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安全第一異世界生活  作者: 笑田
愚王の崩壊

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91話 美しいバラには棘がある

賑わう城下町。夜の宴を前に、華やかな装いの人々が行き交う中、ひときわ目を引く二人の女性がいた。


水色の傘の下、楚々と歩む白金の髪の女性。すらりとした長身に、白い睫毛から覗く瞳は、宝石ツァボライトのような美しい輝きを放っている。その麗しい顔立ちを引き立てるのは、胸元で静かに輝く銀細工のアメジスト。空色のワンピースは、腰の藍色のリボンで締められ、より一層優雅に見えた。


人々は、その貴族然とした佇まいに「お貴族様は優雅だねぇ」と微笑む。


傍らには、赤髪の少女。水色の花飾りのついた帽子を被り、空色のふわりと広がるワンピースに、大きな藍色のリボンが愛らしい。その中央で輝くレッドスピネルが、少女の可愛らしさを際立たせていた。少女は、白金の髪の女性に寄り添い、歩を進めている。


路上の雑貨店を二人で覗き込み、お揃いの水色のノートを手にする。焼き菓子を見つければ、目を輝かせ、あれもこれもと迷う姿は微笑ましい。まるで仲の良い、年の離れた姉妹のようだ。その容姿と装いから、豪商の娘か、あるいは貴族の令嬢がお忍びで来ているのだろうと、誰もが視線を注いでいる。


そんな美しい二人の買い物を邪魔するように、一人の男が立ち塞がった。


「これはこれは、麗しきお嬢さん方。もしお時間ございましたら、わたくしめのささやかながらのおもてなしで、一服いかがでございましょうか? 珍しいお茶菓子なども用意しておりますれば。」


現れたのは、大通りに店を構える老舗商店の跡取り息子だった。二人は扇子を開き、口元を隠して言った。


「せっかく娘と二人で楽しい時間を過ごしていたのに、無粋な方ね。わたくし夫がおりますの。お下がりください。」


跡取り息子は、夫がいると聞いて、「それは大変失礼いたしました。ご息女様とご一緒でいらっしゃいましたか。楽しいひとときを邪魔してしまい、誠に申し訳ございません。」と頭を下げ、すごすごと去っていった。


市井の人々は、遠巻きに見ながら「娘?」「親子?」と、新たな情報を噂し合っている。すると、また二人の前に、大柄な影が落ちた。


現れたのは、騎士団の制服に身を包んだ騎士だった。


「麗しき淑女の方々、もしお許しいただけるならば、拙宅にて温かい茶でも共にいただけませんか? 堅苦しい作法は抜きにして、しばしご歓談など。」


二人は再び扇子を口元に持っていく。


「本日は城で大きな夜会が開かれると聞き及んでおりますの。騎士様はお仕事中なのでは無くて?お仕事中に私達親子にお声がけとは。騎士道と言うものを夫に聞いておきますわ。お仕事に邁進された方が、よろしくてよ。」


騎士は、騎士道を夫に聞くと聞いて、冷や汗を流しながら言った。「本日は非番の折でして、たまたまお二方の麗しいお姿を拝見し、些かばかりお話でも伺えればと、これ以上お引き留めすることは致しません。貴重なお時間を頂戴し、誠に申し訳ございませんでした。」


騎士は慌てて一礼し、その場を後にした。


去っていく騎士の背を見ながら、二人は小声で話す。「制服着て、非番とは。おかしなことをおっしゃっていませんか?」


「イル、男の口から出る言い訳は八割嘘だと思いなさい」


「なるほど。勉強になりますわ。お母さま。」


手厳しいやり取りに、市井の奥様方は、自分の夫をそっと見やる。二人は手をつなぎ、買い物を再開しようとしたその時、少し離れた場所に、王家の紋章をつけた馬車が止まった。市井の人々が露骨に嫌悪の表情を浮かべる男が、そこから姿を現した。第二王子セフェリノ。きっと噂の美しい女性を見に来たのだろう。いつも女性を攫うように連れていくこの王子を、市井の民は心底嫌っていた。被害者の親も、夫も、子供もいる中で、涼しい顔で歩み寄り、麗しい二人の前に立ち止まった。


「やあ、そちらの美しいお二人。よろしければ、わたくしと一緒に城の庭園の東屋で一服しませんか? 温かいお茶を用意させましょう。」


女性二人は、小さくため息をつき、顔に作り笑いを浮かべ、優雅にカーテシーをした。


「私、S級冒険者ガルーダの伴侶、ササと申します」

「第一子、ミハイルと申します」


第二王子のまとわりつくような視線の気持ち悪さに耐えながら、二人はカーテシーのまま頭を上げずにいると、王子は言った。「美しい親子だな。ご夫君が羨ましい限りだ。流石に、お連れするわけにはいかないなぁ。こちらから声をかけたのに申し訳ない、今日は夜会があり人も多い、楽しい一日をお過ごしください。失礼する。」


そう言って踵を返した第二王子を、二人は見送りながら目線を交わし、小さく頷いた。


王子の背後には、数個の淡い光が付いていく。その一つが、小さな石のついたベルトをしていたが、それに気づく者はいなかった。気づけるはずもない。王子の周りに、妖精の姿が見えるような清廉な魂の持ち主など、いるはずもなかったから。

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