90話 第三王子の決意と支える片腕と騎士
セルジオは僕の前に跪いて僕の目を見てとつとつと語る
「腕を治していただいたのですが、前ほどには剣を扱えないと言われました。それでもあなたを支える一助になりたいとこうして、顔を変え、髪を変え、瞳を変えて、戻ってきた次第です。ルクレチア 殿下。この国で王位を継るお心をお持ちなのはあなただけだ。」
セルジオは不器用な男だ。僕が5歳の頃、母上が護衛にとつけてくれた。
兄の様な人だ。この人の前では僕は、王子じゃない一人の人になれた。外では王族として扱ってくれ、守ってくれた僕の騎士。ずっと10年以上僕を支えてくれた彼。見た目がすっかり変わってしまった…
「セルジオって呼べないの?何て呼べばいい?」
「新たなる名を主君たる殿下に付けて頂ければ幸いです。」
僕がつけて良いの?
本当に?
あなたのこれからの名前を、名付けても…
戸惑いながらも僕は拳を握り
僕は僕の騎士の前に立ち彼を見て告げる
「あなたの揺るぎなき忠誠は、まさにわが身を守る盾。故に、あなたを『シールド』と名付けよう。この名と共に、末永くわが傍らにあってくれ。」
シールドは顔を上げ、僕を見て嬉しそうに微笑みながら
「生涯、貴方様の盾として。この御名、心に深く刻み込みました。何があろうとも、貴方様をお守りいたします。」
その言葉に耐え切れず涙を流しながら僕は「…ありがとう」と呟いた
その姿を、部屋の外からそっと見守る影が4体
「そろそろ良いかしら?」
「良いかな?」
「良いんじゃないか?」
「いい加減、シャキッとしていただきましょう。」
「ニコちゃんキビシー」
「ニコニコ兄ちゃんキビシー」
「『ニコ』って呼ばないで下さい!気が抜けます」
コンコンコン
「そろそろ落ち着いたか?」
こちらを振り返った二人の顔が真っ赤になる。
「『シールド』良いじゃないですか。貴殿が殿下の盾となるなら、私は殿下の剣となりましょう。あ!剣と言っても私物理的には弱いので。そこはご理解を。」
ルクレチア 殿下は目をパチパチさせて私を見て首をかしげながら
「貴殿は?」
「私、宰相閣下の片腕を務めておりました、ニコライ・ミヤノマエと申します。今後あなたの片腕として務めさせていただきます。よろしくお願いします」
「宰相の…え?片腕?」
ルクレチア 殿下は困惑気味に私を見て不安そうにする。
「ルクレチア 殿下をお支えするように、宰相閣下とストーティオン伯爵。と、ここに居る3人から口説き落とされましたので、ビシビシ行きます。お覚悟くださいね。」
私の肩に手を置いたクロト氏が、
「俺たち皆からの一押し文官ニコだ。宰相にも意見を言えて、法律にも行政にも明るい。少し硬い所はあるが、そこの騎士とどっこいだろう。」
「私、つくづく思っていたのですよ。この国の後継は終わったと。でも今回お話しいただいて、あの王子達を追い出す証拠と助けを頂いたので、国民の為、そしてこの城で働く使用人の為にも、殿下には頑張ってもらいます!シールド!あなたも今までのように剣だけふるえばいいものでは無いのです。肥太った狡賢く狡猾な狐と狸がひしめく王宮、殿下をお支えするのならあなたも学びなさい。揚げ足を、言質を取られぬように。」
「あぁ。ニコライ殿あなたが殿下を支えてくださると言うのは私にとって最高の味方となる。殿下の為、ひいてはこの国の国民のためになるのだ、教えてくれ。」
さすが、この城で味方の居なかった殿下に常に寄り添い、支え続けた御仁だ。私も後れを取らぬようにしなければ。
殿下は辺りを見回して、不安げに聞いてきた
「そもそもどうして、新国王を求めているのだ?少し前に…ミハイルが言っていた父上が怒らしてはいけない御仁を怒らしたからなのか?」
私はそっとクロト氏を伺うと、クロト氏と目が合い頷かれた…説明ね、はい。
「申し上げます。国王陛下は、連合国が定める重要な法律を破られました。これは、複数の国々が合意した、奴隷の扱いに関する法です。
この国にも奴隷は存在しますが、連合国の法では、特に注意すべき点があります。犯罪を犯した奴隷は、どの国でも重労働に従事させられますが、それ以外、つまり借金奴隷や違法奴隷は、人権に配慮し、特に未成年の場合は保護する義務があるのです。
借金奴隷は、自らお金を返すか、定められた期間労働すれば解放されます。違法奴隷は、何の罪もないのに攫われるなどして奴隷にされた者たちです。連合国の法が問題としているのは、この違法奴隷、そして親の都合で売られたり、攫われたりした未成年の奴隷です。これらの子供たちは、本来ならば保護されるべき立場なのです。
しかるに、我が国の国王陛下は、この『未成年の奴隷を置いてはならない』という連合国の明確な法を、自ら破られました。これは、国際的な信用を失墜させる重大な違反行為です。故に、国王陛下の退位は、もはや避けられない必然の流れと言わざるを得ません。」
王子は愕然とした様子で目を見開き「父上が…そんな…」と呟いた
「そして国王が傍らに置いていた10歳の少女。彼女は南の辺境を収める辺境伯の娘でした。貴方様の従姉妹にあたる娘が誘拐され、国王の側に侍らされていた。彼女は今のカナメさんと同じような美しいピンクブロンド。貴方の母君と同じ理由ですよ。王のピンクに対する執着…傍から見てると狂気じみてる。」
「従妹…を奴隷に…」
「あなたの兄君、第一王子 アルドリック殿下 あの方もね、もう終わりですよ。素敵な証拠を頂きました。我々文官の最大の敵はアルドリック殿下だった、何もできぬ口だけ小僧に、我々の同僚が何人も心を病み、過労で倒れた…週末のパーティーで殿下の傲慢さを愚かさを参加してくれた皆様が見て判断くださるでしょう。」
「文官の敵?兄上が…」
「そしてあのサル。失礼、第二王子 セフェリノ殿下。あのかたの証拠もいっぱい頂きました。えぐいですよ。あの男、兄よりはマシかと思いましたが、第二王子の方が王妃に似た醜悪さを持っていましたね。これも一緒にパーティーで報告します。」
「……えぐい?」
ルクレチア 殿下は真っ青になりながらも私を見てきた。自分の父親以外にも罪を犯した王族が居ると…
「一番恐ろしいのは、あなたの母君を死に追いやった王妃……」
私が語る話に、証拠に困惑していたが、最後にした私の質問に殿下は
「僕が、僕が新しい王になります! こんな家族に国を、民を任せておくなんてできない!!皆さん、頼りない僕ですが、どうか支えてください!」
シールドが
「もちろんです、殿下の為ならこの命尽きるまでお支えいたします!」
聖女様が
「うふふ、アーチェの後ろ盾は任せて!」
カナさんが、
「カナは応援だけだけど、コレあげるね。愚痴を言いたいとき、寂しいときはいつでも繋がるから言って!」
そして私も、
「私も、まだまだ若輩者ですが、精一杯お支えさせていただきます。」
そして背後に立つ黒服のクロト氏が口角を上げて
「俺から娘を奪おうとしたんだ。今の国王は盛大に引きずり下ろしてくれ。お前の覚悟、見せてもらうぞ。」
そう言って笑った姿に、せっかく勢いづいていたルクレチア 殿下の顔が、真っ青になっていた。




