54話 【イル視点】旅立ちと僕の家族の残した奇跡
「俺たちはただの冒険者。それでもこの旅で、ミハイルを守るべき家族だと思ったんです。だから、家族としてお願いします。ミハイルの事よろしくお願いします」
トーさんはお爺様とお婆様にそう言って頭を下げてくれた。お爺様は慌てて
「頭を上げてください クロト殿。貴殿達のおかげでミハイルは命を救われ、心も救われたのです。この子が今笑えているのは、この子を家族として受け入れてくださったあなた方のおかげです。不甲斐ない私たち夫婦ではありますが、ミハイルが成人して嫁をもらうまでは、老体に鞭打ってでもこの子を守り抜きます。」
僕と手をつないでいたカナは嬉しそうにお爺様の言葉を聞いている。そんなカナにお婆様は膝を付き目線を合わせ、僕とつないでない方の手を握り話しかける。
「カナメちゃん、良ければ私たちの事、お祖父ちゃん・お祖母ちゃんと呼んでちょうだい。ミハイルの家族だものあなたたちは私達ストーティオン家の家族だわ。ウハハちゃんもね♡」
「お兄ちゃんのお爺様とお婆様なら、私にとっても家族ね。えへへ嬉しいな。」
「ウハハ♡」
カナは本当に嬉しそうにはにかむとお婆様は、目に涙を浮かべ笑った。カナの肩の上でウハハも嬉しそうに揺れている。お爺様もカナの言葉に嬉しそうに笑う。
「クロト殿、何か面倒事があった時は、我が伯爵家の名前を出して身をお守りください。我々ストーティオン伯爵家はあなた方の盾となりましょう。」
そう言って、伯爵様はストーティオン家の家紋の付いた懐中時計をトーさんに渡し、手を握った
「カナメ殿が、私を祖父と呼んでくださるのなら、クロト殿は我が息子となるでしょう。息子親子の旅路が安全で楽しいものになりますように、祈っております。」
トーさんは渡された懐中時計を見て、照れたようにはにかみながら笑って言った。
「この歳で家族が増えるなんて、嬉しいな。私たちも家族の安全と平和を願っております。」
『アタシが居るから大丈夫!任せておきなさい!』
黄昏様もお爺様の後ろからトーさん達に話しかけている。
トーさんもカナも黄昏様の言葉に安心したように頷いて
そうして僕の家族は旅立っていった。
皆が居なくなった寂しさに悲しむ間もなく、勉強に・剣術にと毎日の生活は目まぐるしく、
その中で食事時間は、お爺様・お婆様と話せる貴重で幸せな時間。お二人とも僕を気遣い優しく接してくれる。そしてお婆様は、カナが次来た時用に、ドレスを用意したくてうずうずしていて、お爺様はトーさんの旅の話を楽しみにしているみたいだ。
お爺様から、ギルランドが放ってきた刺客が今話題の『暗転の厄災』だったと聞いた時、トーさんのやらかしを僕は知った。
結果的に言うと、山一つ分の崩落と引き換えに暗転の厄災と言う名の暗殺組織は壊滅した。組織に属していた人間はもれなくすべて騎士団詰め所前に山のように縛られ積まれ、犯罪や、これから起こそうとしていた事件・事故、彼らに仕事の依頼をしていたのが分かる証拠がきっちり揃えて騎士団長の執務室の机の上に山のように積まれていた。
今まで事故と処理してきた事件も掘り起こされて今は王都だけではなく、各貴族家・商家など多くの捕縛者が出ている。
この犯人がトーさんと知るのは、聖女様とそのお付きの方と、エドモンドさんと僕らだけ。
以前の王都にあった翼竜騒ぎも実はトーさんが起こした事件であったとエドモンドさんは内緒で教えてくれた。
エドモンドさんはトーさんに救われた1人だと、その時の感動を熱く語ってくれた。
「君のお父上は私にとって最高の勇者なんだ。誇っていい」
僕はこんな奇跡のような事件解決をしたトーさんを誇りに思っていたが、実は学校に入ってから知った、僕の可愛い妹「カナ」の事。
王立学園に遅ればせながら入学を果たした僕に慣れるまでと学級委員長が付いて親切に色々教えてくれることになった。
僕の初めての友達。寮も隣室で本当にお世話になっている。
名前:グレード・ミヤノマエ
筆頭公爵家の五男、僕と同じ10歳だ。
彼の家は、今大変忙しいらしくほぼ首都に家族が居ないらしい。辺境伯が治めていたコルドナの街で教会や、冒険者・商業ギルドを巻き込んだ大きな事件があり、事件解決に動いた長女が発起人で教会や、孤児院の支援をミヤノマエ家が主導で行っているのだそうだ。
その話の中心にいる少女に僕は戦慄した。
その少女は数か月前に突然辺境の街に現れたかと思うと、窃盗をした孤児を連れギルドに乗り込み、教会やギルドの悪事を暴きギルドの上層部や公爵家を動かしたという。たった5歳の少女がだ。グレードの姉君が彼女の存在を家族にだけ話したと。まだ幼い少女が何かに巻き込まれてはならないと他言無用だと。
しばらくしてその少女は家族を得たのだと言う。養父は元冒険者副ギルドマスター「クロト」
「カナメ」と言う少女は公爵家で「奇跡の少女」と呼ばれている。
友人の口から二人の名が出ると僕は胸が温かくなる。皆に会いたくなる。ああ、僕の家族は本当にすごい人たちだ。
抜けるような青空が、どこまでも広がっている。そんな空の下に家族は居る。空を見上げ彼らの行く先が常に安全でありますように祈る。
僕も負けないよう、彼らに胸を張れるよう頑張りますと心に決めて。




