49話 逆転の発想
結局あれから私たちは。
生えたスキルの検証を兼ねてバトルを数戦繰り返していた。
カメラマンであるミルちゃんのアングルが下手くそとか、リノちゃんが見切れてるとかとにかく注文が多く入った。
とはいえ、あまり詰め込んでも物にならない。
別にPVを撮るわけでもないし。
そう言うスキルが芽生えただけでもよしとしようじゃないか。
そんなこんなで私たちはファストリアとセカンドルナの中間地点を歩いている。
ファストリアに帰るには若干遠く、しかしセカンドルナにはさほど用事がない。
どっちに行くか?
そんな話題を出していた時、ミルちゃんから提案があった。
「ここって二つ目の街にほど近いんだよね? なんだったら寄っていかない?」
「そだね。ファストリアと違った商品とか売ってそう。時間は大丈夫そう? ハヤテ」
お姉ちゃんは二つ目の街に期待を示している。
けど、遊べる時間の心配は私任せだ。
画面内にあるんだから見ようよ。
「一応平気だけど、シズラさんに帰りが遅くなること連絡しとかないといけないね」
「おばちゃん?」
リノちゃんにとったらどうしてそこでシズラさんの名前が出てくるのか不思議で仕方がないらしい。
まぁ子供ならば仕方ないか。
しかし親世代としては子供だけで遊ばせておくのは心配。
きっと私たちが帰ってくることを想定して屋台の席を開けておくことくらいしてるだろう。
「昨日はお世話になったし、ログアウトする前にご飯食べに行くのが通例になってたから。もしかしたら今日も寄るかもと場所取りをしてくれるかもだし」
「なるほど! 確かにおばちゃんならそこまで考えてくれてそう。鋭いね、ハヤちゃん」
「普段からお世話になってるしね。じゃあセカンドルナによることを報告しとくね。みんなはそれまで何してる?」
「ドロップアイテムのチェックとか?」
「そだね、ストレージは有限だから整理は大事」
「あたしはマーケットの売り出し見とくよ」
「よろー」
そう言うことになった。
ドロップは勝手にストレージに入るシステムなので、気がついたらいっぱいになることもしばしば。
人によっては不用品になるアイテムも多く、ゴミと思って捨てちゃう貴重品とかもある。
牛のフンとか腐葉土とかは畑作りにおいての貴重品だって、後になってから知ったよね。
いらないと思って全部捨てた後に判明するのはずるいよ。
なんだかんだ【料理】で出たゴミは【錬金】で使いまわせるのが嬉しいのだ。
そう言う意味では畑作りをしている人はみんな偉いと思っている。
「ついでにお土産買ってこうよ」
「いいね。今日だけでずいぶん稼いだし」
お姉ちゃんとミルちゃんは早速皮算用を始めていた。
今日だけで『命のかけら』を100個以上入手。
しかも割高での販売だ。
手に入れたつもりでいる金額で早速何を買うかを決めかねている。
マーケットでも武器の類は売っているが、装飾品などは目玉が飛び出る金額だったのでそっとスルーしていた。
わかるよ。
このゲーム、見た目装備の方が高いんだもん。
シズラさんにフレンドチャットで連絡。
返事を待っている間、私もお姉ちゃんたちの会話に加わった。
時間的に繁忙期。
呼びかけても返事ができない可能性もあるか。
だいぶ待たされるだろうことを予感しつつ、その浅はかな考えを打破する。
「お金を出したのは私だけどね」
「あ、そだっけ?」
今『命のかけら』は過剰入手によって暴落の一途。
昨日私が買い上げた金額でずっと売れるわけじゃない。
それでも私が買い上げた理由は一つ。
私に直接売ってくれたら儲かるよ、と言う洗脳だ。
と、いうのも需要があるので多少高くても買う層が少なくない。
つまり、今はたくさん手に入るから特に何も備えなくてもいいということにはならないのだ。
なんなら定期的に入手できるこのメンバーに私の生産ライフはかかっていると言っても過言じゃない。
だからこそ懐が厳しくても、マーケットに流すと損だよと洗脳している。
そして友達報酬としてお弁当を渡す。
これぞ持ちつ持たれつというやつだ。
「今は需要があるからこの値段。でも今回のドロップ騒動で値段は徐々に落ち着いてくる。昨日ほど高く売れるとは思わないことだね」
「そんなー」
ミルちゃんがわかりやすいくらいしょげている。
まぁ相場なんて水物だから。
物欲が強いとその分損失を出しやすくなるのだ。
「でも、私だったらいつでも友達価格で買い取るよ。一つ700でどう?」
「昨日は800だった!」
なんてことだ。まさか覚えてるとは思わなかった。
私は大仰に驚く。
「市場価格はもう500を下回ってるよ? 私なら700出すけど、無理してマーケットに800で出すっていうなら引き留めはしないけど」
「あたしは800で売れる道を探すもんね!」
そんな話で盛り上がる。
しかし先ほどの勢いはどこへやら。
ミルちゃんは萎れながら私に縋り付いてきた。
「ハヤっち。700でもいいので買ってください」
「私は別にいいけど、それでミルちゃんは納得できるの?」
「マーケットの買取相場、350まで下がってた」
「あら」
まさか昨日の今日で半額に落ちるとは。
そのまま200まで下がって欲しい。
ミルちゃんには悪いがこれは生産職全員の願いである。
失敗を見越して多く買い込むので、単価は安ければ安いほどいいのだ。
と、そんな時。
ファストリアのシズラさんから遅めの連絡。
ただそこには不穏なメッセージも記されていて。
「シズラさんから二つ目の街の座標もらったよ。でも、おかしな情報ももらっててね」
「おかしな情報?」
「どうも私たちが二つ目の街に進んだと同時に『命のかけら』のドロップ率が元に戻ってしまってっていう話」
「それは確かにおかしな話だね?」
偶然にしたって不可解だ。
まさかレイちゃんがこの一連のイベントの首謀者だったり?
