第15話:古龍の加護
「よーし!」
私は。
改めて。
目の前に広がる森を見る。
ノアちゃんは帰っちゃったけど。
場所は決まった。
グラちゃんにも。
ここを使っていいって言ってもらえた。
それなら。
「次は!」
「わふ?」
「……?」
「なんじゃ?」
シロ。
ユキ。
コハク。
三人が。
私を見る。
「ここに住んでくれる魔物を探しに行こう!」
「わふっ!」
「……うん」
「早速か、お主」
「だって!」
私は。
周りを見回す。
「場所だけあっても、誰も住んでなかったら寂しいじゃん!」
「まあ、それはそうじゃが」
「それに!」
森を見る。
「ここって、魔物がいっぱいいるんでしょ?」
「そうみたいじゃな」
「じゃあ!」
「ここに住みたい子もいるかもしれない!」
「…………」
「よーし!」
さっそく。
森へ向かおうとした。
『待て』
「ん?」
後ろから。
低い声。
振り返る。
「グラちゃん?」
『お主』
「なに?」
『まさか、そのまま森へ入るつもりか』
「うん!」
『…………』
グラちゃんが。
黙った。
「どうしたの?」
『お主は』
「うん」
『この森に何がいるのか知っておるのか?』
「魔物?」
『…………』
「いっぱい!」
『そういう意味ではない!』
「え?」
グラちゃんが。
大きなため息みたいに。
鼻から息を吐く。
『この森には、強力な魔物が数多く棲んでおる』
「強力な?」
『うむ』
「へえー」
『…………』
「?」
『それだけか?』
「だって」
私は首を傾げる。
「魔物がいっぱいいるなら、探すにはちょうどいいよね?」
『なぜそうなる』
「だって、住んでくれる子を探すんだよ?」
「お主……」
コハクが。
頭を抱える。
「普通は“危険な魔物が多い”と聞けば、もう少し警戒するものじゃ」
「でも」
「なんじゃ」
「困ってる子もいるかもしれないし」
「…………」
「会ってみないと分かんないよ」
「……お主らしいと言えば、お主らしいが」
「でしょ?」
「褒めてはおらぬ」
「えー」
「……ユズ」
「ん?」
人の姿になっているユキが。
少し心配そうに。
森を見る。
「……強いの、いっぱい?」
『そうだ』
グラちゃんが答える。
『この場所には、我を恐れて近づかぬが』
「やっぱり!」
私は。
ぽんっと手を叩く。
「ここに魔物が入ってこなかったのって、グラちゃんがいたからなんだ!」
『今さら気づいたのか』
「セーフエリアだからだと思ってた!」
『…………』
「ノアちゃんが言ってたし!」
『あやつ……』
グラちゃんが。
何とも言えない顔をする。
「でも」
私は。
少し考える。
「グラちゃんがいるから、この場所は安全なんだよね?」
『そうなるな』
「じゃあやっぱり、住む場所にはぴったりだね!」
『…………』
「?」
『お主は本当に前向きだな』
「そう?」
『褒めておらぬ』
「コハクと同じこと言った!」
「一緒にするでない!」
『我も一緒にするな!』
「息ぴったりだね!」
「どこがじゃ!」
『どこがだ!』
やっぱり。
ちょっと似てる。
「…………」
でも。
森に強い魔物がいるなら。
「気をつけないとね」
『ようやく理解したか』
「じゃあ、危なそうな子がいたら逃げる!」
『…………』
「だめ?」
『いや』
グラちゃんが。
少し考える。
『それでは遅い可能性がある』
「そんなに?」
『お主はまだ弱いからな』
「うっ」
はっきり言われた。
「でもシロもいるよ!」
「わふ!」
『神狼であろうと、まだ幼い』
「ユキも!」
「……頑張る」
『月影猫も、まだ成長途中』
「コハク!」
「妾か?」
『九尾は――』
一瞬。
グラちゃんが。
コハクを見る。
『まあ、多少は戦えるだろう』
「多少とはなんじゃ!」
「コハク強いんだ!」
「当然じゃ!」
「じゃあ安心!」
「いや待て!」
『だから安心するな』
「ええー」
グラちゃんが。
また。
大きく息を吐く。
『まったく……』
「?」
『仕方あるまい』
「なにが?」
『お主が森で死なれては困る』
「…………」
「心配してくれてるの?」
『違う』
「え?」
『お主が死ねば』
「うん」
『あの鍋をまた食えなくなる』
「…………」
「そこ!?」
「やはり鍋につられておるではないか!」
コハクが。
すかさず叫ぶ。
『違う!』
「でも」
私は。
ちょっと笑う。
「それって、結局私のこと心配してくれてるんじゃない?」
『鍋の心配だ』
「同じようなものじゃない?」
『全く違う!』
「そうかなぁ」
