24 トーさんの 安全ではない 冒険活動 前編
崖の麓にひっそりと口を開く洞窟。
その静けさとは裏腹に、洞窟の周辺にはガラの悪い男達が屯し、夜も更けぬ内から酒盛りを開いている。
洞窟の中は暗くじめじめとした雰囲気と、閉ざされた空間が独特の恐ろしさを醸し出し、奥には冷たい石造りの牢屋がある。
その一室に、傷だらけの男が一人、壁に寄りかかって目を閉じていた。
20代半ばくらいの年齢だろうか。元は美しい金髪だったと思われる髪は血や泥で汚れ、見る影もない。精悍な顔立ちをしているが、今は苦痛に歪んでいる。
右足が不自然な方向に曲がっているのが痛々しい。壁への寄りかかり方も不安定だが、横になるとさらに痛みが増すのかもしれない。
この様子では、自力で脱出するのは絶望的だろう。
なるほど、俺が呼ばれるわけだ。
牢の鍵穴の周りには、錆び付いた鎖や南京錠がいくつも取り付けられており、脱出の難解さを示している。
俺は洞窟の影から男の影へと影渡りを使い移動する。
影の中から小さな声で、ゆっくりと伝える。
『突然声を掛けてすまないが、動かずそのまま聞いてくれ。
1つ・声を出さない
2つ・返事は瞬きの回数
1回が『はい』
2回が『いいえ』だ。解ったか?』
男は戸惑いながらも瞬きを1回した。
『ケリィーズイット騎士団から依頼を受けて来た。エドモンドで間違いないか?』
男は目を見開き、声を出しかけたのか少し口を開けたが、無言で瞬きを1回した。
『お前は今から俺の闇に入ってここを出る。
決して声を出すな。
移動には時間がかかる。体力が必要だ。
闇の空間にはスープとパンを入れてあるから食べろ。
半日は入ったままになるが、寝ている内に終わる。準備はいいか?』
男は瞬きを1回した後、目を瞑る。
俺は間髪入れず、男を俺の闇に入れた。
俺の闇には空間が作れる。それは俺と共にあり、中に生き物を入れることが出来、そのまま移動させる事ができる。こういう任務の時には本当に便利だ。
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目が覚める。
カチャカチャと食器の音が聞こえ、スープの匂いが鼻をくすぐる。
幸せな時間だ。
着替えてから階下に降りると、俺に気づいて朝の挨拶が飛んでくる。
「おはよぉー!!トーさん!!良く眠れた?」
「ウハハ!!」
「おはよう二人とも。ちゃんと寝たよ」
朝の挨拶は、いつも心を温かくしてくれる。
カナメの手料理は本当に美味しい。
朝ごはんはパンのことが多いが、たまにほかほかのご飯の時もあって、どちらも嬉しい。
カナメは、お休みの日以外、毎日お弁当も作ってくれる。
お昼の時間に「今日のおかずは何かな?」とワクワクしながらお弁当を開けるのは、毎日の楽しみの一つだ。
俺もウハハも、カナメが作ってくれるものは何でも美味しくて、いつも感謝している。
「今日も街外で採取か?」
「うん!!ウハハと一杯薬草摘んでくるね」
防具が出来てウハハヘルメットをかぶりだして以来、カナメは街の外の採取に精力的だ。
常設依頼の採取なので問題ない。
ウハハの結界は害意のあるものを通さないのでトラブルもないし、カナメ自身の攻撃手段も、元の世界にあった”スリングショット”という軽量な中距離武器を愛用しているので安心だ。
「今日は昔馴染みから仕事頼まれたから、帰宅が遅くなる。早めに帰ってくるからキチンと戸締りしてね」
「うん、わかった。戸締りは任せて。ご飯は帰ったら食べられるように、保存箱(時間経過なしのBOX)に入れておくね。今日は冒険者の仕事?錬金?」
「冒険者の方だな。隣の街に行くから、ついでに錬金薬も届けてくる。日付が変わる前には帰ってくるが、大丈夫か?」
「私は大丈夫だから、無理をせずに安全第一に行動してね。」
カナメの頭を撫で、カナメとウハハの外出を見送ると、俺も仕事へ向かう。
俺に戦闘技術を教えてくれた師匠から、久々に助っ人として呼ばれた。
家庭を持った事も報告していなかったので、報告ついでに受けたんだが、