まさかね。
「でも暴落が落ち着くんならあたしたちに風が向いてきたんじゃない?」
ミルちゃんが手を向けてくる。
まるでさっき売った『命のかけら』を返品してくれと言わんばかりだ。
「さっき買い取ったものなら返さないよ?」
「なんでーーーー!!」
なんで返してもらえると思ったんだろう?
私は正当な額で買い取ったのに。
もう絶対に手放さないもん!
「それともう一つ」
「まだあるの?」
これ以上悪い噂は勘弁してー、とミルちゃんは耳を塞いだ。
でも悪い噂って続くんだよね。
「私たちがこれから向かうセカンドルナに調理台を扱ってる拠点はないそうなの」
「終わった」
程よく小腹をすかしていたミルちゃん。
その感情を痛いほど理解できてしまう。
ここには食材も料理人もいるのに、肝心の調理台がないのだ。
せっかく座標をもらえど、そこに行く目的の半分以上が失われてしまった。
「あ、でもさ」
何かを思いついたお姉ちゃん。
こういう時のお姉ちゃんの考えは大抵碌でもないことが多い。
「一応聞くけど、何を思いついたの?」
「トキっち。あんまり場をかき乱しちゃダメだよ?」
「ちょっと、みんなしてひどくない? あたしたちのこれだよ!」
お姉ちゃんは手に入れたばかりの幻想武器を取り出した。
その上でポロンポロンと音を鳴らす。
「幻想武器がどうしたの?」
「ハープで野菜を切るってこと?」
「ちーがーう! そもそもこれって武器の種類にないよね? そりゃゲームによっては楽器でも武器になるけど、AWOはそういうシステムはないじゃない?」
「何を言いたいかはさっぱりだけど、そうだね」
「じゃあこの幻想武器、調理台に変えられない?」
「無理じゃない?」
「熱はないね」
ミルちゃんが突拍子もないことを言い出したお姉ちゃんのおでこに手を置いた。
いや、でも。
本来武器として扱うものを楽器に変質化できるのなら、その応用も可能かもしれない。
「やってみよう」
「本当にやる気?」
「流石ハヤテ! あたしの妹。お姉ちゃんの気持ちを汲んでくれたのね!」
別に汲んでないけど、ここは汲んだということにしておこう。
私は腰にくくりつけたマラカスに念じる。
形よかわれ! その姿を調理台に変化させよ!
マラカスは即座に卵形態に変わるなり、光り輝く。
そして
ピコン!
<その願いを叶えるにはパワーが足りません>
<必要パワー:1/4>
アナウンスが走ったあと、卵は地面に落ちてマラカスの形に戻った。
「どうだった?」
「願いに対するパワー不足だって。みんなの幻想武器を借りたらできるかもしれない」
「できるのね!」
「私の刀……」
リノちゃんはどこか惜しむように幻想武器を手放し。
そしてついに幻想武器はその場に調理台を作り上げた。
ピコン!
<幻想武器はスキル【調理台1/4】を獲得しました>
このスキルをセット中、武器の所有者は任意で調理台を召喚できます
「できた!」
「本当にできちゃった!」
「これ、画期的じゃない?」
「でも全員揃ってないとできないやつだよ?」
「そこなんだよね」
「とりあえず、みんなは何を食べたい?」
話は食事の後にしようということになった。




