48話 ミルちゃんの面目躍如
「そう言えばミルちゃん」
「何かな?」
「さっきの演奏って撮影してたりは」
「あー」
その返事だけで分かってしまう。
頭の中から完全にこれからブログを執筆することが抜け落ちていたことなど。
『今が楽しければいいじゃん!』を地でゆく彼女らしい。
だが今はチーム。
自分さえ良ければいいは通用しないのだ。
「でもハヤテ、いかにミルっちでも演奏しながら撮影はできないんじゃない?」
「そうだよハヤちゃん」
お姉ちゃんに続き、リノちゃんも私の意見には無理があると言葉を続ける。
だが私にはミルちゃんならできるのではないかという確信があった。
「うん、私も思ってたんだよ。でも前回、水底の街で自分を撮影していたことがあったじゃない?」
「あっもしかしてパッキングの中での撮影のこと?」
「?」
私の説明にお姉ちゃんが乗っかり、リノちゃんは首を傾げる。
その場にいなかったリノちゃんは知る由もない。
ミルちゃんの写真がどのように撮られたかだなんて。
スクリーンショットはあくまでも自分の視界に映ったものを切り取る機能しかないのだから。
だからあれは他の誰かが撮ったのだと考えてしまう。
「ミルちゃん、パッキング中にお弁当の中の自分を撮影してたんだ」
しかしそうではないと知っているのはあの時の三人だけ。
お姉ちゃんは知っていて、大した情報じゃないとブログに記さなかったのである。
「ごめん、意味がわからない。スクリーンショットを撮ったんだよね? それで自分を写した?」
その通り。
妖精族は拡大縮小機能がデフォルトでついており、自分を遠巻きに周囲を映すことも可能なのだ。
そう説明すると。
「トキちゃん。なんでそんな面白いことブログに書かなかったの?」
「え、これ私が悪いの?」
誰に責任の所在があるかは前回のブログへの記載ミスに依るもの。
私は提示したけど、必要ないと切り捨てたのはお姉ちゃんである。
「ハヤちゃんに説明されるまで私わからなかった」
「ごめんて。でも確かにそう言われたらそうだよね。一般的なスクショに自分を対象にする機能はないか……なんでそのことを当たり前に思っちゃったんだろ?」
「きっとわかめに巻かれたレイちゃんの画像を前面に押し出したくて、他のことはどうでも良くなってたとか?」
「それだ!」
インパクトの強い事件の前に、些細な情報など風前の灯。
どちらが相手に強烈な記憶を残せるか?
となれば深海種族の就寝姿だろう。
あれは確かに見た人の記憶に残る映像だけれども。
だからと捨て置く情報でないのも確かである。
「だからミルちゃんは演奏している自分を中心に、演奏している私たちも映すことも可能じゃないかって思ったの」
「なるほど、確かにそれならハヤちゃんの提案もわかる」
ようやくリノちゃんが理解した。
「流石ハヤテ天才! ミルっち、ダメ元でやってみて?」
同調するようにお姉ちゃんは私を絶賛した。
勢いで自分のミスを誤魔化すつもりだろう。
「あたしじゃなきゃ無理?」
「ミルちゃんじゃないとできそうもないねー」
「でもタダじゃなぁ……」
なるほど、仲間内でもこういう強請りをするタイプか。
これはあまり良くない傾向だな。
本人的には可愛いおねだり。
しかしこれが永続的に続くのはストレスの原因になりかねない。
でも私であれば。
「じゃあ、写真協力してあげるから」
「よし、それで引き受けた。今回だけじゃなく、今後もね?」
「しょうがないなぁ。その代わりライブ中の私たちの撮影もずっとミルちゃんの係ね?」
一歩も引かず。
むしろこちらからお願いを強要する。
お互いに強要することで強い絆が生まれるというわけだ。
なぜかお姉ちゃんとリノちゃんが私から距離をとった。
気のせいだといいな。
そんなこんなでスクリーンショットの撮影開始。
全員の見どころを写しつつ、演奏を何度かしてると。
最初こそぎこちなかった各パートに余裕が生まれてくる。
音楽を合わせるのに手一杯だったのが嘘のようにスムーズに演奏ができて、なんだか楽しくなってくる。
そんなことを繰り返していると。
ピコン!
<幻想武器がスキル【演奏】を獲得しました>
<幻想武器がスキル【自動演奏】を獲得しました>
<セットしますか?>
セット可能スキル数:0/5
こんな項目が現れる。
スキルパーツを合わせて作った幻想武器、もとい楽器は、まさか行動を起こすことでプレイヤーと同じようにスキルを覚えることができてしまうものだったとは!
「あ、なんかスキル覚えたって!」
それは私だけに限った話じゃなく。
幻想武器を持った全員が同時にアナウンスを受けたようだった。
「私は【演奏】と【自動演奏】だったよ」
マスカラを振ることで覚えたスキルは音楽系統だ。
これは不思議でもなんでもない。
「あたしは【拡大撮影】だねー。まさかスキルで生えるとは思わなかった」
ああ、そうか。
ミルちゃんは最初から【演奏】を持ってるからそっちを獲得しないのか。
何はともあれ、行動することで獲得したのは大きい。
これで無責任な彼女に責任感が生まれてくれたらいいね。
「っていうか撮影? スクリーンショットの撮影? それとも動画の撮影?」
「動画として撮れるのは2分まで。長いのは無理だね」
「すごくない? 撮影用カメラって結構お値段するって聞くし」
「流石ミルっち。持ってますねぇ」
「フハハ。これからはもっとあたしを崇めるように」
そしてすぐ調子に乗る、と。
こういうところまで一緒なのはもはや運命を感じてしまうな。
「私は【瞬歩】と【一閃】を覚えたよ」
リノちゃんは剣術系統のスキルが生えたらしい。
まぁ刀だし、切りつけて音を鳴らしてたからね。
残当。
「あたしは【音律自在】と【二重奏】だって」
「それはどういうスキル?」
初めて聞くタイプのスキルだ。
名前のイメージからして音楽関係なんだろうけど。
「これは多分だけど、トキっちの絶対音感が関わってるものだね」
「お姉ちゃんにそんな能力が!?」
「なんでハヤちゃんが知らないの?」
本当になんで知らないのか。
お姉ちゃんの中に入って暮らしてるのに、別段そんな能力を持っていることなんて察することができないた。
「ハヤテは寝たきりだからね。一緒に暮らしていると言っても、ほとんどベッドの上なんだよ」
スズキさん人形の中では確かに一緒に寝てるし、ベッドに置き去りにされてるけどね。
しかし他二人は全く異なる状況を受け取ったようだった。
「あ、ごめん……」
「そういう事情があるなら仕方ないか。そう言えば妹がいるって話あんまり聞かなかったし、どうしてだろうと思ってたから」
「いいよ。私はこうやってお姉ちゃんやその友達と一緒に遊べるのが嬉しいから。お姉ちゃんの意外な一面も知れたし…これからもよろしくね!」
「あたしもこの生活がずっと続けばいいなって、あまりみんなに湿っぽい話はしないようにしてたから。だからこの話はここでおしまい!」
話を切り上げて、お姉ちゃんはブログのネタ用に手に入れた楽器の詳細をみるちゃんに教えるように提案。
私たちはこの覚えの悪い妖精に、逐一報告する雑務に追われるのだった。




