第十話:お披露目会の始まり
お披露目会当日となった。
この日は貴族たちだけでなく、王都の民たちもお祭り騒ぎをする日だ。そのため街は朝から騒がしく、熱気に包まれていた。
「街全体がソワソワしていますね、父上」
「王族の十歳の誕生日パーティーでもあるからな。民たちも注目している。それに、今日は王家から民に酒が振舞われるから楽しみにしているのだろう」
「へぇ、そんなことしているんですか」
王都の人口はかなり多いはず。
全員に酒を振舞うなんて、豊かな王国だからできることだろう。パーティーでも金がかかっているのによくやるものだ。
「それより、もう着替えておいた方がいいわ。お昼には王城へ向かうからね」
「わかりました母上」
それじゃあ着替えてきますか。
―――――
鏡を見て、身だしなみが整っているか最終チェックをする。
タキシードに似た黒い貴族服には、しわ一つない。少し長い茶髪を後ろでまとめて小さなポニーテールを作り、清潔感を演出している。
最後に、〈抽出〉という魔法で柑橘系の香りを生み出して、軽く纏えば完成。
「うん! いいんじゃないかな。これなら第一印象は最高のはずだ」
メラビアンの法則というものがある。
人は、どんなに「嬉しい」と言われても怒りの表情であれば、「怒っている」という印象を持つ。
要するに、人に与える影響度で最も高いのは視覚情報ということだ。
また、王族と至近距離で会うことになるため、匂いにも気を使っている。
匂いは、五感の中で最も記憶に残る感覚だ。
未だに、電車の中で嗅いだおっさんの体臭の匂いは忘れていない。
俺の体臭が臭いとは思わないが、あんな思いを王族にされたら困る。俺の印象が最悪になってしまうからな。
「ジン。準備終わった?」
扉の向こうからケイリーの声がした。
終わったぞー、と返事をすると入ってくる。
「そろそろ出るみたいだから一階にあ――」
ケイリーが固まった。
ボケーッと、真っ赤な顔で俺を見ている。
「どう? 似合うかな?」
「……」
クルリとターンをして全身を見せる。
俺としては、できることはすべてやったつもりだ。
……反応が返ってこない。
再起動させるためにケイリーに近づくと、その勢いで真正面から抱きしめる。
「ジッ、ジン‼ 駄目っ! 今は駄目なのっ」
振りほどこうとするケイリー。
でも全く力が入っていない。面白くなってきたので力を強める。
「あ、あ、あぅ…………」
ケイリーは完全に力が抜けてしまったようで、寄り掛かってくる。
肩を掴み、少し離れると耳まで赤く染まっていた。
「ケイリー、大丈夫?」
「……全然大丈夫じゃない。カッコいいし、何かいい匂いするし……」
「本当か? そう言ってもらえて嬉しいよ」
顔がにやけそうになる。
やはり、カッコいいと言われると嬉しいものだ。それが愛する女性ならなおさら。
それに貴重な女性の意見を貰えた。これなら王族と対面するときも安心できる。
「それにしても……そのドレス、とても似合っているよ。惚れ直しちゃった」
「ほ、ほんとう? よかったぁ……」
安心したとばかりに胸をなでおろすと微笑む。
ケイリーは、肩が出ている青のパーティードレスを着ている。
いつものローブだと分かりにくい胸のサイズがよく確認できる。
個人的には、ちょうど良いサイズだと思う。
「さっ、一緒に行こう。一階に集まるんだろ?」
「……う、うん、そうだよ」
父上たちを待たせたら悪い。
ケイリーの手を引っ張って、一階に行く。
エントランスには、家族全員が揃っていた。ちなみに、ジュリアはお留守番だ。
従者の仕事に慣れていない状態で、王城に連れて行けるわけがない。
悔しそうにしていたが、諦めてもらった。
「ほぉ……こりゃあ驚いた。ここまで来ると嫉妬すらおきん。なぁ、アラン」
「そうですね父上。ただ、他の貴族の男が嫉妬で狂いそうで心配です」
「ハハハッ、確かにそうだ。ケイリー嬢にも嫉妬の目が行きそうだな」
「笑い事じゃありませんよ……」
酷い言われようだな。
確かに自分の容姿は優れていると思う。けど、基本的に貴族は美男美女が多い。
嫉妬で狂うほどにはならないはずだ。……多分。
「父上、時間の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。むしろ遅めに出た方がいい。でないと、あとから到着した他家の者が気後れしてしまうからな」
「なるほど。理解しました」
おっしゃる通りだ。
辺境伯家が先に着いていたら、子爵家や男爵家の者たちは相当居心地が悪いだろう。
ただの伯爵ならまだしも、うちは王国一豊かな領地を持つ辺境伯。睨まれたら終わりだ。
「ふむ、そろそろ向かってもいい頃合いだ。皆、馬車に乗ろう」
父上の一声で全員が動き出す。
三台ある馬車の内、最も豪華な馬車に父上、母上、お爺様、お婆様、俺、ケイリーが乗り込む。