『そうだ!』
「……ふふ」
ユキが。
小さく笑った。
「ユキまで笑っておる場合ではないぞ!」
「……でも」
「なんじゃ?」
「……グラちゃん、優しい」
『…………』
「ほら!」
「ユキもそう言ってる!」
『……好きに解釈せよ』
「やった!」
『なぜ喜ぶ』
すると。
グラちゃんが。
ゆっくりと。
巨大な頭を下げた。
「?」
『ユズ』
「なに?」
『我の加護をやろう』
「加護?」
「なに!?」
また。
コハクが。
私より先に反応した。
「コハク?」
「古龍の加護じゃと!?」
『うむ』
「そんな簡単に与えてよいものなのか!?」
『我が決めることだ』
「それはそうじゃが……」
コハクが。
信じられないみたいに。
グラちゃんを見る。
「そんなにすごいの?」
「すごいに決まっておろう!」
「へえー」
「反応が軽い!」
「だって加護って何?」
「そこからか!」
「えへへ」
『説明してやる』
「グラちゃん優しい!」
『話を聞け』
「はーい!」
グラちゃんの。
黄金色の瞳が。
少しだけ光る。
『我の加護を持つ者へ』
「うん」
『この森の魔物どもが、軽々しく牙を剥くことはなくなる』
「…………」
「ほんと!?」
『我の存在を知る者であれば、お主から我の気配を感じ取るだろう』
「グラちゃんの気配?」
『簡単に言えば』
一度。
グラちゃんが考える。
『我が認めた者だと分かる』
「おおー!」
『少なくとも』
グラちゃんが。
森の奥を見る。
『この森に棲む魔物程度であれば、大半はお主へ無闇に手を出さぬ』
「すごい!」
「この森の魔物程度……」
コハクが。
小さく呟く。
「どうしたの?」
「いや……」
コハクは。
森を見る。
「なんでもない」
「?」
『ただし』
「うん?」
『絶対ではない』
「そうなの?」
『理性を失った者』
『我を知らぬ者』
『あるいは、我の名など意に介さぬ者もおる』
「そっか」
『加護があるからといって、無茶はするな』
「はーい!」
『本当に分かったのか?』
「分かったよ!」
『……ならばよい』
そして。
グラちゃんの。
大きな顔が。
私のすぐ近くまで来る。
「わっ」
近い。
すっごく。
大きい。
『動くな』
「う、うん」
グラちゃんの額。
そこにある角の間から。
淡い黄金色の光が。
ふわっと。
溢れる。
「わぁ……」
その光が。
私を包んだ。
暖かい。
怖くない。
なんだか。
すごく。
安心する感じ。
そして。
《古龍グランヴェルの加護を授かりました》
「おおー!」
光が。
私の中へ。
ゆっくり消えていく。
「これで終わり?」
『うむ』
「なんか変わった?」
『すぐに分かるようなものではない』
「そっか」
「お主……」
コハクが。
私を。
じっと見ている。
「なに?」
「……確かに」
「?」
「グランヴェルの気配を感じる」
「ほんと!?」
「うむ」
ユキも。
私へ近づく。
「……ユズ」
「なに?」
すん。
すん。
「……ちょっと、グラちゃんの匂い」
『匂いではない!』
「え?」
「私、自分で分かんない」
「……少しだけ」
「へえー」
私は。
自分の服を嗅ぐ。
「全然分かんない!」
「そういう意味ではないと思うぞ、お主」
「難しい」
『まあよい』
グラちゃんが言う。
『これで、先ほどよりは安全に森を歩ける』
「ほんと?」
『うむ』
「じゃあ!」
私は。
森を見る。
「魔物のみんなを探しに行こう!」
「わふっ!」
「……うん」
「やはりすぐ行くのじゃな」
「もちろん!」
でも。
「…………」
森。
「…………」
広い。
すっごく。
広い。
「どうした、お主」
「これ」
「?」
「歩いて探すの大変じゃない?」
「今さら気づいたのか」
「だってさっきはやる気でいっぱいだったから!」
「考えてから動け!」
「うーん」
どうしよう。
森を歩いて。
ずっと。
魔物を探す。
何時間かかるんだろう。
「…………」
その時。
「わふ?」
目の前。
シロが。
私を見上げている。
「…………」
「わふ?」
「…………」
シロ。
「わふ?」
そういえば。
「あるじゃん!」
「わふ!?」
「何がじゃ?」
「移動手段!」
私は。
アイテムボックスを開く。
そして。
「じゃーん!」
取り出したのは。
《神狼の首輪》
「シロ!」
「わふ!」
「これ使お!」
「わふっ!」
シロも。
分かっているみたい。
嬉しそうに。
尻尾を振る。
「じゃあつけるね!」
私は。
シロの首元へ。
首輪をつける。
カチッ。
その瞬間。
ぱあっ!
