93話 この国のバラのご説明をいたしましょう。
王城には各貴族家の馬車が一台、一台と入って来ては、夜会に出席する人間を下ろし出ていく。最初に来た者は2時間近く会場で皆がそろうのを待たなければならない。なので下位貴族から順番に入ってきて高位貴族は後に入場する。
ストーティオン伯爵夫妻は、先に入城し王族が入城するまでの間、お婆様の社交の復帰を皆にお披露目するべく、会場内で社交に勤しんでもらうことにした。
本日は四の月、美しい花々が咲き出す時期に開催する「春の夜会」。この時期に国花の「オーラシアン」の名がついたバラが咲く。大輪の美しいピンクの花で、内側が濃く外側に向かうほど薄いグラデーションになる。国外の王侯貴族にも人気が高いが、この種だけは持ち出し禁止としているため、この時期に花を見に他国の王族の来訪がある。
「せっかくいるんだから呼んじゃおうっていう合理的な考えで始まったのが、春の夜会なんだとさ。」
「へー、じゃあ参加する王族も、まぁせっかく他国に来てるから社交はしなくちゃなっていう感じですか?」
「まあそうだな。」
私とグレード君はアーチャ兄ちゃんの計らいで会場のホールが見える隠し部屋を、ニコ兄ちゃんがササっと用意してくれた。いや、すごいねお城って。この会場の鏡の裏側、全部隠し部屋になっていて向こうが見える!これはあれですね!取調室のマジックミラー!ワクワクします。
「グレード君、事件が起こる気がしてワクワクしますね!」
「いや、起こすためにここにいるんだろ?」
「あ!そうだった。あ~来た来た、ハインツさん来たよ。」
私は知り合いが入ってきたことが嬉しくて、グレード君にご報告したら、困惑するグレード君。
「え?姉様がなんで?こういうの嫌いなんじゃ?」
「んー、カナがお願いしたからかな?子供達を不幸にした元凶がいるから、やっつけるの手伝って!!って」
「なっ!!」
グレード君はすごい形相でこちらを見た。
「あの人はあれでも、元冒険者なんだぞ!何する気だ?」
冒険者だったんだ。元同職の人~。フットワークが軽いのってそのおかげかな?
「悪魔に対応できる人間は一人でも多い方が良いからかな?もちろんトーさんや狼さんが後れを取るなんて思ってないけど、直接対応しなくても司祭だし会場の人を守る助けになるでしょう。」
「もしかして会場に教会関係者が他にも?」
「もちろん。聖女様が参加するので、聖騎士の方々に会場内の警護をお願いしてくれてるよ。」
「用意周到だな」
「万全は期したいでしょ。きっとトラブルになるとこれでもダメな事はあるんだから」
私はまっすぐホールを見る。高い位置に王族が座る椅子が並べられており、この隠し部屋からでも問題なく見える。
さぁ、ここからアーチェ兄さんの快進撃が始まる!
***
公爵たちが入場し、会場でグラスを持ちながら談笑をしている。様々な会話の声を制するように、ラッパの音が室内に響き渡る。
「ダスパ王国 第一皇女 アレクサンドラ・D・ダスパ様、第四皇子 バルトロメーオ・D・ダスパ様ご入場です」
張りのある声で名前を呼び、隣国の皇女様・皇子様の名前を告げる。良く響くその声が次々と各国の王族の名前を呼んでいく。そしてついに、
「オーラシアン王国 第一王子 アルドリック・デュ・オーラシアン殿下ご入場」
会場から拍手の音が鳴り響き、その音を聞きながら見渡せる入口から会場に入ってきた第一王子は、口角を上げただけの作り笑顔で皆に軽く手を振る。王族席が用意されたところまで進むときには作り笑いもすでに無く、印象的には自分が絶対的な存在だとにおわせている感じのいけ好かない印象だ。
顔はまぁ良い方だと思うけど…性格が顔に出ている感じがする。人を追い詰めるタイプの顔だ。(私的感情込み)私がそう考えていると、また名前が呼ばれた。
「オーラシアン王国 第二王子 セフェリノ・デュ・オーラシアン殿下ご入場」
再度、拍手が会場に鳴り響く。第二王子はにこやかに辺りに笑顔を向け、女性に向けて投げキッスを飛ばしている……私は頭を振る。第二王子はチャラいという印象しか受けなかった。これでは後継に指名されることはないだろう…
第一王子がアーチャ兄ちゃんを虐めていたのは、自分の障害は第三王子だったんだろうな。この王子は敵にならない者だ。
司会が響く声で次に入場する人物を言おうとしたその時、司会の人に走り寄ってきた同じスーツを着た人、だから使用人なんだろう。司会の人は頷き、会場に響く声で告げた。
「オーラシアン王国 第三王子 ルクレチア ・デュ・オーラシアン殿下ご入場」
拍手が会場内に鳴り響く。アーチェ兄ちゃんは入口の一番高い所で、手を振りながら笑顔で会場を見渡した。そのまま席に向かう中、ずっと笑顔で手を振っていた。第一王子も第二王子も、自分の弟が入場したにも関わらず、笑うどころか睨みつけている…あぁ、こんな兄弟に囲まれていたなら、アーチェ兄ちゃんはしんどかっただろうなぁ、そんな事を考えていたら、王妃と王が連れ立って入場してきた。王は王妃をエスコートすることなく、お互いツンとして会場には笑顔を向けている。この夫婦、うまくいっていないのがこれだけで分かる…
この国、よく今まで生き残って来られたな…私は王族の入場を見ただけで不安に駆られた。




