第三十七話「決勝戦開幕」改済
◇ ◆ ◇
あるホテルの一室。
金太郎と将角は、明日の決勝戦に向けて作戦を練っていた。
「準決勝も余裕だったな、将角!」
「気を抜くんじゃねぇって、いつも言ってんだろ!」
「わかってるって!」
午後に行われた準決勝。
金太郎たちは、苦戦することなく勝利していたのだ。
一方、角田と飛鳥のペアも、金太郎たちとは別の会場で決勝戦進出を決めていた。
決勝戦は明日──
相手は角田と飛鳥。
その決勝に向けての作戦で、将角が最初に切り出した話題はドラゴンの件だ。
向こうには〈ゴールド・ドラゴン〉と〈ルミナス・ドラゴン〉の2体。
それに対して、こちらは将角が所有する〈ダークネス・ドラゴン〉1体にのみ。
ドラゴンの力は他モンスターと比べて圧倒的であるため、数的不利が発生していることになる。
だが、すべてが最悪というわけでもない。
将角が指摘したのは、そのドラゴン2体の所有者だ。
「幸いなことに、向こうのドラゴン2体を使っているのは角田だ。姉貴ならいざ知らず、角田ごときが使ってても所詮は宝の持ちぐされでしかねぇ」
この将角の発言に対しては、金太郎も頷いてはいる。
次に金太郎が取り上げた話題は、角田の戦い方である。
クロスレイドの腕前という括りだけで見た場合、お世辞にも角田は優秀とは言えない。それは誰の目にも明らかであった。
それでも角田が勝利できるのは、事前に自分が勝てるような土俵を作って、負けない勝負しているからに過ぎない。
だから大した実力もないのに勝てるのだ。
また、自分が勝つためには卑怯な仕込みも平気でしてくる。
金太郎が負けた時もそうだった。
このダブルス大会においても、勝ち残れた要因は飛鳥にあるだろう。
飛鳥がパートナーという時点で、相手に卑怯なことをせずとも、飛鳥が隣でカバーして勝利へと導いていたのだ。
つまり──
クロスレイドにおいて、少なくとも角田は強くない。
それは間違いないのだ。
だが、そのうえで金太郎が気になっていたこと──
それは金太郎でさえ思いつかないような際どい一手を、たまに角田が指してくることだった。
この件については将角も、一回戦と準決勝の偵察時に同じことを感じたという。
将角が言う。
「ヤツがあまり強くない原因のひとつに、スキルの使い方がある」
「そういえば、あいつ……。あまりスキルを使うタイミングが上手くないよな」
「なのにヤツは、たまに俺らですら気づかないような指し筋を見せることがあるだろう?」
将角が言葉を続ける。
「それは、あの野郎が〝本将棋の経験者である可能性〟が高いからだと、俺は思っている」
「なるほど……」
将角の言うとおり角田が将棋の経験者であれば『スキルの発動タイミングが下手な理由』と『たまに鋭い指し筋を見せる理由』に関しての説明がつく。
金太郎がつぶやく。
「だからあいつスキルがあるせいで、逆に……」
言葉の途中。将角との会話によって導き出された結論を、金太郎が口にする。
「もしかしてあいつ、将棋の棋士……なのか?」
「ヤツが将棋棋士かどうかはわからねぇが、んなこたぁどうでもいい。少なくともヤツの行動で特に注意しなけりゃならねぇのは、スキルを使用してねぇときってことだ」
ふたりの議論が熱気を帯びてきたあたりで、銀子と桂がドリンクを持って金太郎たちの部屋に入ってきた。
銀子がコーラとサイダー、桂がブラックコーヒーとウーロン茶の缶を、それぞれ手に持っている。
「はい、将角!」
桂が将角にブラックコーヒーを手渡す。
その横では金太郎が、笑顔で銀子からコーラを受け取っていた。
ドリンクをひと口。
至福の表情でくつろぐ4人。
「……さ。これ飲み終わったら、さっさと寝るわよ」
保護者役の銀子が、先回りして釘を打つ。
3人が旅行気分で羽目を外さないか心配なのだ。
金太郎が答える。
「わかってるよ。寝不足で集中できずに負けました──なんてことになったら洒落にならないからな」
「そうだな。遊びに来たわけじゃねぇんだ」
将角も続いて答えた。
桂は、そんなふたりを笑顔で眺めていた。
決戦前夜。
つかの間の休息。
金太郎が、ひとり窓際へと近づく。
そして外を眺めながら独り言を口にした。
「待っててくれよ──飛鳥」
◇ ◆ ◇
翌日──
金太郎たち4人は、昨日と同様に埼玉レイドスタジアムの前で二手に分かれた。
銀子と桂が金太郎たちに声をかける。
「それじゃ頑張ってくるのよ、ふたりとも!」
「一生懸命応援するからね!」
銀子たちの言葉に答える金太郎たち。
「ああ!」
「任せとけ!」
