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第XXX話「未来のかたち」

 ◇ ◆ ◇


 時は2145年──

 金太郎たちが生きた時代から少し先の世界。



「おォいッ! こッらァアアア! 出てこいやァアアアアアア……北条ほうじょう!」



 近未来的に様変わりした竜神ヶ峰高等学校の校門を通過して、大勢の不良集団が押し寄せてきている。

 彼らが乗るバイクにはタイヤがなく、空中に浮いているあたり、まさに未来の乗り物といった感じだが、こういった不良たちの集団的行動原理は今も昔も変わらないようだ。


 突然の望まぬ来客に怯え、校舎側へと逃げる竜神ヶ峰高等学校の生徒たち。

 その人ごみの中から、流れに逆らうように不良たちのいるほうへと向かう人影があった。


 不敵な笑みを浮かべるふたりの少年。

 ミディアムロングほどの金髪をなびかせた背の小さい少年と、オールバックの黒髪に銀髪のメッシュが混じりこんだ背の高い少年。


 金髪の少年が攻撃的な様子で、不良たちの中心にいる人物に話しかけた。

「おいおい、誰かと思えば──。この前クロスガレージの駐車場でガキ脅してクロスレイドのモンスターを奪い取っていたゴミクズじゃねぇか」


「なんだと……てめぇ!? 誰がゴミクズだ! 調子に乗ンじゃねぇぞ、北条ォオオ!」

 コケにされて怒り狂ったように喚き散らす不良軍団のボス。


 そしてこの金髪の少年こそが、彼が口にしている『北条』である。


 北条金近(かねちか)──

 龍神ヶ峰高等学校の一年生。

 筋金入りのヤンキーだが、曲がったことは嫌いで正義感が強い。

 またその強さは本物で、喧嘩では負け知らず。あまりの強さから、不良たちの間では『魔王』などと呼ばれ、恐れられていた。



 その金近に話しかける銀髪混じりの少年。

「おい……金近。おまえ、また何かやらかしたのか……?」

「しょうがねぇだろ。俺の目の前でイジメだの、恐喝だのされると目障りなんだよ」


 こちらの銀髪混じりの少年の名は、江原えはら銀之介(ぎんのすけ)

 金近と同様、龍神ヶ峰高等学校の一年生である。

 いつも金近と行動を共にしており、クールな性格をしている。

 また単体でも金近と同レベルの強さを誇っているが、ふたり揃うと警察でも手がつけられないほどの戦闘能力を発揮する。


 銀之介が金近を茶化すように言う。

「ま……俺は、おまえみたいに正義の味方になるつもりはねぇが、確かに弱い者イジメを見て見ぬふりってのも気分わりぃしな」

「俺だって正義の味方なんてしてるつもりねぇよ!」


 金近と銀之介が不良たちを無視してコントのようなやり取りをしていると、不良たちのボスが割って入り、大声で凄んでみせた。

「ゴチャゴチャうるせぇぞ、てめぇらァ! クロスガレー(あのみせ)ジはオレら極高ごくこうの縄張りなんだよォ……! 竜高ドラこうごときがオレらのシマでデケェ顔して、ただで済むと思ってんじゃねぇだろうなァ! あぁん⁉」


 だがどうやら舎弟たちは、思ったよりも乗り気ではなさそうである。

「ちょっと……山崎やまざきさん……。もう諦めません? コイツら相手に喧嘩とか、割に合いませんって……」

「そうっすよ。山崎さんだって知ってるでしょ……あの金銀コンビの不敗伝説。殺されちゃいますよ……?」


 もはや全国区レベルで悪名を轟かせている金近と銀之介を相手に、わざわざ負け戦をしようなどという不良はほとんどいないのだ。

 だがそれでも勝つ気満々の山崎は、不甲斐ない舎弟たちを煽りまくる。

「なにビビってんだ、てめぇらァ! そんなんで極高を名乗れるとでも思ってんのか! あぁん⁉ 死ぬ気で戦えやァアアア、ゴルァアアアアアア!」

「無茶言わんでくださいよ……。アホなんですか?」

「無茶も何も、向こうはたったのふたり! こっちは……いち、に、さん…………えーと……20人以上はいるだろうがァ! 余裕だァ!」


 舎弟たちは何とか説得を試みようとするが、どうやらこの山崎という少年は相当頭が悪いらしく、まるで聞く耳を持たない様子である。


「もうその時点でプライドもクソもありませんし、勝ったところで自慢にもなりませんから、いい加減に無駄な喧嘩なんか売らないで帰りましょうよ……? ね?」

「……ね? じゃねぇ! いいから黙って戦え、てめぇら! 極高魂ッ……あいつらに見せつけてやれや!」



 ちなみに、極高とは極虎ノ門(ごくとらのもん)高等学校(こうとうがっこう)の略称であり、特に悪名の高い不良のたまり場的な高校である。


 口論になっている不良たちへ向かって、金近と銀之介がゆっくりと歩いて近づいていく。

 首をボキボキと鳴らしながら、不良たちに語りかける金近。不敵な笑みを浮かべながら、その眼がわずかに黄金に光る。

「それにしても……俺のことを知っていて喧嘩売ってくるとは、物好きもいたもんだぜ。それとも何か? まさか──頭数揃えりゃ勝てるなんて、くだらねぇこと考えてるんじゃねぇだろうな?」

