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金銭感覚──ケチと気前の二刀流
秀吉の調略を貫く特徴に、金銭の使い方の振幅がある。
台所奉行時代の伝承は徹底した経費節減の才を語り、天下人時代の秀吉は史上空前の散財──黄金の茶室、大判の大盤振る舞い──で人を圧倒した。
ケチと浪費は矛盾しない。どちらも、金銭を目的でなく効果で測る計算の産物である。
第四章で述べた通り、黄金の調略は渡し方で価値が変わる。
秀吉の撒き方には型がある。
1.公開性──衆人環視の中で与え、受け取る者の名誉に変換する。
2.過剰性──相場を一桁超えることで、金銭を「器量の証明」に変える。
3.物語性──黄金の茶室のように、富そのものを見世物として流通させ、実際に渡した以上の心理効果を得る。尼子経久の「気前」(第八章)が正当性なき権力の維持コストだったのと同型だが、秀吉はそれを広告として運用した点で一段進んでいる。
成り上がり者の富は、血統の欠如を埋める唯一の権威財だった。