まさか、ぎっくり腰になって動けないからだなんて…師匠も歳をとったものだ…
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デグルダ街のスラム
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白昼の太陽が照りつける中、
スラムの中にしては造りのしっかりしている建物のドアを勢いよく叩く音が響く。
ドンドンドン。扉を勢いよく叩くが誰も出てこない。
まあ、開けるはずの人間がぎっくり腰だ…出てこれないか。
俺は建物と建物の間に入り、影渡りのスキルを使う。
そのまま影を渡って室内に移動してから姿を現し、 師匠を呼ぶ。
「おい!!ガルーダ!!生きているか?」
「生きておるわ!!縁起でもないこと言うな烏」
奥の部屋から怒鳴り声がする。腰に響くのでは?っと思いながら声のした部屋を無遠慮に開ける。
部屋の中には、大きな図体でうつ伏せで寝ている白毛の狼型の獣人が、歯を食いしばってギリギリしている。大声を出すから…腰に響いたんだろう。
ちなみに【烏】とは俺の冒険者時代の通り名だ。
さて、さっさと仕事の報告をして早く家に帰ろう。
「終わった。どこに行けばいい?」
「対象は?」
「欠損はない。右足は粉砕骨折、肋骨も何本か折れている。どこに届けるんだ。教会か?騎士団か?」
「そのまま聖女様の所に連れて行ってくれ」
「王都まで3日もかかる。無理だ」
「何か仕事でもあるのか」
「子供が家で待っている」
「は?子供?!お前いつ結婚したんだよ!!!」
俺の言葉にガルーダは勢いよく飛び起きようとして、腰の痛みに呻き声を上げた。
「いってぇえ!!!!!!!!!」
俺は彼の様子に、大きな溜め息を吐いた。
痛いから薬を寄こせと連絡してきた癖に…
「錬金上級ポーション、1本金貨25枚。予備は何本必要だ」
ガルーダは痛みにプルプル震えながら指を三本立てた。
「金貨100枚ギルドカードに振込よろしく」
そう言うと、俺はガルーダの口を開けポーションを突っ込んで口を押えた。
「口に入れたのはスライムみたいな膜で覆ったポーションだ。
口の中で溶けるし、痛み止めも入れてある。
飲み込めるなら、そのまま溶かさず飲み込んだ方が体内に早く浸透する。傷ついた神経も修復するから安心しろ。浸透するのに半日…ってところか。
日付変わる頃には全快してる。
で、対象は、どこに連れて行けばいい?」
「……」
ガルーダは真顔で俺を見る。その瞳の奥には切実な願いが垣間見えた。
「おい…マジで、聖女様の所かよ…そんなに対象は大物なのか…」
「ケリィーズイットの次期領主だ」
俺は絶句した。確かケリィーズイットって侯爵家だよな…
なんでそんな大物が捕まってたんだよ…
俺はカナメとウハハのもとに帰りたい!!!
「5歳なんだ!!」
「母親は?」
「いない」
解ってる。
解ってるんだ!!
さすがに粉砕骨折を下手にポーションなんぞで半端な治療すると今後立てなくなる恐れがある。こういう治療には聖者の魔法が一番いい。
解ってるけど離れたくない!!!
くっそぉぉおお!!
今回は対象者が悪すぎだ…
カナメに早く帰ると言ったのに心配掛けるな…と肩を落とし諦めた。
「ガルーダ。動けるようになったら、
コルドナ冒険者ギルドのナギに伝言を頼めるか。
仕事で何日か帰れないから、しばらく泊まり込みでカナメを頼むと」
「俺が面倒見てやるのに」
「ガルーダでは駄目だ。初対面の人間を家に上げる事は無い。
ナギはカナメの魔法の師匠なんだよ」
それに、たぶんガルーダとカナメの相性は滅茶苦茶悪いと思うからダメだ。スパイク以上に駄目だ。眉間にシワを寄せる俺を見て、呆れたようにガルーダが言う。
「あーーーハイハイ。ちゃんと教育してんだな。わかった。明朝の朝一に行ってくる。その代わり対象を必ず聖女様に引き渡してくれ。必ずだ!」
ガルーダの真剣な眼差しに背中に嫌な汗が伝った。
これはあれだ。
面倒ごとの予感だ。
俺は大きな溜め息を吐いて、最速で行き来できるように移動手段の確保を心に決めたのだった。




