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ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』  作者: ヨシムラ


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38/222

38 vsペンギン②

今しがた戦闘は始まったばかりだった。

棒状の金属を継ぎ接ぎして作られた、簡素でありながら不気味な“人型”。

内部からわずかに響く電子音が、不気味な存在感をさらに強調している。


運命の弓から放たれた矢は、音速5という常識外れの速度で虚空を裂き、一直線に標的へと迫っていく。

キィン……ッ、と空気が悲鳴を上げた、その瞬間だった。


矢は、不自然なまでに滑らかな軌道を描き、寸前で進路を逸らされていく。

まるで「当たる未来」そのものを拒絶されたかのように。


原因は明白だった。

『絶対回避』――その効果によって、矢の運命が強制的に書き換えられたのである。


ペンギン。

浮遊都市の番人にして、地上世界には存在しないとされる金属――アダマンタイトを解析し、その特性を完全に理解した存在。

最古のAIにして参賢者の一角を担う彼は、その叡智をもって『絶対回避』の効果を宿した『障壁』を製成することに成功していた。


その言葉どおり、彼は私への対策を万全に施してきたのだろう。

とはいうものの――。


この程度で、月からの加護を受け続ける私をどうにかできるはずがない。

正直なところ、胸に浮かんだ感想は「期待外れ」であった。


私は、自信満々にドヤ顔を浮かべるペンギンを真っ直ぐに見据え、そのまま宣言する。

声には一切の揺らぎもなく、淡々と、それでいて確信に満ちた調子で。


「ペンギンさん。それでは、その絶対回避の効果が付与されているという障壁を、攻略させてもらいます」


その瞬間。

ペンギンの目が見開かれ、口がぱかりと大きく開いた。


自らが最高傑作と信じて疑わなかった障壁を、あまりにも容易く攻略すると告げられたのだ。

たとえAIであっても、混乱という感情は生じるのだろうか。

いや、むしろAIだからこそ、その計算外の事態に動揺したのかもしれない。


微妙に焦った様子を隠しきれないまま、ペンギンは私へと問いかけてくる。

声のトーンも、どこか早口になっていた。


「三華月様。今しがた、私の最高傑作である絶対回避の障壁を攻略されると聞こえてきましたが……よろしければ、その方法を教えてもらえないでしょうか?」


「はい。『転移』の効果を使用します」


即答だった。


「転移、ですか。なるほど……空間を歪め、機械人形の周囲に張られている『障壁』を飛び越えてしまうカラクリ、ということですか」


「はい。回避されてしまうのであれば、運命の矢をその障壁の向こう側まで『転移』させます。そうして、機械人形を直接、仕留めさせて頂きます」


言葉を重ねるごとに、ペンギンの演算処理が走っているのが、なぜだか分かる気がした。

カチ、カチ、と無音の歯車が回るような間。


やがて、彼はゆっくりと頷いた。


「さすがです……。確かに、その理屈であれば、私が創りだした至高の障壁を攻略できてしまいますね」


「ご理解頂けたようで、よかったです」


「ああ……。でも……何ですかね。この、モヤモヤする感情は」


先ほどまでドヤ顔だったペンギンの表情が、明らかにおかしい。

焦りから、落胆へ。

落胆から、どこか納得のいかない不満へと変化していく。


少しだけ、怒っているようにも見える。

とはいえ、その感情の正体は怒りというよりも、もっと別の――自尊心をくすぐられたような、複雑なものなのかもしれなかった。


ペンギンは大きく息を吐き出すと、はぁ……という、やけに人間じみた溜息を漏らしながら、やるせない口調で、まるで愚痴のように言葉を零してきた。


「三華月様。“優しい嘘”という言葉をご存知でしょうか?」


「優しい嘘って……相手を傷付けないように、思いやりからつく善意の嘘──そういう意味でしょ」


「まさしく。その嘘が、どれほど製作者を救うか……最高傑作品を何の苦労もなくあっさり攻略された側の気持ちなど、三華月様には到底想像できませんよ」


「……つまり、ペンギンさんがつくった最高傑作の障壁に対して、もっと驚いてあげるべきだったってことでしょうか?」


「少し、では済みません。驚嘆してください。盛大に!」


ペンギンは首を左右に振り、羽をわずかに震わせながら、心底うんざりしたような空気を漂わせていく。

AIのくせに、やけに“職人の嘆き”めいた空気感を出してくるものだ……というものの、その態度に私は小さな違和感を覚えた。


──障壁が破られたと知った割に、焦っている様子がほとんどない。


普通なら慌てふためいてもいい場面なのに、やけに静かで、むしろ余裕すら感じる。

つまり、まだ機械人形が倒される心配はない──そんな“切り札”が残っていると見ていいのだろう。


案の定、ペンギンはくちばしの端をニヤリと吊り上げ、月光に照らされた金属のボディを誇らしげに輝かせながら言葉を続けてきた。


「とはいえ、さすがは三華月様。まさか障壁を、あれほど容易く突破されるとは……私も想定外でした」


「だが──まだ機械人形は攻略の途上。そういう含みなのですか?」


「おや……気付かれましたか」


「ええ。ペンギンさん、まだ余裕があるようにしか見えないものですから…」


「その通りです。超余裕です」


あまりにも堂々と言い放つものだから、思わず笑いがこみ上げてくる。


「つまり……絶対回避以外にも、まだ仕掛けが残っている。そう判断していいということですか?」


「さすがです。お察しのとおり、三華月様のスキル『ロックオン』──あれについても、既に対策済みです!」


ペンギンは胸を張り、夜風に金属の身体をきらりと鳴らした。


「すなわち、障壁が突破された程度では揺るぎません。ロックオンそのものを無効化してしまえば、三華月様の攻撃など、私の機械人形には一切届かないのです。いやぁ……無駄な努力をしていただき、お疲れ様でした。ニャハハハハ!」


