第三十八話「姉弟の激突」改済
「俺のターン!」
金太郎の先攻で試合は始まった。
立ち位置は金太郎が左側、将角が右側に陣取っている。
金太郎の対面に角田、そして将角の対面に飛鳥という構図だ。
「俺は歩兵〈サーベル・ウルフ〉を1マス前進させてターンエンドだ!」
続いて飛鳥のターン。
まるで角田に染まりきってしまったかのような不気味な笑みが、金太郎の心を揺さぶる。
「次はあたしのタァアアアン! あたしは、歩兵〈ビッグ・タランチュラ〉を1マス前進させてターンエンドォ!」
この〈ビッグ・タランチュラ〉は、もともと角田のモンスターだ。
飛鳥が持っていたモンスターは、もうすべて角田のものとなってしまっている。
そして、その代わりに角田が飛鳥に与えたのが、もともと自分が使っていたモンスターなのである。
変わり果ててしまった飛鳥の姿に、金太郎は戸惑いを隠せずにいる。
飛鳥のターンに代わり、次は将角のターンだ。
「俺のターン! 俺は〈闇に潜むフェンリル〉を1マス前進させてターンエンド!」
金太郎と飛鳥の動向を見て、同じくスキルを温存する将角。飛鳥の姿に動揺する金太郎を気にかけながら、相手に鋭い視線を向けている。
そして、最後に角田のターン。
「オレ様のターンっすゥウウウ! オレ様は香車〈アーリィ・エルフ〉のスキルを発動ぉウウウ!」
金太郎、飛鳥、将角と、全員がスキルを温存して消費した各々の初ターン。
だが角田だけは、真っ先にスキルを発動した。
他者を出し抜きたいという角田の強い気持ちが、そうさせたのだ。
「オレ様は飛鳥の歩兵〈高速のワーム〉を選択するゥウウウ!」
香車〈アーリィ・エルフ〉。
現所有者は角田だが、もとは飛鳥が愛用していたモンスター。
フィールド上に存在する自軍の歩兵・桂馬モンスターから1体を選択して、そのモンスターの行動範囲を香車に変更するというスキルを持つランク3の香車モンスター。
進化すると、進化香車〈エアリアル・エルフ〉へと変化する。
角田の香車〈アーリィ・エルフ〉のスキル効果により、飛鳥の〈高速のワーム〉の行動範囲が歩兵から香車のものに変わった。
「オレ様は、飛鳥の〈高速のワーム〉を相手の領域まで直進させて、相手の歩兵〈突然変異したアメリカンショートヘア〉を捕縛するゥウウウウウウ!」
意気揚々と、得意気に声を張り上げる角田。
だがその瞬間、鈍いブザー音が会場全体に鳴り響いた。
「な、なんすかァ……⁉」
『只今の角田選手の行動は、反則行為に当たります。警告1。直ちにやり直してください』
レイドシステムに内蔵されたAIによる判定の結果、角田の行動をルール違反だと認識してシステム音声が警告を促したのだ。
クロスレイドでは、反則行為を行うと『警告』として加算され、警告が3回に達すると強制的に敗北となる。
故意的であろうと過失的であろうと、反則行為は反則行為として1回と加算されるルールだ。
「え……反則ゥ⁉ オ、オレ様がァ……? なんでェ⁉」
自分がしでかしたルール違反に気づいていない様子の角田。
なぜ角田が警告をとられたのか。
それは勝手に飛鳥のモンスターを操作しようとしたからだ。
他人のモンスターを動かすことができるのは、スキルによる強制行動しかない。
自分のターンに行動権を利用して動かすことができるモンスターは、あくまで自分のモンスターのみである。
それは、たとえ味方であっても例外ではないのだ。
「く、くっそォオオオ……! 飛鳥ァアアア! おまえが、さっさと教えないからァアアアっ!」
自分のミスを飛鳥に責任転嫁し、怒鳴り散らす角田。
飛鳥は身体を角田のほうへと向けて、頭を下げるように謝罪している。
「ご、ごめんなさい……正男〈まさお〉! 今度からちゃんとするから見捨てないで……!」
