第三十九話「存在証明」改済
◇ ◆ ◇
すでに盤面には、4人の従えるモンスターたちが複雑に入り混じっており、その様はまるでモンスター大戦のようでもある。
角田のターン。
「オレ様のターンだァ! オレ様は角行〈アリスティック・ワイバーン〉で、御堂の領域に侵入して進化召喚するゥ! 現れろォ! 〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉ォオオオウ!」
龍馬モンスター〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉。
もともと飛鳥が所持していたランク5の強力な角行モンスター〈アリスティック・ワイバーン〉が進化した姿。
ワイバーンは極めて竜に近い形状をしており、ドラゴンが圧倒的なスペックを誇るクロスレイドにおいても、それに追従する能力を秘めている。
観る者を魅了するアイボリーカラーを基調とした美しいモンスターで、ワイバーンの中でもかなり強力な激レアモンスターである。
「ひゃはははァ! どうだァ……オレ様の〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉はァアアア! 美しいだろォ⁉」
飛鳥から奪いとったモンスターを、まるで自分のモンスターのように自慢する角田。
さらに角田は、龍馬〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉のスキルを発動する。
その効果は、プレイヤー自身の行動権を1回分加算するというものだ。
角田は加算された行動権を消費して、金太郎の領域まで飛車〈ルミナス・ドラゴン〉を一直線に前進──そこにいた金太郎の歩兵〈ライオン・ガール〉を捕縛して進化召喚までつなげた。
「ほらァ! 見せてやるよォオオオ! これがオレ様のエースモンスター〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉だァアアアアアア!」
これにより角田は、1ターンで2体の強力モンスターを進化させたことになる。
一見スキルも駆使しており、絶好調のようにも見える。
だが竜王〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉のスキルはカウンターで発動できる上に、自分以外のターンでも行動権を行使して移動することが可能という稀有なスキルだ。本来なら今回みたいなタイミングでは、温存しておくのがベターである。
状況にもよるが、普通は他人のターンで行動したほうが遥かに有利なことは間違いないのだ。
なのに自分のターンの平凡なタイミングで、貴重なスキルを無駄に使ってしまうあたり、金太郎たちが予想していたとおりで角田のスキルにおける知識や経験が足りない証拠であるとも言える。
あきらかなスキルの無駄使い。
そのことに角田以外の3人は気づいている。
金太郎は黙っていたが、将角が角田をバカにしたことから、飛鳥と将角の口喧嘩が勃発していた。
「はっ! 相手がバカで良かったぜ! 姉貴もそんなバカの尻ぬぐいしなきゃならねぇんだから、大変なこったな!」
「うるさいわね、将角! あたしと正男は上手くいってるんだから邪魔しないで!」
「あぁ、そうかよ! だが俺には、そんなもん関係ねぇ! 姉貴こそ俺の邪魔すんなら、まとめてぶっ潰すからな!」
金太郎は、将角が鬼のような形相で飛鳥へ怒鳴り散らしているのを見て、うろたえていた。
飛鳥にとって将角は実弟だが、さすがにその迫力に気圧されているようだ。
見ていられなくなった金太郎が、飛鳥を庇うべく途中で姉弟喧嘩に口を挟んだ。
「お、おい……将角。いくらなんでもおまえ……姉ちゃんに向かって言いすぎなんじゃ……?」
「うるせぇ! 今の姉貴にはこのくらいでちょうどいいんだよ!」
「ちょっと! 聞こえてるわよ、将角!」
姉弟の口喧嘩の仲裁に入った金太郎も巻き込んで、いつの間にか3人だけの世界が構築されていたが──
除け者となっていた角田が、そこ混ざりこむことで、ふたたび空気が一変した。
「おいィ! 今はオレ様のターンだぞォ⁉ なにオレ様を無視して3人で楽しそうに話してんだよォ、飛鳥ァアアア! おまえはオレ様以外の男と話をするんじゃねェエエエ!」
「ご、ごめんなさい……正男! あたし、そんなつもりじゃ──」
角田に許しを求める飛鳥。
角田に向かって深く頭を下げているその姿は、すでに完全な主従関係が出来上がっていることを意味しているようだった。
一方で、飛鳥との口論から逃れることはできたが、今の飛鳥の姿に複雑な心境を抱く金太郎。
また、飛鳥を罵倒する角田の発言に、金太郎のみならず将角までもが困惑を示していた。
「え……? 俺たちって楽しそうに話をしていたの……?」
「……知るかよ」
そんな茶番劇が終わり、角田のターンが再開。
「オレ様は〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のスキルを発動するゥ!」
龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のスキルは『フィールド上のモンスターがいないマスなら、どこにでも転移することができる』という驚異的な効果だ。
角田が選んだのは、金太郎領域内にいる桂馬モンスターの目の前。
「はっ! またアホなことやってやがるぜ、アイツ」
角田が〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のスキルを無駄使いしているのを見て、将角が鼻で笑った。
龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のスキルもカウンターの能力があるため、やはり例外を除いて何もないタイミングで使うべきではないのだ。
そのスキル効果は普通に使用しても強力ではあるが、性質上カウンターで使用してこそ真価を発揮すると言っても過言ではないからだ。
たとえば捕縛されそうになったときに、どこにでも好きなマスに転移できるという効果はかなり驚異的なものである。
先ほどの〈アリスティック・ワイバーン・ビアンコ〉といい、今回の〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉といい、角田のスキルに対する理解の浅さが浮き彫りとなった結果だ。
だが角田自身は、それに気づいていない。
あくまで気持ちよく、爽快に、自分がカッコよくスキルを使いこなしていると信じて疑っていないのだ。