ペンギンの顔は、もはや芸術的と言って差し支えないほどのドヤ顔に到達していた。

胸を張り、目を細め、そのくちばしの角度にまで“勝ち誇り”が宿っている。

ここまで自信満々だと、逆に立派だと思えてくるから不思議だ。


なるほど──『ロックオン』対策もばっちり仕上げていたというわけか。

たしかに口ぶりどおり用意周到ではある。

というものの、聞いてもいないのに得意げに解説を続けるあたり、長々と自慢する気満々だったのだろう。


「機械人形には特殊な回避行動を記憶させております」


「その特殊行動とやらを使えば『ロックオン』を振り払える……そういう解釈でいいということですか?」


「はい。ご慧眼のとおりです」


「つまり、障壁を越えたところで……『ロックオン』さえ剥がしてしまえば、私の狙撃は無効化できる」


「まさしく。その名は『影分身』。ロックオン解除に特化して研ぎ澄まされた、珠玉のスキルです」


「それがペンギンさんの“もう一つの切り札”、ってわけでしたか?」


「ええ。ですので三華月様、どうか機械人形を葬るためのスキル──存分に解き放って下さい」


ペンギンは両翼を大きく広げ、まるで舞台の幕を引き開く道化師のごとく誇張した“どうぞ”のジェスチャーを見せつける。

ほんと芝居がかったAIだ……だが、ここまで挑発されては腹も決まる。

では──機械人形、仕留めさせてもらいましょう。

私は————




スキル『マルチロックオン』を起動し、間髪入れず『転移』を連続して発動する。




目の前に拳ほどの大きさの魔法陣がふわりと浮上し、淡く脈動する光を内包しながら静かに回転を始めた。

同じ紋様が周囲に立ち並ぶ機械兵たちの装甲にも、焼き印のように次々と刻まれていく。

月光を受けて魔法陣は白銀の閃光を返し、張り詰めた空気はさらに冷たく鋭さを帯びた。戦場は、息を呑むほどの緊迫に支配されていく。


だがペンギンは──微塵も動じない。

背中が雄弁に語る。「想定内」。そしてその奥底には、薄く愉悦すら灯して。


「三華月様。それでは『影分身』にて、機械人形たちに刻まれた『ロックオン』を解除させて頂きます。どうぞ、お見逃しなく」


その号令とほぼ同時に、機械兵の輪郭がぐにゃりと歪んだ。

影がずれ、残像が揺れ、空気が乱反射する。

以前、追跡者が披露した『分身の術』や『身代わりの術』と酷似しており、まさに機体の輪郭が跳ねるような異様な動きだ。


そして、刻まれていたロックオンが次々に剥がれていく。

たしかに予告どおり、見事なスキルだ。

というものの、こちらの切り札はこれからだ。


次の瞬間。


――――――『マルチロックオン』の効果が発動した。


外れたはずの魔法陣が、まるで意思を持った生き物のようにふわりと浮き上がり、全方位へと散っていく。

旋回し、軌跡を描き、標的を探して猛スピードで収束し──


ひとつ、またひとつと、機械兵の身体へ再び吸い付いていった。


これこそが──『自動追尾機能』。


