おまけ
ジュピターside
あの後マリアルモンテ・ヒダンを突き落としたことがすぐバレて、私は殺人未遂で捕まった。逃げも隠れもしなかったから呆気なかった。
しかしあたしはもうそれどころじゃなかった。すっかり憔悴して冷たい牢の中でぺたんと座り込む。
「あ、ああ……」
あたしは前世で桑 洋子として存在していた時、周りの皆からは『ヨーコ』と呼ばれていた。
しかしただ一人だけ、豊永 ひまりだけは桑さん、と呼んだ。ひまり以外で桑さんと呼ぶ人はいなかった。だから……
突き落とした時にマリアルモンテ・ヒダンが呟いた『桑さん』という言葉で、あたしは気がついてしまった。
「ああああたしは……なななんてことを……」
あたしはあんなに大切にしたかったひまりを突き落としてしまったのだ。ああ、ああ、あたしは……なんてことを……
頭を抱えて懺悔する。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
ぼろぼろと泣きじゃくり、髪を掻き乱す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
自分がしでかした事の大きさに今更気が付いた。更にこの世界で出会った時からずっとぶつけていたマリアルモンテ・ヒダンへの暴言も思い出し、より一層自責の念に駆られる。
あれから私は泣き疲れたように眠り、次に目が覚めた時には処罰が決まっていたようだった。
未遂とはいえマリアルモンテ・ヒダンを亡き者にしようとしたのは事実。もう偽ることもしたくない。だから抵抗も何もしなかった。
なによりあたしの神さまと言っても過言ではない存在を殺そうとしてしまったのだ。どんな罰でも甘んじて受けよう。それが死だったとしても。
あたしの虚ろな目はもう何も映さない。
「ジュピター・クライン。とある方からだ。」
ガタン、牢を開けて誰かが入ってきたようだった。しかしもうあたしには確認する気力もなかった。
が、目の前に置かれたそれを見て目を見開く。
「これは……」
「東の国で親しまれているリョクチャなるものらしいぞ。」
白い湯呑みに入っていた緑色の液体。リョクチャだなんて、前世の緑茶と音も同じ……
毒かもしれない、だなんて考えはこの時のあたしにはなかった。ずず、とそれを一口飲むと、懐かしい味がした。
「これ……ひまりが淹れてくれたお茶と同じ味がする。もしかしてこれを持ってきた人って……マリアルモンテ・ヒダン様……?」
「そうだ。マリアルモンテ様は本当にお優しい方だ。加害者のお前にもこのような情けをかけてくださるんだからな。」
「……そう、ですね……」
このお茶の優しさにほろりほろりと涙が零れた。枯れたと思っていたのに、まだ涙は溢れていく。
ああ、ひまり、本当にごめんなさい。そして……お茶をありがとう。心が洗われた気分になった。
「ほら、それを飲んだら鉱山に行くぞ。」
「はい。」
鉱山での無償重労働、それがあたしに課せられた罰だった。死をも覚悟していたけれども、生きて償えということなのだろう。
自分が犯した罪を前向きに償っていくことにしよう。そして……もし許されるのならば、何十年後でもいいから、ひまりに会って謝罪と感謝をしたい。
そんな希望を持って、あたしはこれからを生きていく……




