14 ムーンテラル・ライトバーグ
ラルside
一体何だったんだ、あの変人は。思い出すだけでイライラする。
あの変人のせいで一度私達の間の空気が悪くなりかけたが、その空気感を断ち切ろうとマリーと共に近くの喫茶店に入り一息ついた。
緊張の糸を解した後にも思い出してしまうのは先程の変人のこと。あまりにも強烈すぎて、な。顔には出ていないだろうがとても怒っている。マリーを侮辱するなど言語道断。
先程の変人が私の敵と見なされた瞬間だった。
マリーのことを悪だと言ったあの変人……いや、その呼び方は他の変人に失礼か……いやいや、変人なのだから失礼も何もないか……
とまあ、私は怒りでまともな思考回路をしていなかったが、
「ら、ラル様……?」
マリーの心配そうな声で現実に戻ってきた。
「……どうした?」
「いえ、少しイライラされているのかと思いまして……」
「ああ、いや……先程の変人のことを考えていただけだ。」
「へ、変人?」
マリーは『変人』の言葉に動揺しているようだった。笑顔が一瞬だけ崩れたのが見えた。
「ああ。……マリーはあれを知っているのか?」
マリーに話を振ってみる。挨拶をしていたから多分知り合いなのだろう。
変人の情報などこれっぽっちも要らないが、敵の情報なのだからと自分に言い聞かせて嫌々聞く。知っておけば次の機会がもしあったら(そんなことになったら途轍もなく嫌ではあるが)対処することが出来るだろう。
「え、ええ、まあ。あの子はジュピター・クラインさん、この前転入してきた生徒です。」
「ああ、転入生があれか。まあ随分頭がおかしそうだが?」
「……。」
否定も肯定も出来ないらしい。マリーはスッと顔を逸らした。
「……で、ですが多分ラル様のことがお好きなのでしょう。なんとなくそれは私にも分かりました。」
「……。」
こんな時でも他人の良いところを見つけようとするのはマリーの美徳だ。
しかしそんなの迷惑だ。マリー以外に言い寄られるなど地獄以外の何者でもない。私は女が基本的に苦手なのだから。
まあ、性別関係なくマリー以外の人間は基本的に嫌いだが。それ以外で嫌いではない人間と言えば昔からの友人一人くらいか。
変人に好かれているなど考えただけで眉間にくっと皺が寄ったのが自分でも分かった。
「ら、ラル様……?」
「……ああ、いや、なんでもない。」
そうだ、今はマリーとお出掛け中なのだった。あんな変人のことよりもマリーのことを考えるとしよう。眉間に寄った皺を指で解す。
「なんでもないなら良いのですが……。しかしあまりお一人で抱え込まないでくださいね。何かあれば婚約者である私に愚痴を零すなり相談するなりしてください。私に出来ることなど小さなものしかないとは思いますが。」
「そんなことない!」
マリーの言葉に対して、思ったより大きな声が出てマリーを驚かせてしまった。しかしそれを気にしている場合ではない。
マリーが私のそばにいてくれるだけで私は頑張れる。それくらいマリーの存在は大きな力があるのだ。
「……私の願いは、マリーと共にあること。それ以外無い。だから、だから……」
ああ、口下手な所がここで出てしまった。変な汗も出てくる。だが今伝えなくてどうする。ぎゅっと自分の手を力強く握る。
「ま、マリーだけは私から絶対離れないでくれ……!」