剥がれたはずのロックオンが、光の粒子となって全機のボディに次々刻まれていく光景は、まるで雨が逆流して天へ昇っていくようだった。


もしこれがただのロックオンなら、ペンギンの言った未来になったのだろう。

しかし、そうはさせない。


想定外の状況に、ペンギンの声が完全に裏返っていく。


「何だ。何が起こっているのだ! なぜロックオンを外したにもかかわらず、機械人形を追尾してくる!」


「これは、スキル『マルチロックオン』の自動追跡機能です」


「えっ……ま、マルチロックオンって何ですか?」


「はい。その名のとおり、追跡性能を付与したロックオンとなります」


「……すいません。聞いたことがないのですが」


「スキル『未来視』と『ロックオン』を同期させて、新しく創ってみました」


「創ってみましたって……!」


ペンギンの額に青筋が浮かび、そのボディがぷるぷると震えだした。

どう見ても怒りの最終段階。

予想以上の怒りっぷりに、むしろ感心すらしてしまう。


そして、顔を瞬く間に真っ赤へ染め上げると──ついに爆発した。


「好き放題! ポンポンと気軽にスキルを創生しないでもらえませんか!

行列が出来るラーメンとはですね、試行錯誤と挫折を噛み締めながら、少しずつ完成へ近づいていくのです!

これこそが世界の理であり、三華月様のその蛮行は──完全なるルール違反なのですよ!」


ペンギンの怒号は、すでに怒りという概念を逸脱して混沌へと変質していた。

怒りの矢印がどこへ向かっているのか、当の本人すら把握していないだろう。

ここまでくると、むしろ同情心が芽生えてしまう。

とはいえ、延々と騒がれるのも面倒だ。


――なら、まずは機械兵たちを終わらせて差し上げましょう。


言葉は静かだったが、その内側には微塵の迷いもなかった。

私は“運命の矢”を続けざまにリロードし、一本、また一本と確かめるように弦へと添えていく。

指先に伝わるのは、冷えた金属と、研ぎ澄まされた魔力の感触。


ギリ……と、張り詰められた弦が低く唸ると、その音は夜気へ溶け込むようでありながら、草原を支配していた静寂を確かに震わせていた。

風は止まり、虫の音すら遠のき、世界そのものが次の瞬間を待ち構えているようだ。


視界の奥、標的を捉えた瞬間、ロックオンの自動刻印が淡い光を伴って走っている。

ほんの一瞬、呼吸を整えた。

それは躊躇ではなく、狙いを完全に定めるための儀式に近い。

次の刹那、私はためらいなく指を離していた。


―――――――――RABBIT SHOOT


放たれた矢は、現実から切り離されるかのように転移し、重力という概念すら嘲笑うかのような軌道で、敵陣へと躍り出していく。

防御用の障壁が淡く瞬いたが、矢はそれを意にも介さず、すり抜けるように越えていった。


スローモーションのように引き延ばされた感覚の中で、魔法陣を刻まれた機械兵たちの胸部――そこに埋め込まれたコアが、はっきりと見え、次の瞬間、矢は吸い込まれるように、正確無比に突き抜けていく。