「う、うるせぇ! ハッタリかましてんじゃねぇぞ、こらぁ! てめぇだって所詮は人間! 数の暴力に勝てるわきゃねぇだろうが!」

「まぁいいさ。……で、どっちがいい? 好きなほう選ばせてやるぜ。生身での喧嘩か、それともクロスレイドでの喧嘩か──」


 この金近の言葉を聞いて、命が助かると思った舎弟のひとりが必死で声を上げる。

「や、山崎さん……! せっかくああ言ってくれてるんだし、クロスレイドの勝負にしてもらいましょうよ……⁉ アイツらと生身でやりあったら死んじゃいますって……!」

「クロスレイドか……」



 世界中で人気を博しているトレーディング将棋型バトルゲーム──クロスレイド。

 老若男女問わず、今や世界人口の8割が何らかの形でクロスレイドに興味を持っているのだ。

 それはゲームとしてだけではなく、コレクション要素として、あるいは最新のテクノロジーによって創造された新たな価値など、多岐にわたっている。



 実は無類のクロスレイド好きである山崎。

 相当腕に自信があるのか、迷うことなくクロスレイドでの喧嘩を選択したのだ。

 舎弟たちは全員ほっとした表情で胸をなでおろしていた。


 金近は不敵な笑みを浮かべながら、山崎たちにルールの選択を問う。

「クロスレイドね。いいぜ。ちなみに……通常のルールとフリーバトル、好きなほうを選べよ」


「通常のルールなんぞ面倒くせぇ……! フリーバトルに決まってんだろう!」

 これも即答の山崎。

 馬鹿なので、将棋のような戦略性のあるゲームは苦手らしい。



 フリーバトル──

 以前まではクロスレイドに存在していなかったシステムで、近年登場した最新の技術により実現した新たなクロスレイドのバトルスタイル。


 通常の将棋ルールがベースとなっているシングルスやダブルスによるターン制のゲーム的競技ではなく、それぞれの代表モンスター1体を従えてリアルタイムで自由に戦って勝敗を決める、例えるなら対戦格闘ゲームに近いシステムである。

 ちなみに1対1などの決まり事もなく、1対多数、あるいは多数対多数も可能となっている。



 金近は好戦的な笑みを浮かべ、不良たちを挑発する。

「オーケイ! じゃあフリーバトルだ! そっちは全員でかかってきていいぜ」


 金近がポケットからスマホを取り出して、何かのアプリを立ち上げると、彼を中心に半径数メートルほどはありそうな、巨大なドーム状のデジタルフィールドが空間に出現した。

 デジタルフィールドと言っても、ただ一般の景色より若干暗く見える程度で、ミントブルーの線が薄く格子状に広がっているだけの簡素的なつくりである。


 校門付近を歩いている部外者にも、見えている人と見えていない人がいるようで、たまに通りすがりの人々がデジタルフィールドが展開されたことに気づき、金近たちのほうに視線を向けていた。


 このデジタルフィールドが見えている条件は、金近が立ち上げたアプリと同じものをスマホにインストールしていること。そして、それぞれのアプリ設定によって可視化をオンにしていることである。

 つまり現実世界がバトルフィールドと化し、興味ある人間だけが観客として足を止め、ゲリラ的にバトルを楽しむことができる仕様となっているのだ。



 そして金近の立ち上げたアプリの名称は『超変則将棋型バトルゲーム・クロスレイド』。

 


 金近は立ち上げたアプリの画面を少し操作してから、その端末を前方に掲げて叫んだ。

「いくぜ! 現れろ──〈ゴールド・ドラゴン〉!」


 すると金近の前方の空間に魔法陣のようなモノが出現し、そこから黄金のドラゴンが姿を現した。



 さらに金近の隣で、銀之介が感傷に浸りながら、しみじみと笑顔で語る。

「それにしても……数年前までは、リアルでこんなふうにモンスターを召喚して戦える時代が来るとは思ってもいなかったよな」


 そして銀之介も、自らのスマホを前方に掲げながら叫んだ。

「──出てこい! 〈シルバー・ドラゴン〉!」


 金近のときと同様に、前方の空間に出現した魔法陣の中から、銀色のドラゴンが姿を現す。



 一見すると本物のドラゴンが現実に姿を現したようにも見えるが、これらはすべて仮想世界から現実に投影された実態のないモンスター映像である。


 とてつもなく巨大な金色と銀色のドラゴンが、現実世界の空で激しく咆哮するさまは、見る人々の心を強く揺さぶり、まるでファンタジーの世界へ迷い込んだかのような錯覚を与える。