「わっ!」
白銀色の光。
そして。
シロの身体が。
どんどん。
大きくなっていく。
脚が伸びて。
身体が大きくなって。
雪みたいな長い毛が。
風に揺れる。
首元には。
立派な鬣みたいな毛。
大きな尻尾。
青紫色の瞳。
淡い紫色の模様。
光が消える。
「わふっ!」
「おおー!」
何度見ても。
「かっこいい!」
「わふ!」
「でも」
シロの。
ふわふわな胸元へ。
ぎゅっ。
「やっぱりもふもふ!」
「わふー!」
「そこなのか、お主……」
「大事だよ!」
『…………』
グラちゃんが。
シロを見る。
『神狼か』
「シロだよ!」
『……そうか』
「?」
なんか。
グラちゃん。
さっきから。
シロを見るたびに。
難しい名前で呼ぶ。
「シロはシロだよ?」
『分かった』
「ならよし!」
『…………』
「グラちゃん?」
『いや、なんでもない』
「?」
まあいいか。
「シロ!」
「わふ!」
「背中乗ってもいい?」
「わふっ!」
シロが。
その場で。
ゆっくり伏せる。
「やった!」
私は。
背中へよじ登る。
「わぁ……」
高い!
そして。
「ふわふわ!」
「やはり最初にそれを言うのじゃな」
「だって本当にふわふわなんだもん!」
首元の毛を。
ぎゅっと掴む。
「これなら絶対落ちない!」
「わふ!」
シロも。
嬉しそう。
「ユキ!」
「……?」
「ユキも乗ろ!」
「……私も?」
「うん!」
「…………」
ユキが。
シロを見る。
大きいシロ。
そして。
私を見る。
「おいで!」
「……うん」
ユキは。
人の姿のまま。
そっと。
シロの背中へ登る。
私の後ろ。
「大丈夫?」
「……うん」
ユキが。
私の服を。
ぎゅっ。
と掴む。
「怖い?」
「……ちょっと」
「大丈夫!」
「……ユズがいるから」
「うん!」
そして。
「コハクも!」
「妾もか?」
「もちろん!」
「妾は自分で走れるぞ?」
「でも」
「なんじゃ」
「一緒に乗った方が楽しいよ!」
「…………」
「ね?」
「……お主は本当に、そればかりじゃな」
「楽しいの大事!」
「はぁ……」
コハクが。
ため息をつく。
「仕方ないのう」
「やった!」
ぽんっ。
人の姿のまま。
コハクも。
シロの背中へ。
ユキの後ろに乗る。
「狭くない?」
「これだけ大きければ十分じゃ」
「よかった!」
「わふ!」
「よし!」
前に私。
その後ろにユキ。
さらに後ろにコハク。
三人。
ちゃんと乗れた。
「…………」
私は。
シロの上から。
グラちゃんを見る。
「グラちゃんも来る?」
『行かぬ』
「えー」
『我まで動けば、この辺りの魔物が逃げる』
「あ」
「確かにのう」
コハクが頷く。
「グラちゃん、そんなに怖いの?」
『…………』
「私はもう怖くないけど」
『それはお主がおかしい』
「ええ!?」
「そこは否定できぬのう」
「コハクまで!」
「……ユズだから」
「ユキ!?」
なんか。
みんなに。
変な子扱いされている気がする。
『それに』
「?」
『我は眠い』
「あ」
そうだった。
「じゃあ寝てていいよ!」
『言われずともそうする』
「帰ってきたら鍋作るね!」
『…………』
「食べる?」
『……起きていたらな』
「絶対起きるじゃん!」
『やかましい』
「ふふ」
やっぱり。
鍋。
好きなんだ。
「じゃあ!」
私は。
シロの首元の毛を。
しっかり掴む。
「シロ!」
「わふ!」
「お願い!」
「わふぅっ!」
シロが。
ゆっくり立ち上がる。
「わっ!」
「……高い」
「お主、落ちるでないぞ」
「大丈夫!」
目の前には。
どこまでも。
森。
知らない場所。
知らない魔物。
きっと。
私たちが。
まだ出会っていない子が。
たくさんいる。
「…………」
なんだか。
すっごく。
楽しみ。
「よし!」
私は。
森の奥を指差した。
「それじゃあ!」
シロ。
ユキ。
コハク。
「みんな!」
「わふっ!」
「……うん」
「うむ!」
「魔物たちを探しに行こう!」
「わふぅっ!」
次の瞬間。
シロが。
大きく。
地面を蹴った。
「わあああっ!?」
速い!
木々が。
どんどん。
後ろへ流れていく。
風が。
頬を抜ける。
「速いー!」
「……ユズ、落ちる」
「大丈夫!」
「お主! もっとしっかり掴まっておれ!」
「掴まってるよー!」
「本当か!?」
「わふー!」
「シロも楽しそう!」
「速度を上げさせるでない!」
「えー!」
笑い声と。
シロの鳴き声が。
森の中へ響いていく。
こうして。
私たちは。
魔物たちを探すため。
広い森へ。
飛び出していった。
ここから。
私たちの。
本当の意味での。
“魔物たちの居場所づくり”が。
始まる。
これで1章完結です。幕間を挟んで次から2章に入ります。2章からは本格的に国づくりが始まる予定です。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。




