。


「ね!」


 ユズは嬉しそうに頷いた。


「みんな仲良しだよ!」


 セレナは周囲を見渡し、柔らかく笑った。


「そうみたいですね」



 ◇



「でも」


 シフォンは少し困ったようにユズを見る。


「ユズちゃん」


「なに?」


「みんな来ていいって言っても、ここまで来るのかなり大変だよ?」


「そうなの?」


「……」


 八人がまた止まった。


 シフォンは聞き間違いかと思って、思わず繰り返す。


「そうなの?」


「うん。私、ノアちゃんに連れてきてもらったから」


「…………」


「ノアちゃん?」


「友達!」


「……そっか」


 これ以上、新しい情報を増やすのが少し怖くなってきた。


「ここ、魔の森の中心近くだよ?」


 シフォンがそう言うと、今度はユズの方が首を傾げた。


「魔の森?」


「…………」


「知らない?」


「この森、魔の森っていうの?」


「……うん」


「へえー! 初めて知った!」


「…………」


 ハルカが無言でシフォンを見る。


「この子、何も知らないんじゃ……」


「しっ」


 シフォンは苦笑した。


「その辺は後で説明するから。とりあえず、普通のプレイヤーが簡単に来られる場所じゃないの」


「そうなんだ」


 ユズは少し考える。


「じゃあ、来られた人だけ遊びに来ればいいんじゃない?」


「……それ」


 アカネが頬を掻く。


「多分、日本サーバーでもほんの一部だぞ」


「じゃあ、もっと頑張って来てもらう?」


「軽い!」


 ハルカが思わず声を上げる。


「頑張ってで来れる場所じゃない!」


「?」


 ユズはやっぱり分かっていなかった。



 ◇



「そうだ」


 シフォンが今度こそ思い出したように言う。


「ユズちゃん。さっきまでね、私たち配信してたの」


「配信?」


「うん。この森を攻略するところ」


「あ!」


 ユズの表情が少し明るくなる。


「配信! 見るの好き!」


「それでね」


 シフォンは続ける。


「ここも配信していい? この場所とか、ユズちゃんとか」


 ユズは一瞬だけ考えた。


「いいよー!」


「即答なんだ」


「うん!」


 けれど、その直後。


「ただ、みんなが嫌がるところは映さないでね?」


 シフォンは少し目を細め、それから笑った。


「もちろん。勝手に家の中とか撮ったりしないよ」


「なら大丈夫!」


「クロエたちは?」


 シフォンが確認すると、クロエは少し考えてから答えた。


「ユズ様がお許しになるのであれば、私は反対しません。ただし、防衛上見せられない場所はあります」


「了解」


「わたくしも構いませんわ」


「わたしもー」


「なら」


 シフォンは配信メニューを開いた。


「再開しよっか」



 ◇



 配信開始。


 《きたあああああああ!》


 《戻った!》


 《遅い!》


 《ユズ様は!?》


 《中入れた!?》


 《街どうだった!?》


 《早く見せろ!》


「はーい、お待たせしましたー!」


 シフォンがカメラへ手を振る。


 《待った》


 《待ちすぎた》


 《ユズ様》


 《ユズ様はよ》


「向こうの許可もちゃんともらえたので、ここから配信再開しまーす!」


 《うおおおお》


 《街映せ!》


 《ユズ様!》


「あと」


 シフォンは横にいるユズへ視線を向ける。


「みんながずっと気にしてたユズ様なんだけど」


「様!?」


 ユズが勢いよく反応した。


「ほら! また様って呼ばれてる!」


「もう定着してるみたい」


「なんで!?」


 シフォンは笑いながらカメラをユズへ向ける。


「この子です」


「え?」


 ユズはとりあえず手を振った。


「こんにちは?」


 《…………》


 《…………え?》


 《この子?》


 《紫髪の子だ》


 《さっき遠くに見えた子》


 《人間?》


 《女の子?》


 《NPC?》


「ちなみに」


 シフォンは、わざと少し間を置いた。


「プレイヤーです」


 《は?》


 《は????》


 《プレイヤー!?》


 《ファーーーーwwww》


 《待て待て待て》


 《魔物の町の中心がプレイヤー!?》


 《魔物から様付けされるプレイヤーって何したの???》


 《意味分からん》


 《日本鯖どうなってる》


「えっと……」


 大量に流れていくコメントを見ながら、ユズは少し困った顔をする。


「ユズです! よろしくお願いします!」


 《軽いwww》


 《説明それだけ!?》


 《ユズ様もっと説明して》


 《何者なんだ》


「何者って……」


 ユズは少し考える。


「召喚士?」


 《は?》


 《召喚士!?》


 《また情報増えた》


 《召喚士でどうやったらこうなるんだ》


 《この子だけ別のゲームしてない?》


「……」


 シフォンはそのコメントを見つけ、改めて周囲を見渡した。


 魔物。


 道。


 家。


 三人の女王。


 そして、その全てを大したことだと思っていないユズ。


「……うん」


 少し考えてから頷く。


「ちょっと分かるかも」


「何が?」


「何でもないよー」



 ◇



「じゃあ」


 シフォンは視聴者にも分かるよう、改めて同じことを聞いた。


「ユズちゃん。ここ、国なの?」


「違うよ?」


 即答だった。


 《え?》


 《違う?》


 《じゃあ何》


「みんなで住んでるだけ!」


 《??????》


 《いやいやいや》


 《道路あるぞ》


 《水路あるぞ》


 《畑あるぞ》


 《家あるぞ》


 《倉庫あるぞ》


 《女王三人いるぞ》


 《それを国って言うんだよ》


「国じゃないよー」


 ユズは笑いながら否定する。


「だって、みんなで楽しく住めたらいいなーって思ってるだけだもん」


 《この子マジか》


 《本人だけ自覚ない》


 《ユズ様やべえ》


 《魔物国家作ってる自覚ゼロ》


 《この子だけ別のゲームしてない?》


 コメントは流れ続け、まるで止まる気配がない。


 シフォンはその横で、楽しそうに住民たちを見るユズへ目を向けた。


 そこに支配者らしい威圧感はない。


 王として振る舞っているわけでもない。


 少なくとも、本人はそんなつもりなど一切ないのだろう。


 ユズがこの場所を作ろうと思った理由は、たった一つ。


 魔物たちが安心して暮らせる居場所が欲しかった。


 ただ、それだけだった。



 ◇



 配信が少し落ち着いた頃。


「ユズちゃん」


 シフォンが、最後にもう一度だけ聞いた。


「なに?」


「本当に、国じゃないの?」


「うん!」


 ユズは一切迷わず、満面の笑顔で答えた。


「みんなで住んでるだけだよ!」


 その答えを聞いて、シフォンは少しだけ笑った。



 この場所が、これからどれだけ大きくなっていくのか。


 いつか本当に“国”と呼ばれる場所になるのか。


 それを、この時点で知っている者は誰もいない。



 もちろん。



 ユズ本人も。



 自分が何を作り始めているのか。



 まだ、まったく気づいていなかった。

これで二章は終わりです。幕間を挟んでから三章に入ります。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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