だが、当然ながら金太郎たちは、練習用の的ではない。
あくまで戦う相手──敵同士である。
角田に隙ができれば、当たり前のようにカウンターも狙ってくる。
金太郎が〈アーク・サイクロプス〉のカードを手にとって、角田のほうへ向けながら声を張りあげた。
「俺はカウンターで〈アーク・サイクロプス〉のスキルを発動!」
進化銀将〈アーク・サイクロプス〉。
ランク3の銀将モンスター〈ベビー・サイクロプス〉が進化したランク5のモンスターだ。
相手が転移したときに発動できるという条件付きスキルだが、転移したモンスターを強制的に捕縛できるという強力な効果を持っている。
この〈アーク・サイクロプス〉のスキル効果の対象となったのは、もちろん龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉である。
角田からすれば想定外すぎるカウンターだ。
何が起こるのかわからないのがクロスレイド。
特にカウンタースキルの存在を考えれば、如何なる場合でも安心などできるはずもない。
相手のモンスターの目の前に転移などすれば、反撃があることくらい誰にでも想定できそうなものだが、どうも角田はそういうスキル面においての駆け引きに限っては、圧倒的に想像力が欠落しているようなのだ。
みるみる顔面蒼白に変わっていく角田。
どうしようもないと諦めた角田が、龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のユニットをスタンバイゾーンへと移動させようと手を伸ばした、その時──
角田の隣で声をあげたのは飛鳥だった。
「──諦めないで、正男! 〈ゴールド・ドラゴン〉のスキルを使ってみて!」
飛鳥の言葉を聞いた角田の口元が、ぐにゃりと不気味に歪む。
角田は〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉のユニットをスタンバイゾーンへと移動させるのをやめて、〈ゴールド・ドラゴン〉のカードを手に取る。
そして意気揚々と、そのカードを空に向けて掲げながら、高らかにスキルの発動を宣言した。
「オレ様は〈ゴールド・ドラゴン〉のスキルをカウンターで発動ォオオオ!」
金将〈ゴールド・ドラゴン〉のスキルは『自身をスタンバイゾーンへ移動させることで、選択したモンスターを〈ゴールド・ドラゴン〉が元々いたマスに転移させる』ことができる。
さらに〈ゴールド・ドラゴン〉のスキルによって選択されたモンスターは、そのターン相手のスキル効果を受けつけないという効果も付加されるのだ。
「オレ様は〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉を選択ゥウウウ!」
金将〈ゴールド・ドラゴン〉のスキル効果によって無敵化した龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉は、金太郎の進化銀将〈アーク・サイクロプス〉の強制捕縛効果さえも無効化する。
結果、金将〈ゴールド・ドラゴン〉は角田のスタンバイゾーンへ、龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉は金将〈ゴールド・ドラゴン〉がいたマスへ、金太郎の進化銀将〈アーク・サイクロプス〉はカウンターの不発に終わった。
「くっそ……。やってくれるぜ、飛鳥」
「まあ、そう悔しがるな。今のはしょうがねぇ」
悔しがる金太郎を励ます将角。
確かに今のスキル合戦は、金太郎が一本取られた形で終わった。
だが一連の流れから確信に変わったこともある。
それは今回の勝敗においてカギになるのは、飛鳥だという事実だ。
飛鳥が口出しすることで、角田の弱点とも言えるスキルの攻防を上手く補っている。
つまり飛鳥が向こう側で助言をしているかぎり、角田の弱点が強く晒されることはないということだ。
角田がターンを終了し、金太郎のターン。
金太郎は、進化銀将〈操術マリオネティック・ゴースト〉のカードを手に取って宣言した。
「俺は〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉を選択して〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキルを発動する! 選択したモンスターを行動可能範囲内で任意の場所に強制的に移動させることができるぜ!」
現在、龍王〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉の移動可能範囲の先には、金太郎の歩兵〈ドレッド・ジャガー〉が息を潜めて待ち構えている。
金太郎は〈操術マリオネティック・ゴースト〉のスキル効果によって、角田の〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉を自分の歩兵〈ドレッド・ジャガー〉の目の前まで強制的に移動──
さらに通常の行動権を使用して〈ドレッド・ジャガー〉で〈ルミナスドラゴン・リュミエール〉を捕縛するつもりでいた。
だが──
ここでまた飛鳥が口を開いた。
「今よ! 〈ミネルヴァ〉のスキルを使って!」
「な、なるほどォ……!」
飛鳥の助言に従って、慌ててカウンターを宣言する角田。
もともと〈ミネルヴァ〉は、飛鳥が愛用していた王将だ。
そのため幼い頃から飛鳥と遊んでいた金太郎も、そのスキル効果がどういうものか知っている。
金太郎の顔が焦りで歪む。
「オレ様は王将〈ミネルヴァ〉のスキルを発動するゥウウウ!」
「ま、まずいっ……⁉」
王将〈ミネルヴァ〉。
現在の所有者は角田だが、もともとは飛鳥が愛用していたランク5の激レア王将モンスター。
スキルの発動条件は限定的で、相手がスキルを発動したタイミングでなければ発動できない。
だが、その能力は『相手が発動したスキルを無効にして、そのモンスターをゲームから除外する』という極めて強力な効果を秘めている。
さらに『〈ミネルヴァ〉がスキルの発動に成功したターン、フィールド上に存在するすべての敵軍モンスターはスキルを発動できない』という副次的効果も付いているのだ。
王将〈ミネルヴァ〉が、金太郎の進化銀将〈操術マリオネティック・ゴースト〉にもたらした災厄──
それはスキルの無効化、およびゲームからの除外。
そして──
このターン、金太郎たちの全モンスターはスキルを封印されたことになる。
「ぐっ……! 俺はターンエンドだ!」
飛鳥の存在が、金太郎たちをじわじわと追いつめていく。




