序章 トラックと女神様
第九王子のスローライフ?のようなストーリーです
結論から言うと、俺は死んだ。
高校の帰り道、コンビニで肉まんを二個買って、その場で片方を食べながら歩いていたら、信号無視のトラックが突っ込んできた。運転手が居眠りをしていたらしい。最後に見たのは、フロントガラス越しに驚いた顔をしたおっさんだった。
痛みは、なかった。
気づいたら、俺は真っ白な空間に立っていた。足元も壁も天井もない、ただ光だけがある場所。そして目の前には、やたら綺麗な女性が浮かんでいた。
「ようこそ、狭間の間へ。あなたは今しがた、トラックに轢かれて死にました」
「……あ、はい。知ってます。当事者なので」
「冷静ですね。気に入りました」
女神様(自称)は、にこにこしながら手をパチンと鳴らした。すると空中に、まるでゲームのステータス画面みたいな半透明のウィンドウが浮かび上がる。
「あなたのような、志半ばで命を落とした魂には、二つの道があります。一つは、そのまま輪廻の輪に還ること。もう一つは――異世界に転生して、第二の人生を歩むことです」
「異世界、ですか」
「はい。剣と魔法があって、竜や魔族がいて、そういう世界です。テンプレート的で恐縮ですが」
女神様は悪びれもせずそう言った。この人、絶対に何百人もの転生者にこの説明をしてきたな、と俺は思った。
「転生していただくにあたって、一つだけお詫びがあります。手違いで、あなたの魂のエネルギーの大半を、輪廻のシステム維持に使ってしまいました」
「はい?」
「なので、今回お渡しできる異能は、かなり控えめなものになってしまいます。ごめんなさい」
女神様は両手を合わせて、拝むようなポーズをとった。控えめな異能。なんだかすでに嫌な予感がする。
「あなたは異世界のとある国の、第九王子として生まれ変わります。ただし王位継承権は最初から持たない立場です」
「王子……ですか。それは、すごい」
「継承権がないので、跡目争いに巻き込まれる心配はほぼありません。のんびり暮らせると思いますよ、たぶん」
「たぶん、が気になるんですが」
「異能については、生まれてすぐには発現しません。ある程度成長してから、ふとしたきっかけで目覚めることになると思います。何が目覚めるかは……私にも正確には分かりません。すみません」
女神様は最後まで申し訳なさそうだった。悪い人ではないのだろう。ただ、仕事が雑なだけで。
「一つだけ聞いてもいいですか」
「なんでしょう」
「その世界で、俺は死なずに、平和に暮らせますか」
女神様は少し考えてから、困ったような、それでいて優しい笑みを浮かべた。
「平和かどうかは、あなた次第だと思います。ただ――あなたには、人を惹きつける性質があるようです。良い意味でも、悪い意味でも」
「それ、どっちなんですか」
「行ってからのお楽しみ、ということで」
そう言って女神様が指を鳴らした瞬間、視界が真っ白に染まり、俺の意識はそこで途切れた。
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