60話 【白狼の嫁 視点】ササとカナメ 自己紹介
広場では少女とスライムの大声を聞き、白狼の大きな体躯も相まって目立ってしまった。
広場に居るほかの人たちからも視線を向けられるが、それどころでは無い私の心中。
この駄狼は年端も行かない子供に攻撃をしたのだ!話の流れ的に当たらないと分かっていたようだがそれでもだ!!私は対駄狼用の武器”ハリセン”を振りかぶって叩き落とした。
広場には”スパーーーーン!!”と大きな音が響き渡った。大きな音に耳を伏せたガルーダはびっくりしたように私を見た
「ガルーダ、君暫く家に帰ってこなくていいから。」
私は、冷めた目でガルーダを一瞥する
「はぁ!!何言いだすんだよササ!!俺なんかしたか!?」
ガルーダは狼狽える様に私に言いよるが、私はこの力馬鹿な駄狼を睨みつける
「いたいけな子供にあんな攻撃仕掛けておいて「何かしたか」とか、正気か?私たちエルフにとって子供とは何物にも代えられない宝だとお前は知っているだろう!!」
私の言葉を聞いてガルーダはしまったとばかりに耳を下げた
私たちエルフ族は寿命こそ長いが子が産まれにくく、産まれても成人まで生きる子も少なく。特に私の居た里では生粋のエルフは産まれず、ハーフなど多種族との混血児ばかりになっている。それでもエルフの血を引くと産まれにくい。まるでエルフの滅亡を望む何者かが居るのではと疑いたくなるように。だから子は宝だ。その宝にこの狼は何をした!!
少女はガルーダと私を交互に見ていたが、泣き出しそうな私の顔を見てかけよって抱き着いてきた
「狼さんのお嫁さん!泣かないで!!狼さんは私を殴って来たけど、私じゃないの!!」
「?」少女は不思議な事をいってきた。どういう事?
「ウハハ~狼さんの相手お願い」
「うあはっ!!」
先ほど、ガルーダに対して反応したスライムは一気にガルーダを覆った。
スライムに取り込まれたガルーダはジタバタ。ジタバタ。‥‥
Sランク冒険者がスライムから抜け出せない!!!
ジタバタジタバタ‥‥10分すぎたくらいで力なくなってようやくスライムがペッと吐き出した。私は血の気が引き、急いでガルーダの側に
「ガフ!ゴフ!ゴフ!ハァハァ」
「ガルーダ!!大丈夫!!」
「ゴホゴホ!はぁ……あのスライムやばいんだよ」
「あぁうん。そうだね。君の力一切効いてなかったね」
「だから嬢ちゃんに攻撃したんじゃ無くてだなぁ」
「スライム?」
コクコクとガルーダが頷く。だから機嫌治せと言わんばかりにしっぽパタパタそこに影がかかる
「ちなみにウチのウハハは6か月の赤子だぞ。師匠。あとで俺とも手合わせしような。俺の家族が大変世話になったみたいで、ははははは」
「怖い怖い!!!目が座ってる!!ごめんて!ごめん俺が調子に乗りました!!怖いってお前!!」
目の前に現れたひょろひょろ背の高い頭ボリューミーな黒ずくめの男がガルーダを恫喝してる…えぇ!ガルーダを!!!
私がびっくりして男を見上げると男はバツが悪そうに頭を掻き
「ササは変わんないな。久しぶり」
私をササと呼んだ。
「クロちゃん?」
男は少し顔を赤くして頷いた。
クロちゃん!あの小さかったクロちゃん!クロちゃん!クロちゃん!
「クロちゃん!大きくなってぇ!うそーーーーうそ!大きいよ!!おじさんになってるよ!いやだよーーー!かわいいクロちゃんが良いよぉーーー!」
私はクロちゃんに抱き着いてわんわん泣いた。いつの間にか頭一つ分以上大きくなったクロちゃんは、困りながら不器用に背中をなでてくれた
クロちゃんは相変わらず優しいよぉーーー
近くに居た少女は困惑しながら、ガルーダと話している。グスグス。しばらくしたら私とクロちゃんの側に来て少女は頭を下げた。
「初めまして、ササさん。娘のカナメとこの子はウハハです。よろしくお願いします。」
「娘?」
「はい」
「カメに優しいお父さん?がクロちゃん?」
「はい」
私はまた感動した!亀にも優しくできる娘のパパ!!うわーーーん成長してるよぉ!クロちゃんが大人だよぉ!大泣きする私をよしよししながら、クロちゃんがガルーダに言う
「事前情報は?」
「今度遊びに来るとだけ伝えてた」
「感動屋って知ってんじゃん何やってんだよ…」
「ハハハ、絶対ササは孫が出来たって喜ぶと思って言ってなかった」
「そうだよ!!カナちゃん♡私の事ササジイちゃんって呼んでね」
「‥‥‥‥」
カナちゃんは固まった後クロちゃんを見て頷かれ。ガルーダを見て頷かれ。私をじっと見ながら頷いて
「多様性か…なるほど」
OK理解したと言わんばかりに良い笑顔を作った。絶対私の事女だと思ってただろうに、納得できたんだ。凄いこの子天才!!私の孫天才です♡
「ササさんはきれいすぎてお祖父ちゃんは似合わないので、「さっちゃん」で良いですか」
「さっちゃん」
「はい。さっちゃん」
私は、ガルーダとクロちゃんを交互に見て嬉しくて嬉しくて、また泣いてしまった。初孫からのあだ名である!嬉しい!!
そんな孫から
「さっちゃんは心はどっちですか?それによって、変えなければならないところがあるのです」
そう真剣に。真剣に言われて涙が止まった。
この子何歳だ?
「カナちゃんは何歳カナ?」
カナちゃんはニッコリ笑った。返答はない。
私と孫娘とのワクワク楽しい交流は前途多難かもしれない。