残りの二台は、使用人が乗る馬車とピアノやプレゼントなどの荷物が積み込まれた馬車だ。
ついに社交界デビューの時がきた。
王族と貴族共に強烈な印象を与えてやるのだ。王国に素晴らしく頼もしい人間が生まれたと。
……必ず成功させてみせる。
ここからが野望の始まりだ。
―――――
王城に到着し、俺たちは王城の大広間に向かう。
そこには見ているだけで暑苦しくなるほど大勢の人が集まっていた。
周りを見渡すと、俺と同年代の子から老人まであらゆる人たちがいる。
お披露目会は王族の誕生日パーティーでもあるが、貴族たちの交流の場でもある。
上位貴族に娘や息子を売り込んだり、政治や経済的な話が行われたりする王国で最も大きな集まりだ。
「さて、最初はリーグリット侯爵のところに行こう」
父上の先導で中に入る。
すると、貴族たちが騒ぎ出した。
「おい、アトラス卿がいらっしゃったぞ。」
「後ろの子はご子息のジン様か。なんと凛々しいお方だ」
「魔物の大氾濫を魔法一つで全滅させるほどの実力者らしいな」
「それは本当か⁉ 何としても顔を繋がねば……」
色々と噂がたっているようだ。
その中に悪いものは入っていない。少し誇張されたものはあるが、悪影響を及ぼすほどではないので問題ない。
大広間の最前列まで来ると、安心したような表情で近づいてくる中年の男がいた。
「久しいなアトラス卿。無事とは聞いていたが安心したぞ」
「リーグリット閣下、お久しぶりです」
二人は握手をする。
彼が同じ王権派の代表格、リーグリット侯爵か。
侯爵のお父上である宰相閣下ほどではないが、鋭い目つきをしている。
「本当に災難だったな。卿が魔物の大氾濫に巻き込まれたと聞いて、心臓が止まるかと思ったぞ」
「ご心配をおかけした。ですがこの通り、怪我なく済みました」
「噂によると、ご子息が大活躍したらしいではないか」
そう言って、俺を見てくるリーグリット侯爵。
俺は一歩前に出る。
「侯爵閣下、お初にお目にかかります。アトラス辺境伯家アランの息子、ジンです。ジンとお呼びください」
胸に手を当てて、笑顔で話しかける。
リーグリット侯爵は少し眉を上げると笑顔で対応してきた。
「よろしくジン君。私は、ジャスパー・リーグリット。侯爵家の当主をしている。……たしか、ジン君は十歳だったよな?」
「はい。そうですが……それが何か?」
「いやなに、十歳にしては身長が高いと思ってな」
「なるほど、そういうことでしたか」
俺の身長は中学生程度で、間違いなく十歳の平均身長を大きく上回っている。
原因は〈生命力操作〉の副作用だと考えられる。
寿命を増やすために、植物から生命力を吸収するようになって以降、身長の伸びが早くなったり、肌荒れやニキビができなくなったりといいことずくめの効果を発揮していた。
「いやはや、この歳でしっかり受け答えができるとは……優秀なお子さんをお持ちで卿が羨ましい限りだ」
「ハハハッ、自慢の息子ですからな」
頼むから公共の場で親バカを発揮するのはやめてくれ父上。
そんなことを切に願いながら、二人の会話を聞いていると、大広間の横から儀典官が出てきた。
「もう間もなく式典が始まります。皆様、ご整列ください」
会場にいる貴族たちは、自分の子供を連れて整列を始める。父上たちも会話をやめて、それぞれ所定の位置に立つ。
俺たちが立っている位置は右側の最前列だ。王族の顔が良く見える特等席といえる。
後ろに振り返ると、伯爵家以下の貴族たちが並んでいて、後ろまで見通すことができない。
視線を下げると、伯爵家の令嬢だと思われる子と目が合った。
微笑み返してやると、耳まで真っ赤になって俯いてしまう。
……俺の顔、破壊力が半端じゃない。対女性兵器みたいになっている。
前世のイケメンたちはこんな景色を見ていたのかと思うとイラッとするが、今は自分もイケメンなので怒りを抑える。
突然音楽が鳴った。
貴族たちのざわめきが無くなると、儀典官が口を開く。
「王家ご一行の御入来です!」
この時、片膝をつく必要はない。
男はズボンなのでいいが女性はドレスを着ているため、片膝をつくことができないからだ。
壇上の横から王族たちが入ってくる。
おそらく国王陛下、第一王妃殿下、第二王妃殿下、王太子殿下、第一王女殿下の順番で並んでいると思われる。
一つ年下の第二王子殿下と第二王女殿下はいない。
今回の大きな目標は、王族と貴族たちに良い印象を植え付けることと王族内に火種があるか確認することだ。
後者についてはできれば確認したいと思っている。火種があるかないかで、今後の方針が変わるからな。
頑張ってやり遂げてみせよう。
遅くなりました。あと、水・木は予定が入っているので投稿できません。その分、金・土・日で連続投稿します。よろしくお願いします。
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