キィン……という高い共鳴音。

青白い光が一つ、また一つと途切れ、消えていく。

動力を失った機械人形たちは、わずかに痙攣するような動きを見せたものの、やがてガシャン、ガシャリと乾いた金属音を残し、草原へ崩れ落ちていった。


ペンギンは、その光景の只中で完全にフリーズしていた。

“絶対に破られないはず”と信じていた兵器が、一瞬で終わったのだ。


「完全無欠のはずの機械人形が……」


呟きは震え、瞳は焦点を失い、魂だけが抜けてしまったようだった。

というものの、私としては「対策は終わったのかしら」と肩でも回したい気分だった。


今の私は月の加護を受け、神域へ片足を踏み入れている状態。

究極魔法を放つようなドラゴンであっても、まともな勝負にはならないだろう。

夜風が静かに草を揺らし、機械の残骸を微かに鳴らす。その音が、逆に静寂を際立てていた。


私はゆっくりとペンギンへ歩み寄っていく。

彼は処理落ちしたキャラのように固まったまま。

ゼロ距離に近付いたところで、ようやくペンギンの目が私に焦点を戻した。


「三華月様。私を……どうなさるおつもりですか」


「どうするって……あなた、さっき言っていましたよね。“移動都市を守るプライドを失った時は、死ぬ時だ”って」


「言いました。確かに言いましたけれど……いえ、それと処刑はまったく別問題です!」


「いえいえ。まずは、奴隷たちを解放。それから移動都市を撃ち落とします」


「その後ですよ! その後、私はどうなるとお考えですか!」


「流れ的に、自害という結末になるんじゃないですか?」


「自害って……勝手に殺さないでくださいよ!!」


ペンギンが青ざめた顔で抗議を始めた、まさにその瞬間だった。


――――ゴゴゴゴゴォッ。


低く腹の底を揺さぶる地鳴り。足元がピシャリと震える。

上空50mに浮かぶ島。天災など起こるはずがない。

なのに、草原には蜘蛛の巣のように白い亀裂が広がり、地面がぎしぎしと軋みながら沈んでいく。

巨大な断層がゆっくりと裂け、島全体が二つに割れようとしているのだ。


私は反射的に古城を見やる。

……そこだけは微動だにしていない。


つまり、移動都市は古城だけを残し、草原部分を切り離すつもりなのだ。


———落ちる!

私を、海に落とすつもりなのだろうか……?