「謝って済むなら警察はいらねぇんだよォオオオ……! 帰ったら、たっぷりお仕置きするからなァアアア!」
必死に謝る飛鳥と、執拗に罵る角田。
その様子を見かねた金太郎が、思わず相手のプレイヤールームへ向けて叫ぼうとした、その時だった。
「ば、挽回させて……!」
飛鳥は角田へ懇願してから、金将〈ドライ・モロク〉のカードを手に取る。そして金太郎たちを睨みつけながら、スキルの発動を宣言した。
「金将〈ドライ・モロク〉のスキルは、自分以外のターンに発動することができる!」
「うっほォオオオ⁉ いけるのかァ、飛鳥ァアアア!」
金将モンスター〈ドライ・モロク〉。
もともと角田が所有していたランク5のモンスター。例によって今は飛鳥の専用モンスターとなっている。
フィールド上に存在する自軍モンスターから1体を選択して、そのモンスターの限定行動権1回分と、その操作権を得るというスキルを持っている。
ただしそのリミットは、スキルを発動したターン中のみだ。
飛鳥は、先ほど角田が香車化させた歩兵〈高速のワーム〉を選択。
今度は〈ドライ・モロク〉の効果によって、角田のターンに飛鳥がモンスターを操作可能となっているため、反則行為には当たらない。
「あたしは、香車化した〈高速のワーム〉で将角の歩兵〈突然変異したアメリカンショートヘア〉を捕縛するわ!」
香車の行動範囲を手に入れた歩兵〈高速のワーム〉が、一直線に将角の領域まで突入する。
試合が開始してまもなく、角田の軽はずみな行動が一気にゲームに緊張感をもたらす結果となった。
「あたしは〈高速のワーム〉を進化させるわ! 進化召喚! 〈メガ・ワーム〉!」
先ほど角田がやろうとして失敗した行為を、角田のターン中にそのまま再現してしてみせた飛鳥。
角田がミスをしても飛鳥が帳消しにしてしまうことが、将角を苛立たせる。
「チッ……姉貴のやろう! 余計なことしやがって……」
「うっひョオオオ……! いいぞォ、飛鳥ァアアア! さすがオレ様のパートナーだァアアア!」
尻拭いしてもらった飛鳥の機転ともいえるプレイを、まるで自分の命令で飛鳥にやらせたかのように発言する角田。
すっかり機嫌が直った角田は、飛鳥に次のターンでやるべき行動について指示を出し始めた。
あくまで自分が作戦を指示しているというアピールだ。
普通なら迷惑極まりない指示だが、どういうわけか飛鳥は喜しそうな表情で受け入れている。
「ありがと……正男」
「飛鳥は、このオレ様が護ってやるからァ! これからもオレ様の言うことだけ聞いていればいいからァ!」
角田たちの会話は、金太郎たちのプレイヤールームにも筒抜けだ。
当然、金太郎にも聞こえている。
隣で辛そうにしている金太郎を見て、将角が角田を怒鳴りつけた。
「おい! どうでもいいが、さっさとプレイしやがれ!」
将角に要求されて、不満そうにユニットを手にする角田。
歩兵モンスター〈慈愛のラブラドール・レトリバー〉を1マス前進させてターンを終了した。
続く金太郎のターン。
金太郎はカードを手に取り、スキルを発動する。
「俺は〈エルフの歩兵〉のスキルを発動!」
歩兵モンスター〈エルフの歩兵〉。
金太郎の所有するランク1のモンスターで、進化することでランク3の進化歩兵〈エルフ・ウィザード〉へと変化する。
歩兵〈エルフの歩兵〉のスキルは、フィールド上の自軍歩兵モンスターから1体を選択して、そのモンスターを1マス前進させるという効果だ。
金太郎が選択したのは、歩兵〈ドレッド・ジャガー〉。
歩兵〈エルフの歩兵〉のスキル効果により、歩兵〈ドレッド・ジャガー〉が1マス前進する。
そして通常権も使用することで〈ドレッド・ジャガー〉をさらに1マス前進させる金太郎。
そして、ターン権は金太郎から飛鳥へと移った。
