9 この街に 蔓延る何かを 考察だ!前編
クロトさんに頼んで紙とペンを借りて、テーブルの上の紙に質問を書いていく。
「冒険者見習いの登録料はいくらですか?」
「銅貨3枚」
クロトさんの言葉を聞き、アルマ君は立ち上がった。
「見習いってなんですか?•••••••••はじめて知った••••••」
茫然と立ち尽くすアルマ君を置いて、次の質問を行う。
「冒険者登録には?銀貨が3枚ですか?」
そうだと言うようにクロトさんは頷いた。
「冒険者見習いになれば、1日どのくらい稼げますか?」
クロトさんは顎に手を添え、
「・・・仕事にもよるし、達成したって言うのが条件だが、大体銅貨5枚位から銀貨3枚って所だな。
見習いの期間は街中のクエストしか受けれない。」
私は頷き、質問の横に返答を書き込み、次の質問をする。
「冒険者になれば、1日どのくらい稼げますか?」
「これも仕事によるし、達成が条件でだが、
街の外の依頼が主になる。なので、銀貨3枚からだな。難しければそれだけ高額になる。もちろん見習いの街中クエストを引き続き受けてもらっても良い」
「どうやったら見習いから冒険者になれますか?」
「まず依頼によってポイントがある。例として、
「お使い」という依頼の場合ポイントは1、依頼料は銅貨5枚。
「用水路の掃除」という依頼の場合、ポイントは5、依頼料は銀貨3枚。
極端に言うと、これだけ違う。そしてそのポイントを100貯めたら、街の外の依頼も受けることができる」
私は頷き、次はアルマに質問をする。
「孤児たちがしている日雇いの種類と金額を教えて?」
「・・・俺は主に下ごしらえ・掃除・洗濯が多い。厨房の芋剥きを箱1杯分やって銅貨2枚。トイレ掃除・洗濯をやって銅貨1枚。荷運びはあまり重いものが持てなくて、前回は銅貨5枚の約束だったけど役に立たないと殴られて銅貨1枚だけ投げ渡された。体が痛くて動けなくて、そのせいで食えなくて・・・ごめん」
クロトさんはアルマの言葉に目を見開き、私の顔をみて静かに聞いてきた。
「カナメ、お前の相談とはこういう話か・・・」
私は頷き、
「行方不明の子供たちのためにも、早急な対応をお願いします」
クロトさんは目を瞑り、頭をガシガシ掻き毟ると、
「俺だけじゃ力不足だ。ギルマス呼んでくる。待ってろ」
クロトさんは席を立ち、急いで部屋を出ていく。
それを目で追っていたアルマは、ストンと席に着き目に涙をため、拳をおでこに当てた•••アルマの眼からはポロリポロリと涙が溢れてくる。
「大人が俺の話を聞いてくれた・・・」
ずっ••••ずっと鼻を鳴らしながら、ポツポツとアルマ君は話し出した。
「孤児院の先生に友達が居なくなったって言ったんだ」
私はアルマ君の手を握り頷いた。
「うん」
「次の日、恐い兄ちゃんがやってきて殴られた」
アルマ君の手には力が入って震えている。
アルマ君の手を握り、もう片方の手で背中をさすり声をかける。
「恐かったね」
アルマ君は涙が止まらずしゃくり上げながら、
コクコクと頷く。
「殺される•••かと•••思った」ヒックヒック。
クロトさんが静かに扉を開け入ってきた。
後ろにイケオジギルマスと、
青髪メガネ男子。
そして神官?的な格好をした女性が入ってきた。
4人は泣きながら話すアルマ君の声を邪魔せずに聞いていた。
「何人も何人も友達が消えて恐くて、
だから教会のシスターにも…怖かったけど…言ったんだ。
大人が暴力を振るってくるのも言った••••
でもシスターは口に指を当てて静かに、辛抱しろ・我慢しろとしか言わなかった。でないと次消えるのは僕かもしれないと•••だからこの事は、他のシスターには言ってはダメだと•••••••恐かった」
アルマ君の手を握りながら私は相槌を続けた。
「お使いなんて毎日何軒もしてた。仕事をやってるんだからお使い位しろって蹴ってくるから•••だから、お使いの給金は貰った事なんかない・・・」
アルマ君はぼろぼろに泣きながら唇を噛んだ。そんなアルマ君の手を握って、アルマ君にだけに聞こえる声でつぶやいた
「大丈夫。いっぱい頑張ったね。偉かった。カナメに任せて良い子で待ってて」
アルマ君は不安そうに私と目を合わせて、それでもコクっと頷いた。
私は席を立ち皆さんに向き直り、頭を下げた。
「コルドナの子供達のためにお集まりいただき感謝します。先ほど聞いて頂いた通りです。現在の孤児を取り囲むこの現状を皆さんに知ってもらい、お力添えをお願いいたします。クロトさんにお話しした内容はここに書いてあります」
顔を上げた私に、イケオジギルマスはニヤニヤしながら、
「なんだ、もう猫を被るのはやめたのか?」
はぁ?(怒)子供が、恐かった、死ぬかと思ったと泣いてるのよ。
この••••腹黒••••今どんな状況なのか!!
1番理解しないといけない大人が!!
見た目5歳の私を煽りたいらしい!!!ふざけんな(怒)!!!
私は、口だけはニッコリ笑って、目を細め、
「そうですね。此処にきて1日しか経っていない私が気づく事が出来た違和感に、何年その地位に居るのか存じ上げませんが、おなかを空かせた子供たちが搾取されている現実に気づかず、のうのうと歳を重ねただけの大人に取る体裁はございません」
イケオジギルマスは肩を震わせ、わはっははと大笑いした。
神官らしい女性は、眉間にしわを寄せ私を睨みながら、
「年配者を敬う気も無いこの娘の話を私が聞く必要があるのですか、スパイク•••••••クロト•••••••」
「5歳の小娘が言いよる。はっはは・・・くっくくく・・・まぁまぁ、そういうなって、ハインツ。あぁ、嬢ちゃんに紹介しとく。こいつはハインツ。今は首都の方で司教をしている。んで実家は貴族だ。たまたまこちらに来ていたのでな。何やらキナ臭そうなんで巻き込んでやった。」
「スパイクは相変わらず豪気ですね。ふぅ」
ハインツさんはギルマスを見て眉を八の字にして溜息を吐き、私の方に向き直った。
「初めまして、ハインツさん。年配者ね・・・そうですね。
こういう話をするのにそういった礼儀を重んじるのですね。
仕方ありません。
信じる信じないは皆様次第ですが、私、こんな姿をしておりますが孫が居る年齢です。ギルマスと同世代位なのではないかしら?っということは、ご配慮いただけるのかしら?」
クロトさんは口を開け固まった。
ハインツさんは何言ってんだとばかりに眉を寄せギルマスに顔を向けた。
「20年前召喚された聖女様の同郷の者と言えば信じますか?」
私はにやりと口角を上げ笑った。
イケオジギルマスと青髪眼鏡男子は顔を見合わせてからこちらに向き直った。
「信じよう」「信じます」
二人からの言葉にクロトさんは目を見開いた。
「ギルマス!!子供の言葉ですよ!」
ギルマスの言葉に、ハインツさんは
声を荒らげ抗議をした。しかしギルマスは肩をすくめ、
「この嬢ちゃん、ステータスに聖女様と同じ解読不能文字があるんだよ」
その場が凍った。
私も凍った。
解読不能文字ってなんだ??