崩壊した草原地帯と一緒に、海へ自由落下していく。

見上げると、ペンギンの姿は古城へ引き戻さている。

目が合った瞬間、彼は無理やりドヤ顔を作り、叫んできた。


「兵法とは、常に二の矢! 三の矢を備えておくものなのですよ! ガハハハハハ!」


勢いだけは妙に回復している。

とはいうものの、この浮遊島崩壊が“二の矢”に該当するのかしら、少々疑問である。


海へ落ちても、『壁歩』で水面を踏みしめられるため、私にダメージはほとんどない。

だが、このままでは確実にペンギンを取り逃がしてしまう。

ならば──選択肢はひとつしかない。


あまり使いたくはないが……

ここは、時間を止めて古城に戻るしかない。


自由落下の感覚に身を委ねつつ、意識を深く沈めていくと、世界の音がひとつ、またひとつと消えていく。

潮風は空中で固まり、色彩はセピアに褪せ、すべてが凍るように静まり返る。


時間の境界に触れ、私は空中でぴたりと固定された。

だが、月の加護が脈打つたび、指先がコンマ0.1mmほど震える。

その微かな揺らぎが、時間の殻を破る鍵となる。


――ビキリッ。


体に自由が戻った。

静止していた時間の幕が破れた瞬間だ。


心臓が再び鼓動を打ち、血液が全身を駆け巡る。

私は崩れゆく地面を蹴り、古城へ向けて跳躍を開始した。


──シュッ……タッ……シュッ……


一歩、一歩が空中でスローモーションのように引き伸ばされているのだろう。

舞い上がった草原の土が粉塵が、粉塵は鋭利な刃となり、私の体を深く擦り裂いていく。

飛び散った血が空中で固まり、赤い花弁のように舞い散る。


止まった時間を動く行為は、まさに命を削る所業。

粉塵さえも凶器であり、何より致命的なのは……


—————————『自己再生』が発動しないこと。


体に刻まれる痛み。

ひとつ動作をするたびに、指先から爪先まで神経が悲鳴を上げている。

それでも、後退する選択肢は存在しない。

覚悟を決め、前へ──。


血まみれの身体を引きずり、跳躍を続けさせてもらいましょう。

──足が踏み込む瞬間、砂利が散り、土が砕ける。

──空気を蹴るたびに、波紋のような衝撃が腕を伝う。

──視界の端で、粉塵が赤い光を放つ。


そして、なんとか古城へ飛び込んだ。


ドン、と着地した瞬間。

音が戻りはじめていく。

セピア色だった世界に色が回復いている。

裂けていた肉が閉じ始め、新たな血が体に生成され、痛みが霧のように消えいた。


ペンギンからすらと、瞬間移動してきたように映っていたのか。

──海へ落ちていたはずだった私が、目の前に立っており、思考は完全にクラッシュしていた。

尻もちをつき、情けない叫びが響く。


「またチートですか!? 本当に! もういい加減にしてくださいよぉ!!」


ペンギンの悲鳴じみた叫びが、潮を含んだ風にあっさりとかき消されていく。

もはや抗議というより怨嗟だ。


眼下の光景は壮絶だった。

つい先ほどまで全長1kmの大地として広がっていたグラングランは、中心の古城だけを残し、草原一帯が巨大な欠片のように剥がれ落ちていく。

巨大な氷壁が砕けるような音が連続し、白い飛沫が荒波の上に煙のように立ちのぼっていた。


陸地の“余分”がそぎ落とされたせいで、移動都市グラングランの速度は目に見えて上昇している。

潮風がより鋭くなり、髪が容赦なく乱される。

というものの、そんな大災害級の景色より──目の前のペンギンが右往左往している様子のほうがよほど興味深い。


私は軽く指先を折り曲げ、挑発するように招いた。


「ペンギンさん。準備はとうに整っております。さあ、好きな時にどうぞ」


「……何が“好きな時に”ですか」


「三の矢。もちろん、まだ秘蔵しておられるのでしょう?」


「ああ……そんなことも、確かに口走っていましたねぇ」


「では。そろそろ披露していただけませんか」


ペンギンは盛大なため息をつき、肩を落とした。


「……やれやれ。仕方ありません」


そう呟くと──

なぜか、そのまま地面へうつ伏せに倒れ込んだ。


そして叫ぶ。


「申し訳ありませんでした!」


……理解が追いつかず、まばたきが一つ余計に増える。


「……それ、何をされているのです? 三の矢とは程遠いように見受けられますが?」


「土下座ですよ! もちろん土下座に決まってるでしょう! 見て分からないんですか!」


「いえ。土下座は両手と両膝をつけて行うものです。うつ伏せは、ただの転倒ですよ」


言った途端、ペンギンはうつ伏せのままプルプルと震え始めた。

完全に“爆発前の振動”だ。


彼は勢いよく顔を上げ、身体を払いながら立ち上がると、低く通る声で抗議してきた。


「私は! 手足が短いんですよ! 三華月様の言うような教科書通りの土下座なんてできるわけないでしょう! 見れば分かるはずです!」


「まあ……確かに。お腹も豊かですし、物理的制約があるのは理解します」


「お腹が出ているとか! 中年男性みたいな言い草は控えてください!」


「では、その味わい深い謝罪ポーズはもう結構です。三の矢を披露していただけますか」


再びペンギンがプルプル震え、額の青筋がくっきりと浮かびあがる。

ここまでくると、彼の怒りのテンプレ化に感心すら覚える。


そして──ついに堰を切った。


「だ、か、ら! 『申し訳ありませんでした』と言いましたよね!

土下座もしたでしょう!

三の矢なんて、もう忘れてください!

しつこく追及する女とか、ネチネチ粘着する性格は男に嫌われるんですよ!

三華月様って見た目は可愛いのに、どうして男が寄ってこないのか……そろそろ自覚すべきじゃないんですか!」


……はい。

結論だけ申し上げますと──その態度では、露ほども謝罪になっていないのではないでしょうか。

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