「あたしのターン! あたしは進化歩兵〈メガ・ワーム〉のスキルを発動! 前後左右、好きな方向に1マス移動することができる! あたしは〈メガ・ワーム〉を右に移動させて、将角の歩兵〈ブラッド・タイガー〉を捕縛するわ!」
さらに飛鳥は角田の命令を実行すべく、香車〈黒光りするコックローチ〉の進化を狙う。
「さらに、あたしは〈黒光りするコックローチ〉で、将角の香車〈デビル・フェニックス〉を捕縛して進化させる! 進化召喚! 〈コックローチ・キング〉!」
続けて飛鳥は、進化香車〈コックローチ・キング〉のスキルを発動して、隣にある将角の桂馬〈フィア―・ケルベロス〉の捕縛を試みる。
だがそれは、将角の銀将〈シャドウ・アヌビス〉のスキル効果によって無効化──阻止された。
「やるわね、将角。ターンエンドよ」
そこから、しばらく4人とも派手な行動は控えて、地味に陣地の取り合いやモンスターの配置を優先していた。
全員が自らの最善と考える配置を目指しながら、その中でそれぞれが動き出すタイミングを見計らっている。
最初に動いたのは将角だった。
「俺のターン! 俺は桂馬〈デス・キャンサー〉で、飛鳥の歩兵〈たいまつを持つコボルト〉を捕縛して進化召喚する! 現れろ! 〈デスキャンサー・デュール〉!」
「ついに来たわね……将角!」
飛鳥の表情が一気に強張る。
進化桂馬〈デスキャンサー・デュール〉。
将角の持つランク4のモンスター。
ランク2の桂馬〈デス・キャンサー〉が進化した姿だ。
フィールド上に存在する自軍の金将・銀将モンスターから1体を選択して〈デスキャンサー・デュール〉の前方に強制転移させることができるという効果のスキルを持つ。
「俺は〈デスキャンサー・デュール〉のスキルを発動! 金将〈カオス・ヘルハウンド〉を選択して〈デスキャンサー・デュール〉の前に強制転移させる!」
「し、しまった……⁉」
焦る飛鳥。
だが将角が止まることはない。
「残念だったな、姉貴! さらに俺は〈カオス・ヘルハウンド〉の効果を発動! 〈カオス・ヘルハウンド〉の全方位3マス圏内にいる相手モンスターのルビー石をすべてゲームから取りのぞく!」
金将モンスター〈カオス・ヘルハウンド〉。
将角が所有するランク5のモンスターだ。
やや特殊な性能をしており、相手の領域内でなければ発動できないという条件と、スキルの発動可能回数の上限が1回という非常に重いスキルを持つ。その分スキル効果は相応の価値がある。
「〈カオス・ヘルハウンド〉のスキル範囲内にいる姉貴のモンスターは4体だ。さあ、ルビー石を取りのぞいてもらおうか!」
だが飛鳥も、ただでは転ばない。
被害を最小にするために、ルビー石の除去が確定した4体のモンスターのうち、飛車〈ダーティ・ハヌマーン〉のスキルをカウンターで発動した。
将角に緊張が走る。
「……なに⁉ カウンターだと!」
飛車モンスター〈ダーティ・ハヌマーン〉。
角田が持っていたランク3のモンスターで、ランク5の竜王モンスター〈ダーティハヌマーン・ダスト〉へと進化することが可能。
スキルは『フィールド上の自軍モンスター1体を選択して、そのモンスターを相手の領域以外の任意のマスへと転移させることができる』という効果だ。
飛鳥が選択したのは、銀将〈リッチの幻影〉。
飛鳥は、将角の〈カオス・ヘルハウンド〉の効果によってルビー石が取りのぞかれるはずだった銀将〈リッチの幻影〉を、飛車〈ダーティ・ハヌマーン〉のスキルによって将角の領域から2マス手前──つまり銀将のライン上に転移させた。
この行動によって〈リッチの幻影〉は〈カオス・ヘルハウンド〉のスキル範囲から逃れることに成功したのだ。
「チッ……! さすがにやるな、姉貴!」
「当たり前でしょ! そう簡単にはやられないわよ!」
姉弟の戦術が交錯する。




