69話 愚王は魔王の導火線に火をつけた
隣室から話し声がする。隣室の友人は遅れて入学した伯爵家のミハイル。気の良い奴で家族をとても大切にしている。そんな彼の部屋から夜になると話し声が聞こえることがある。今日もそうだ。
俺は少し考えてゆっくり窓を開け顔を出しミハイルの部屋の方を見た。
そこには馬が居た。夜の景色よりもさらに黒い美しい毛をもつ黒毛の馬が
「ヒッヒン!ヒンヒン!!」
と声を出している。俺は目を疑った。だってここは3階だ。なのにこの馬はまるで地に足を付けているかのようにしっかりそこに立っているのだ。しかも誰かと話しているような感じに違和感を感じた。その時ミハイルの声が聞こえた。
「黄昏様落ち着いてください。お怒りはごもっともですが、今は目立ちます。」
「ブヒッヒン!ブヒッヒン!」
声と鳴き声は静かな寮の内に響くほどではないが気づいたものが居るかもしれない…あまり人の詮索はしたくないのだが…しょうがないミハイルのためだと、上着を着て部屋を出た。
コンコンコン
扉をたたく音がした。憤る黄昏様を必死で止めようと言葉を出していた僕たちの空気が凍った。殿下と僕は扉を凝視する
コンコンコン扉が鳴る
「悪意は無いわ、あなたを心配しているみたい(ブヒヒン)」
僕は扉に近づき声をかける。
「はい。どなたですか?」
「俺だ、レドだ。馬の件だ開けろ」
僕はその言葉に凍り付いたが、このままでは騒動になると思い扉をそっと開けた。
上着を羽織ったレドが腕を組みため息を吐き中に入ってきた。入ったとたん腕をつかまれ
「おまえな~うるさすぎ。俺以外も気づいた奴がいるかもしれん。空飛ぶ馬とかペガサスとか伝説のスレイプニルとかそう言うヤバいネタだろうが!!学生はネタに飢えてるんだ!とりあえず隠せ!」
入ってきたレドは僕の腕をつかんで小声で怒鳴ると言う、器用な事をしてのけたが、まったく重くもない内容に僕と殿下は笑ってしまった。その時レドは初めて僕以外の人間がこの部屋に居る事に気づいてびっくりしていた。
「は?誰連れ込んでんだよミハイル…寮の規律違反で退寮になっちまうぞ」
「レド落ち着いて」
殿下は口に手を当て考えながら
「レド?‥‥あぁミヤノマエ家のグレード君か。友達想いなんだな」
そう言って殿下は静かに微笑んだ。その言葉に眉をひそめて殿下の顔をまじまじと見つめていたレドは何かに気づいたのだろう、目が点になって叫びそうになったので急いでレドの口を押えた。
「大変失礼いたしました、しかしなぜルクレチア殿下がイルの部屋に?」
「この馬が連れてきてくれたんだ」
「馬ですか‥‥」
レドは窓の方を見ると立派な黒毛の馬が窓から顔を入れて「ヒヒン」とアピールしているのをみて…顔をものすごくしかめた。
「あぁー!おい馬!涼しい顔してるがここは3階だぞ!って……突っ込みを入れたい……はぁ…でこれはどんな状況なんだ?」
「レド…心の声そのまま言ってるから。えーっと黄昏様の話ではルクレチア 殿下が襲われて動けないところを連れて来たんだって。」
「黄昏様って誰だ?」
いぶかし気にレドは僕を見るので無言で黄昏様を手でさした
「神獣 スレイプニルの黄昏様です」
「ヒヒン~」まるでよろしくね~と言わんばかりに返事をする馬を見て唖然とする、レドと殿下。
「馬がしゃべるかよ!!」っと大きな声で突っ込みを入れたレドに殿下が口に人差し指を立て「しー!!」っとジェスチャーする。頭に血が上ってしまっていたレドも王子に怒られ
「あ!申し訳ありません」
と頭を下げて、深呼吸をして自分を落ち着かせた。そんなレドを見てミハイルは笑いながら二人に伝える
「僕、【黄昏の愛し子】の称号持ちなので、彼女の言葉が分かるんです」
「「黄昏の愛し子」」
声が重なった二人はお互い自分で口をふさいだ。
