2 お弁当
それにしても、私はいつもここで日向ぼっこをしながら昼食を食べたいがためにお弁当を持ってきていますが、他の生徒さんはだいたい食堂を利用しております。なのでラル様がお弁当を持ってきていることに少し驚いてしまいました。
「ラル様、お弁当なんですね。」
「ああ。たまには良いかと思って、な。」
「そうでしたか。」
「ああ。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
……話が続きません。少し冷や汗も出てきました。何か話し掛けなければ、と焦ってしまいます。ああ、笑顔はちゃんと健在ですよ。
ああ、焦りや緊張でグラタンの味が分からなくなってしまいました。ちょっと残念です。もっと味わいたかったのですが……
「……そういえばマリー、転入生の話はもう聞いているのか?」
「はい。皆さんから聞いております。」
そう、この貴族の人脈作りの場として存在するシステーマ・ソラーレ学園に、明日から転入生がやってくるとの噂があちらこちらで囁かれているのです。
もちろん周りの皆様も楽しそうに話していましたから、私の耳にも既に入っています。
確か転入生さんはクライン男爵家の庶子だそうです。今まで母子二人は市井で暮らしていたらしいのですが、父親であるクライン男爵家当主が奥様を亡くしたことを切っ掛けに、二人を屋敷に連れてきたらしいのです。
途中からでも貴族の一員として生きていけるように計らったのでしょう。
「そうか。」
「はい。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
……はっ、もしかして話題を振ってくださったのでしょうか。ああ、それは申し訳ないことをしました。
いつも聞き役に徹していますから、私は自分で話を膨らませる技術も持ち合わせておりません。もう少し話を膨らませる技術を周りから得る努力をしなければいけませんね!
と、これからの目標が出来た所でお弁当を食べ終えました。当初の予定では残りの時間をお昼寝に使おうと思っておりましたが、ラル様がいる隣でまさかお昼寝するわけにもいきません。さて、どう時間を潰しましょうか。
「マリー、昼寝するのだろう?」
「へっ!? な、何故それを!?」
驚きすぎて一瞬笑顔が崩れそうになってしまいました。もちろん、瞬時に笑顔へ戻りましたが。
だってラル様とはあまりにも会話が続かないので、お弁当の後にお昼寝するという世間話すらもしていません。なのでラル様はお昼寝のことは知らないはず。何故ご存知なのでしょう?
「この前廊下を歩いている時に見掛けたから……」
「そうだったのですね。」
なるほどです。たまたま見かけたのですね。そうでしたか。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
再び無言の空間が出来上がりました。ああ、本でも持って来ればよかったです。途轍もなく暇です。お日様はぽかぽかで気持ちいいですが。
どうしましょうどうしましょうとぐるぐる考えていると、ラル様もお弁当を食べ終えたようでした。
「……マリー。」
「はい。」
ラル様の方を向き、次の言葉を待ちます。
「…………、…………いや、なんでもない。」
「そ、そうですか?」
何か話すことがあったのでしょうか。ですがラル様がなんでもないと言うならなんでもないのでしょう。
「……では、また。」
「あ、はい。」
そう言って空のお弁当を持ってラル様は校舎に戻っていきました。やっぱりラル様とのコミニュケーションは難しいですね。




