表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

2

 コテージの中の亮の部屋では亮と彩七が紅茶を飲みながら、ゆったりとクラシックを聴くのだった。優雅なオーケストラが奏でる音楽と共に静かに時がながれる。


 ふと、ベランダへ彩七の視線がいくと、外は少し日差しが落ち、過ごしやすくなっていた。

 昼食は亮の一家と共にした彩七は今の時間になるまで、半日以上一緒に過ごしている。


 しかし、彩七は今朝から昨日の颯太の言葉をずっと想っていた。明日返しに行くから、と言った言葉に今も気持ちがそこから離れないでいる。

 亮とは旅行に来る前からの約束だったので、一緒になるべく過ごせるように、と自分の気持ちを今まで彩七は抑えていた。


 ホントはすぐにでもコテージに戻りたかったけど、亮が悲しむだろうから、この時間まで一緒に過ごす事を選んだ、彩七。それに昨日の朝の時点では彼女自身もすごく今日を楽しみにしていたから、という事もあった。


 でも、実際には心ここにあらずな状態で過ごしている。ソワソワと落ち着きのない気持ちに気づかれて、不快な気持ちにさせないか心配だったし、何よりも心あらずな気持ちで過ごす事が、とても悪いと感じて始めていた。

 彩七の気持ちが限界に達してしまうと、意を決してイスから立ち上がる。


「亮ちゃん、お友達が来るかもしれないから、そろそろ彩七戻らないと」


 何とも言えない困った表情の彩七。

 帰ろうとした彼女を後ろから、いきなり抱きしめた亮。


 身体があたった衝撃でテーブルの上に置いていたティーカップのひとつが壊れた。

 それがテーブルから落ちて割れる瞬間、ふたりの間にながれていたものが同時に止まった。

 何が起きたのか理解できない彩七へ、その状態のまま亮が口を開いた。


「彩七―――――――どこへも行くな。行かなくていい。ずっとこのまま一緒にいよう」

「何、言ってる、の――――――――亮ちゃん」


 困惑気味の彩七が訊ねても、亮は黙って腕に力を入れるだけ。そして、彼女の耳元で囁いてから、軽く耳に唇で触れた。


「もうずっと前からこうしたかった、彩七」

「やだ――――――――――止めて……亮ちゃん」


 彩七の震える身体を、それでも亮は放す事をしないで、抱きしめる。力を強くすると彼女から恐怖を感じとったが、それでも放さなかった。


「――――――彩七」


 彩七の名前を呼びながら、彼女の胸のふくらみにソッと手を添えた。その手に力が少しだけ入ると軽く擦る感じで触れる。


 彩七はその事に驚いて、亮の手や腕を振り払おうと彼の腕の中で必死にもがく。逃れるようと抵抗すればするほど、揉み合いに。

 それでも、落ち着かせようと亮が何度も何度も彩七の顔を覗き込む感じで、名を呼んだが、聞き入れる事ができないくらい彼女は取り乱していた。


 そして、亮の手から彩七はなんとかして自分をその恐怖を自分に与えた腕から解放させるのだった。

 彩七が涙を浮かべた瞳で、真直ぐに亮を見据える。その恐怖が宿った瞳からは、自分への侮蔑と涙しかなかった。


 亮は彼女の心が思っている以上にひどい状態だと悟る。


「どう…………して……どうしてこんな――――――ヴッ事するのっ昨日から、なんだか……っング――――――変だよっンッ……いつもの亮ちゃんじゃない」


 彩七は急な出来事で戸惑い、そして、何も整理出来なくて訳が分からなかった。

 初めてだった、大好きな幼馴染にあんな事をされたのは。身体の震えるのが止まらない。それに何より初めて彼を恐いと感じた自分がいた。まるで、幼馴染が消えると、急に知らない人間が、いきなりどこからか目の前に現れた気がした――――――それほど戸惑いを隠せないでいる。


 亮もまた初めて自分を本気で恐がる彩七の態度を目の当たりにして困惑した。近づこうとする自分を拒絶するかのように距離を保つのだった。


「彩七…………」

「しらない――――――――――彩七、そんな亮ちゃんなんかしらないっ来ないで」


 涙まじりの声で言うと、その場から逃げ出したい感情が、たまらなく襲う。

 彩七は震える身体で、なんとか部屋をでるのだった。そして、泣きながら外へ行く。

 

 亮は身動きがとれないでいた。あんな彩七を見たのも、拒絶されたのもショックだった。何よりショックだったのは、今までの彼女じゃなくなっていたからだ。昨日のやつが現れてから、まるで彼女は違っていた。そこに自分がいるのに見えていないようだった。そう眼中にないと言った感じが、まさしく正しい表現だ。


 亮は追いかける事も出来ないで、その場で立ち尽くしているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