 校門の外側から見学していた通行人の子供たちが、目を輝かせながら金近と銀之介のモンスターを見て狂喜乱舞している。

「うぉおおお……! すげぇえええ! ドラゴン初めて見たぁあああ!」

「でっけぇし、カッケェええええええ! いいなぁ! おれも欲しいなぁ!」


 ギャラリーと化した子供たちが興奮するなか、今度は不良たちが一斉にモンスターを召喚し始めた。


「おい、おまえらぁあああ! 全員自分の最強モンスターを呼びだせぇええええ!」

「へい、親分!」


 不良たちの前方に多数の魔法陣が出現し、さまざまなモンスターたちが姿を現し始める。



 それぞれのドラゴンを従えて立つ金近と銀之介。向かい合うのは大量のモンスターたちを従えた不良軍団。


 2対多数の超次元バトル──

 龍神ヶ峰高等学校の敷地にて、砂埃すなほこりを舞い上げながら、モンスターを従えた不良どもが激突する。


 クロスレイドにおける未来のかたちがひとつ、確かにそこに芽吹いていたのだ。


──────

────

──



 ◇ ◆ ◇


 クロスレイドは、この数十年間で劇的に進化した。


 金太郎たちが生きていた時代、すでにシンギュラリティの到来によって、世界は様変わりしていたのだ。


 あらゆるものが急速な進化を遂げ、人類は未知のテクノロジーを手に入れた。

 そしてクロスレイドもまた、その例外ではなかった。


 人々は現実と区別がつかないほどリアルなメタバースを構築することに成功。

 クロスレイドもメタバース内で再現され、超迫力のモンスターバトルを仮想的に体験することができるようになったのである。


 そのサービスの名は『クロスレイド・メタバース』。

 金近たちの使うスマホアプリ『超変則将棋型バトルゲーム・クロスレイド』と同一のアカウントを利用してアクセス可能なサービスのひとつである。

 最先端の技術によってメタバース内に生み出されたクロスレイドの世界。


 そしてクロスレイド・メタバースのサービスが開始してからまもなく、モンスター同士のタイマンバトルを実現した1オン1のシステムが導入された。これが、のちにフリーバトルの原型となったアイデアである。

 クロスレイドで対戦格闘ゲーム的な要素を導入しようと考えた結果生み出されたシステムであり、当初は1対1で戦うというシンプルなコンテンツだった。


 そこからさらに進化を遂げたのが、メタバース内で所有しているモンスターを現実世界に投影召喚することができる最新のサービス『クロスレイド・リアルバトラーズ』である。

 これこそが金近たちの利用したシステムの正体であり、これもまたシンギュラリティの加速によって、もたらされた福音──

 クロスレイドが秘めていた可能性の拡張に成功した一例だと言えるだろう。


 この『クロスレイド・リアルバトラーズ』も、先に説明した『クロスレイド・メタバース』も、すべてのアカウントはひとつのスマホ統合アプリ『超変則将棋型バトルゲーム・クロスレイド』へと集約し、管理されているのだ。


 また、かつて金太郎たちが生きていた時代に主流だった、物理的なユニットやカードを使ったクロスレイドのサービスが廃れたわけではなく、金近たちが生きる時代でも当時からのパックは普通に販売されている。

 それは物理的なゲームやコレクションを求める人々が存在する限り消えることはない需要でもあり、現在ではリアルで所有するクロスレイドのモンスターをメタバース内のデータへと不正なく反映させるシステムも構築されている。

 そうやって、さまざまなニーズから柔軟に対応できるサービスを、いつの時代でもクロスレイドは追求してきたのだ。




 そして──

 これからもクロスレイドは、進化し続けていくだろう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 世界は終わらない。


 人類は未知への挑戦を続け、常に不可能を可能にしてきた。

 だがこの世界は、まだまだ多くの謎と神秘に満ちあふれている。


 我々人類は、実際に存在するのかも定かではない不安定で虚構に満ちたこの世界の中で生きている。

 しかし我々には、確かに感じることができる生命への実感がある。

 その正体が何なのか、まだ今の我々に知るすべはないのだ。



 神を冒涜してはならない。


 だが──


 それでも限りなく神の領域に近づきたいと願うのは、のがれられない人のさがなのかもしれない。



 いつか人類が新たな謎を解き明かし、さらなる高次元への扉を開く時代が訪れることを強く祈っている。

長いあいだお付き合いくださいまして、どうもありがとうございました。<(_ _)>

これにて『超変則将棋型バトルゲーム・クロスレイド』は、いったん幕を下ろします。


思い返せば初投稿からおよそ3年。

途中から私生活が厳しくなり、投稿ペースが週1回になり、超マイペースで書き続けてきましたが、この度ようやく無事に完結を迎えることができました。

それもこれも、ひっそりと公開していたこの作品を見捨てずに読み続けてくださった方々のおかげです。


最後まで読んでくださり、本当にどうもありがとうございました。

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