25 トーさんの 安全ではない 冒険活動 中編
薪がパチパチと弾けるような音を立てている。
俺は移動途中に一度、対象者を闇沼から出し状況説明を行った。
「俺は烏と呼ばれている冒険者だ。今回あんたをテグルダの街で引き渡すつもりだったんだが、あんたの足が思ったより悪い。」
「足?」
「骨折なら通常のポーションで治癒できるが、あんたの足の骨は粉々に砕けている。そのままポーションや低ランクの治癒を受けても、9割方立てなくなる。」
対象者はごくりと唾を飲み込んだ。
「なので…本当に不本意だが、聖女様の所まで運べというお達しだ。
今のあんたじゃ馬車移動もきついだろうから、俺が最適なんだ。
此処から、普通なら早馬を飛ばせば王都迄3日だが、ちょっと無茶して急いでいく。
1日中闇にずっと居ることになるが大丈夫か?無理なら睡眠薬もあるが?」
対象者は正面からこちらを見て、
「睡眠薬は必要ありません。ご配慮ありがとうございます。
私はケリィーズイットの嫡男、エドモンド・ケリィーズイット。
あなたは私を絶望から救ってくれた。本当に感謝しています。」
対象者は俺に頭を下げようとして身体の痛みで動きが止まった。律儀な男だ。怪我と汚れでボロボロななりをしているが、流石貴族と言ったところか。
礼節を弁えた丁重な人柄なのだろう。
「仕事だ。気にするな。」
「テグルタで騎士団に引き渡されていたら…多分私の命は無かったでしょう」
「は?」
エドモンドの言葉に、俺は顔を歪めた。
「私の母は私が小さい頃に亡くなり、父はすぐ再婚し弟が一人居ます。テグルダは義母の実家の領地なんです。」
「おい、まさか……」
「父は宮勤めをしながら領主の仕事で忙しく、あまり一緒にいる時間がありません。家内の事は義母に丸投げしている状態で、実情を把握していないんです。」
男は自嘲気味に笑った。
「お察しの通り、今回の件は弟に家督を継がせようと、義母が起こした暴走でしょう。」
「王都に行って安全の保証は?」
「私、これでも聖女様の友人ですので、教会内なら安全は保証されます。出来れば個室で聖女様の前に私を出して欲しいのですが。」
俺は頷き、了承の意を示した。
そんな俺の様子に少し緊張を解いたのか、エドモンドは表情を緩めた。
「烏さんはお優しいのですね。」
「仕事なだけだ。飯を食ったら、そのまま闇に入れるぞ。キチンと食べておけ。空間内にも2食ほど追加しておく。腹が減ったら食ってくれ。」
「中にあったスープとても美味しかったです。次のご飯も楽しみにしています。」
「フッ、娘に伝えておくよ。」
俺の言葉にエドモンドは初めて笑みを見せた。
エドモンドがカナメの料理が美味いと言ってくれた事で、俺もとても誇らしい気持ちになった。
出発前に疑問に思っていたんだろう、移動手段を聞かれた。
「3日かかる行程を急ぐとは…どうするんですか?」
「ワイバーンに運んで貰えたら明日の朝一には着く。王都は結界が大きいから離れた場所に降りて走るのに時間がかかるが、まあ、闇の中に居たら安全だ。安心しておけ」
「…ワイバーン………はい」
エドモンドは戸惑いながら返事をしていた。
ワイバーンでの移動って、あまり他の奴はやってないな…俺の知る限り、ガルーダとエルフの嫁くらいか?まあ問題ないだろう。エドモンドを闇の空間に入れたら移動だ。
闇沼からワイバーンを出す。
大きくて、活きの良いのが居たので既に捕獲してあったやつだ。
活きが良すぎる個体は、翼の皮膜を傷つけ無いように制御しながらの調教が大変だが。
今回は時短で調教する。
カナメとウハハの元に早く帰れるように、時短でやる。
普段は押さえている威圧を全開にしたら、大人しくなって首を垂れてくれた。よしよし良い子だ。次からもこれで行こう。時短最高。
早速、背中に飛び乗って、そのまま王都に向け飛び立つ。
王都に着いても魔法結界があるせいで出入口の審査を影渡りで躱せないから、正規に門を使うしかない。
王都の門が開くのが朝の5時。この大きさで元気な個体だ。通常より何時間か短縮して到着できるだろう。
【王都 城壁警備隊】
東の空が、ゆっくりと茜色に染まり始める。
太陽はまだ姿を現さないが、その光は雲の隙間から漏れ出し、世界を優しく照らし始める。それは、いつもと変わらない、穏やかな朝の始まりを告げる光景だった。
しかし、光の先に小さな黒い影、一頭のワイバーンが近づいてくるのを発見した。
城壁の兵士は顔面蒼白になり、冷や汗が流れる状態で東の空を見ている。
兵士はすぐさま伝令を飛ばす。
「緊急!!東の方向!!ワイバーンが1頭近づいている!!討伐の準備を!!」
「あの大きさ…あれはワイバーンか?」
「いや…翼竜では…?」
「やばい、王都に近づいて来るぞ!!!」
朝の静けさから一変、城壁の上の兵士たちがバタバタと動き始めている!!
ここ20年あまり、聖女様の結界のおかげで大型のモンスターが王都から近いところに出現することはほぼ無く、平和に暮らせていた。
だと言うのに、なぜ、こんなに近くに現れたのか。しかも一頭。
この異常事態は、瞬く間に聖女様の耳にも届いた。
「翼竜?あの子たちは知恵がある子が多いのに。そんなに簡単に人間の領域に踏み込んでは来ないはずなんですが?」
聖女様は困惑した表情を浮かべた。
しかし、結界に異常はなく、原因は不明のままだった。
王都全体に緊張が走る中、一人の男は、そんな騒ぎなど露ほども知らず、上機嫌にワイバーンの背に揺られながら、
「予定より早く着きそうだ。どこか降りやすい場所はないかな?」
呑気に、降り立つ場所を探すのだった。