銀子と桂に手を振りながら、選手の控室へと向かう金太郎と将角。
銀子たちは、ふたりを見送ってから観客席へと足を運んだ。
選手控室──
金太郎たちが控室に入ると、そこにはすでに角田と飛鳥が来ており、ユニットセットの編成チェックをしていた。
今日は決勝戦。
戦うのは金太郎と将角、そして角田と飛鳥の4人だ。
よってこの4人以外、控室には誰もいない。
大勢の選手たちがいた昨日とは違い、今日は大きめの控室に4人しかいないため、やたらと室内が広く感じる。
テーブルや椅子も半分以上片付けられていて、ほかには何も置かれていない。
ふたりの存在に気づいた角田が、金太郎に声をかけてきた。
「いよぉウ! 御堂先輩ィ。ちゃんと昨日は眠れたっすかァ?」
さすが角田である。
相変わらず神経を逆撫でするような声と話し方だ。
すると飛鳥が会話に割り込んできた。
「将角! それから御堂くんも! あなたたちは、あたしが倒すから!」
殺気立った飛鳥の眼光が、金太郎たちを捉える。
もはやそこには、かつての飛鳥の面影など微塵も残っていなかった。
また角田の趣味なのか、飛鳥の衣装が昨日よりもさらに過激なものへと変更されており、金太郎はそれが心配でならない。
「お、おい……飛鳥。もう少し肌を隠──」
金太郎が飛鳥の服装について言及しようとしたその時、スピーカーから聞こえてきたアナウンスが金太郎の声を遮った。
『決勝戦に出場する選手は、スタンバイの方よろしくお願いいたします』
一転して場は静まり返り、完全にタイミングを失った金太郎。
やむを得ず出かけた言葉を飲み込み、角田に宣戦布告をした。
「角田! おまえは、必ず俺が……俺たちが倒す!」
「ひゃはははァ! やってみろやァアアア⁉ 御堂ォオオオ!」
「姉貴! わりぃが今回は俺たちが勝たせてもらうぜ!」
「将角……! 御堂くん!」
金太郎に触発され、互いに挑発し合う角田、将角、そして飛鳥。
それぞれ睨み合う視線が火花を散らす。
しばらくして、先に将角が口を開いた。
「行くぜ、金太郎!」
「ああ!」
堂々と控室を出ていく将角の後ろについて、飛鳥に心配そうな視線を向けてから控室を出る金太郎。
そのあとを追うように、角田と飛鳥も控え室をあとにした。
一本道の長い通路。
背後からの見えない角田の視線が、金太郎にまとわりついて離れない。
突き当りが丁字路となった道は左右に分かれ、それぞれが各プレイヤールームへとつながっている。
金太郎たちが一足先に左の通路へと足を踏み入れた。
続いて右の通路へ向かう角田たち。
直後、立ち止まる金太郎。
背後を振り返ると、並んで歩いていく角田と飛鳥の背中が見えた。
金太郎はひとりつぶやく。
「飛鳥……。絶対に俺が助けてやるからな……」
飛鳥へ向けられたように感じるその言葉。
それは金太郎が自分自身の意思を確認するための言葉でもあったのだ。
その声量は儚く、飛鳥には届かない。
もちろん、それは金太郎自身もわかっている。
角田とともに通路の奥へと消えていく飛鳥。
「──おい! 行くぞ金太郎」
振り返ると、将角が足を止めて金太郎を待っていた。
もう一度だけ後ろを振り向いて、飛鳥の姿を確認する金太郎。
それから小走りで将角に追いつき、並んで歩いて行く。
ふたりが進む通路の先に見えたは、昨日と同様の歓声と光。
すでに三度目。もう金太郎たちに迷いはない。
扉をくぐった金太郎と将角を迎えるのは、大勢の観客たちの視線と歓声。
この高揚感──
否が応でも高まる鼓動。
向かいのプレイヤールームに角田と飛鳥の姿が確認できた。
プレイヤー盤の前に立ち、そっと目を閉じる金太郎。
そして心で叫ぶ。
(長かった戦いに終止符を打つ──!)
金太郎の目が開かれると同時に、一斉にお互いのプレイヤー盤にモンスターユニットを配置し始める4人。
4人がユニットの配置を終了すると同時に、中央レイドフィールド、およびプレイヤー盤に青白い光が走る。
轟音とともに強い光を放ち、レイドフィールド上にモンスターが次々と出現し始めた。
そこには3体のドラゴンの姿も確認できる。
そして他のモンスターたちも、まるで命を吹き込まれたかのように、それぞれが独立して生々しい動きを見せている。
すべてのモンスターが出現し終えると、レイドフィールドの轟音は徐々に静まり、放たれていた光も消えていく。
直後、アナウンスが会場に響き渡った。
『これよりクロスレイド・ダブルス大会──決勝戦! 「御堂金太郎・皇将角ペア」対「角田正男・皇飛鳥ペア」の試合を開始いたします!』
クロスレイド・ダブルス大会の決勝戦がついに幕を開ける。




