77話 歯車の狂い始めた者達
※血が流れる表現があります。苦手な方は「*」以降をお読みください。話はつながります。
侯爵家の玄関、今そこは赤く広がる血だまりが出来ている。
血だまりの中に転がる男の躯
それはお爺様に無言で首を切られたエゴールの身体。首は転がりお母さまの前に
エゴールはお母様にいつも寄り添い、世話をしていた侍従
「エゴール!そんなそんな!エゴール!いやぁーーーーーぁ!!」
血だまりの中に入り首のない侍従の身体にしがみ付きお母様は狂ったように泣き叫んだ。
僕は今の状況が分からない
兄上が行方不明になったと騎士団から報告が来た。
へー兄上が居なくなれば僕が次期当主だな~なんて思っていたら
そうしたら何年振りかに父上に会った
睨まれ、騎士団との訓練を強制され、親子鑑定を受けさせられた。
そうしたら、そのまま母上と一緒に侯爵家に帰され、今この状況だ。
何を解れと言うのか?なぜ母上は従僕に縋っているのか…
「お爺様…」
「お前の様な不義の子にそう呼ばれるいわれはない!」
お爺様はすごい形相で僕を睨みつけ僕に意味の解らない言葉を投げつける
「不義の子?何を言って…」
「お前今、この場を見てそれを言うか。頭の足りぬ奴よ。こやつもカミラと一緒に地下に入れておけ」
そうお爺様は怒鳴ると、僕はお母さまと一緒に地下牢に連れていかれた。ねぇ意味が解らない。僕は父上の子ではない?じゃあ僕の父親は?
ねーまさか
まさか
エゴールとか言わないよね?
だってエゴールは平民なんだよ?じゃあ僕は平民なの?
あのうっとうしいと蹴り飛ばした使用人と一緒って事?
学園で貴族に「ネズミ」と呼ばれ、いじめられているのを笑った笑われた平民と僕が同じ?
ありえないよね?
僕は公爵家の次男だよね!お爺様?お父様?ねーーー教えてよ!!
***
「あの者が行方不明。そう」
赤髪の美しい女性は扇を顔前に咲かせ、切れ長の目を細めた。
報告に来た者はその目線が恐ろしく顔を上げれず冷や汗が背中に伝う。
「下がって」
「御前失礼致します」
そういってその場をあとにした男は部屋の外に出たとたんふらふらとある部屋に進んでいく。イヤダ!そちらには行きたくない!助けてくれ!助けて!
そう心の中で叫びながら身体は勝手に動いていく。
あぁ王妃様は本当に容赦の無い方だ。
男が出ていったあと、メイドは王妃に尋ねた
「王に報告は致しますか?」
王妃は扇を閉じ、「そうね~」っとっと考える。
「何もしなくて良いわ。王都に居るならいつものように」
「かしこまりました」
背後に居たメイドの一人がそう言葉を残し消えた。
「ねーマリー、私甘いあのお茶が飲みたいわ」
「かしこまりました イザベラ様」
マリーと呼ばれた藍色の髪のメイドは綺麗な礼をするとお茶をいれるため側を離れた。
マリーは公爵家から連れてきた自分のメイド。王家から付けられたもの達はダメね。
すぐに王にも宰相にも話が伝わる。お陰で私「悪女」の汚名を着せられてしまいましたわ。それもこれも、王が私以外の女を端に置くのが悪いのですわ。
王以外の男に心を寄せていた女。消えてくれて清々しましたわ。
第3王子の出自も怪しいものでしてよ。
まったくあの王ときたら、わたくしの事を愛でるどころか、「血の様な髪の女」などと酷い言葉で罵ったりされるから、心もとない民から悪女などと呼ばれるのですわ。まぁしょうがないですわよ、あの方世間知らずの馬鹿ですものね~他国の王たちから顔だけ王と言われていましたもの。そのお顔も今では残念になられてフフフ。良いきみだわ
早くアルドリックを王太子に決めていただけたらあの顔を見なくてよくなるのに。全く早々に未来の布石を置くことも出来ないなんて無能ですわね、愚王とはよく言ったものだわ。
お父様も国に関わろうと私の権威を利用しているけれど、思ったよりうまくいってないのも、宰相のせいよね。従妹をあの男の伴侶に据えたのに上手くいかないのは家庭を顧みないあの男のせい。まったく王も宰相も女一人幸せに出来ない愚者ばかりね。
跡取り息子の始末も失敗したし、カミラは家に帰された。まぁ托卵なんてことをしていたのだものあの堅物の宰相が怒って当然よね。カミラの家テグルダ侯爵家もかなりの賠償金を払わされるでしょうね。テグルタ家に帰ったとたんカミラのお気に入りは目の前で殺されたそうね
「テグルタの御当主は相変わらず気の短いお方だ事。そんなところがあの方の男らしい所かしら」
長男の一件も、カミラがやったものと処理がされている。その内彼女は実家ではなく牢に行く事になるでしょうね。
一切自分の関与の証拠を残さないのはテグルタの当主の手腕。ただあの方上昇志向が強いのですもの、その内誰かに足をすくわれそうですわ
赤髪の王妃は窓から外を眺めた。空には細い鋭い形の月が暗闇に浮かんでいる。目を細め口角を上げ美しい王妃は笑う
フフフフとても嬉しそうに、頬を染めて
その王妃の笑顔を見るのは闇が広がる空のずっと上、鋭い月だけだった。




