心の居場所
翌朝、大騒ぎした昨日の事を思いながら、朝食を食べる彩七。
「昨日はホントにごめんなさいパパ、ママ」
「本当よ、ママは彩七の事が心配で心配で生きた心地がしなかったわ」
「パパもだよ。もうこんなに心配するような事はしないと、彩七、約束しておくれ?」
「はい、彩七はもうパパ達を心配させるような事はしません。だから許してくれる?」
「仕方のない娘だ。そんな風に彩七に言われちゃ仕方がないな、ママ?」
「ええ、そうね。パパ」
彩名が自分の席から立ち上がると向かいの夫婦の席へと回り込では、ありがと、パパママ、とそう言って、両親の頬に軽く感謝のキスをしたのだった。
「あらまぁ、久しぶりのキスだこと」
父親は彩七の幼い頃を思い出に浸って、次になんとも言えない寂しげな口調になる。
「本当にね――――――小さいころは毎日ホッペにチュウをしてくれたものだったな。彩七がお嫁に言ってしまったら、本当に寂しくなるな……」
彩七はそんな父親の姿を見ると、胸がギュッと締めつけられて切なくなる。
「パパ……彩七、これからだってパパ達の傍にいて、いつでもホッペにキスするからね」
彩七にそう言われると夫婦は潤ませた瞳を今度は輝かせて微笑んだ。
「あらあら、パパのせいで彩七はまた甘えん坊さんに逆戻りかしら?」
「それはないだろうママ。参ったなハッハッハッ」
母親の冗談に父親が笑って答えるのを見ると、少しホッとするのだった。
そんな親子の会話に水を指すように誰かが訪ねて来た様子。
部屋にいる親子にまで聞こえてくる声は太くて優しい男性の声だった。
「あら、誰かしら?」
母親が不思議そうに彩七をみると、満面の笑みで彼女が答える。
「ママ玄関、見てくるね」
「ええ、お願い」
幼い子供のようにはしゃぎたい想いを彩七は抑えながら、玄関へと駆け走っていた。
彼だと思うと胸が躍りださずにはいられなかった。ほんの2日程前に出会ったばかりの彼に、何故だかわからないが近くにいるかと感じるだけで、心がふるえだすのを抑えられなかった。
彩七がそんな事を感じながら、玄関前に立つ。そして、スゥーっと息を吸い込むとひと呼吸する。
「お待たせして、ごめんなさい」
緊張気味の彩七はノブを回してドアを開けた。目の前にはやさしく微笑む男性。
面を食らったような表情の彩七に対して、亮は訝しげに見つめる。
「やあ、どうかした? 今日は僕の部屋で過ごす予定だったから、迎えに来たんだけど」
「ううん、なんでもないの」
「そうかい。なら早く部屋に行こうか」
「ちょっと、待ってて。パパたちに言わないと」
「わかったよ。此処で待ってるよ」
「うん」
彩七は父親達に出掛ける事を伝えに奥へと、亮をドア前に残して戻るのだった。いつもの微笑みを携えて彼女は亮の前に現れる。
「待たせてごめんね、亮ちゃん」
「いいや、じゃ行こうか」
朝の日差しが降り注ぐ光の中、ふたりはそのまま亮の一家が宿泊しているコテージへと向かった。