「僕ずっと命を叔父に狙われていて、母様と黄昏様が約束して、守り手として居てくださるんです」
「命を狙われるってなんだよそれ?今は大丈夫なのか?」
レドはしかめっ面をしながら、僕を心配してくれる。僕は黄昏様に聞いてみる
「言っても良いかな?」
「二人ともあなたに対して悪意は一切無いわよ。問題ないわ(ヒヒンヒン)」
黄昏様の言葉を聞いて、僕は少し話長いよと言い、殿下に椅子を勧め、椅子はもうないのでレドにはベッドに腰掛けてもらった。
僕の母の死。それから命を狙われて逃げ出したこと、トーさんやカナと知り合って助けられたこと、聖女様と出会い祖母を救っていただき、叔父をとらえた経緯を彼女が異世界人ってこと以外全部話した。レドも殿下も唖然としていた。
「なぁ…さっきからお前が言ってる「カナ」って妹さ…もしかしてコルドナの奇跡の少女「カナメ」か?」
僕はニッコリ笑って
「気づいちゃったか…フフフ。レドからカナの話を聞いた時びっくりしたんだよ。そうだよ僕の妹がその少女だよ」
殿下はレドを見て、しばし思案顔になり
「その少女の事も教えて欲しい。もちろん他言しないと誓う」
レドは頭をガシガシ掻きながら深いため息をついた。
「他言しないで下さいよ。姉に殺されちまう」
そう言ってミヤノマエ家が今おこなっている辺境地の教会と孤児院の支援のいきさつを話し始めた。話が終わる頃には殿下は感心を通り越して顔を引きつらせていた。
「ミハイル君、君の家族の凄さは王家よりもはるかに上だ。」
王家より上という言葉に僕は目を向いたが、二人の業績を鑑みると納得してしまった。
「ただ…言い難いんだが…その、少女の業績がどこからか父上に伝わってしまって……」
殿下は真剣な目で僕を見た。真剣すぎるその顔に僕はごくりとつばを飲み込んだ
「少女の業績を王家主体にしたい為、その王家に養女として迎えようと考えているみたいで今、使者を立て辺境の地に人をやって居る」
は?
今何て言った?
殿下はなんて?
あの仲のいい親子を引き離すと言うのか?
僕はすくっと立ち上がって、黄昏様に失礼しますと言い、イヤーカフを耳に付け直して声をかける
「トーさん、今の話聞こえていた?」
僕の言葉に後ろで座っていた二人は息をのんだ。イヤーカフからはクククと言う笑い声が響いてきた
『聞こえていた。聞こえていたさ。そうか分かった。愚王の時代は終わりだ。こちらで早急に聖女に連絡を取る。イルよく聞いて皆に伝えろ。王子の保護は一時教会預かりとして聖女にお願いする。黄昏に教会に連れて行くように頼んでくれ。それから伯爵家にしばらくカナメとウハハの滞在の打診をお願いする。その間に動く。そうだな3日程度で王都に行くので至急動いてくれ。いったん切る。また連絡する。』
そう一気に聞いた俺は、黄昏様と殿下を見て
「今からすぐに聖女様に連絡を取り殿下の保護を聖女様に伝えるそうです。黄昏様は殿下を教会までお願いします。トーさんは3日程度で王都に戻るそうで…その愚王の時代は終わりだと言っていたので、王の交代に動き出すと思います」
「「は?」」
僕の言葉にレドも殿下も絶句していた。
「「暗転の厄災」の突然の壊滅を二人は知っていますか?」
二人ともコクりと頷きこちらを凝視している
「一夜にして壊滅させたのは「黒烏の暗殺者」の二つ名持ちの冒険者 カナメの養父です」
その言葉に殿下が顔を青くして、レドは口をパクパクさせ始める。そんな二人を真剣な目で見て僕は言う
「王の自己顕示欲の為だけに、彼から家族を奪おうとした。」
殿下はブルブル震えながら拳を握りしめそれでも僕から目をそらさず見ている。僕はそんな殿下に向かってにこりと微笑み
「だから、王は知るべきです。自分がどれほど愚かだったのかを」




