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She is a pretty little girl.

私はどうやら夢を見ているらしい。


夢を夢と判断できたのは初めてだ。

雪山でベビーカー押して歩くとか友人が天井にはりついていたとか、どんなに奇怪なことが起こっても寝ている限り私はそれを現実だと思い込んでいた。


でも、さすがにこれはない。

飼っていたブタは美形のお兄さんでしたなんて絶対有り得ない。

更にそれが私を抱きしめて告白まがいをしてくるなんてなおさらだ!


カエルの王さまみたいに魔女に呪いをかけられてたとでもいうのだろうか。

でも彼だって異世界にまでは行かなかったぞ。せいぜい隣国ぐらい。


たぶん私は草原で寝てしまったのだろう。そのまま夢を見てるのだ。間抜けすぎる。


早くぶう太を見つけなきゃ。






ぼんやりと目を開く。

飛び込んできたのは予想していた空でも草でもなく、黒だった。


「・・・・・・?」


状況が把握出来ない。なぜ、黒。


黒は私の戸惑いをよそにパチパチとまばたきして、あ、これ眼だ。近すぎてわからなかった。


頭を少し後ろへずらして視界を広げる。

眼の持ち主はかわいい女の子だった。大きな黒い眼が同じ色の長いまつげに縁取られている。


真っ白な肌の顔が、にこっと微笑む。つられて私も笑みを返す。


私はベッドで横になっているようだった。

少女は私の顔のすぐそばに顎を置いて寝そべっている。

彼女の真っ直ぐな黒髪が白いシーツに散らばっていた。


女の子は微笑んだまま、私の頭に手を伸ばしていい子いい子するように撫でる。


「おはよう、お姫さま」


透き通るような声で小さく彼女は言った。


お姫さま?誰が?

私の問いが彼女に届くことはなかった。なぜか声が出ない。ぱくぱくと餌を食べる鯉みたいに口だけが動いている。


「しゃべっちゃダーメ」


女の子はしい、と指を桃色の唇に押し当てて、もう片手で私の足元付近を指差した。


「起きちゃう」


首だけ動かしてそちらを見れば、白いベッドに同化するように白い頭が乗っかっている。


じ、自称ぶう太だー!!顔は見えないけどたぶんそうだ!

夢の世界から飛び出して来やがったのかこの野郎!


心の中で暴れつつも熟睡しているらしい自称ぶう太の全体を見た。

彼は床に座りながら、肩より上だけベッドに寄りかかって顔を伏せている。


・・・顔が見えてなくて良かった。健気な少女のように寝ずの看病してたら眠っちゃった☆みたいな姿を彼がしているのを直視するのは少々つらい。


「アダンはね、あなたをずーっと見てたのよ」


視線を横へ戻す。少女はくすくすと可愛らしく微笑んでいた。


自称ぶう太、どうやら名前はアダンに寝顔をガン見されてたということだろうか。勘弁してほしい。


私の微妙な心情を知ってか知らずが少女はやけに嬉しそうな様子だ。


「そろそろ行かなきゃ」


少女がベッドに両手をつけて立ち上がる。私の目にはピンクの小さな靴が見えた。

べ、ベッドに土足で乗っちゃいけませんよお嬢ちゃん!?


彼女は笑いながら五歩ほど後ろ歩きし(でかいなこのベッド!)ジャンプで床におりた。音はまったくしなかった。

まるで猫みたいな子だ。


「私のことアダンには内緒よ。また会いにくるからそのときはお姫さまの名前を教えてね」


思わず頷くと少女は満足そうに笑って私に背を向けた。桃色のエプロンドレスをひらひらさせて歩く。


向かった先には大きな窓。


いやいやまさかと思いながら見ていると少女は走り出して窓にぶつかっていった。


「えええええーーー!?」


あ、声が出る、ってそれどころじゃない!美少女がスプラッタに・・・!

しかし予想していた惨劇は起こらず、窓は少女がぶつかる前にひとりでに開いた。窓枠に足を乗せて軽やかに外へ出る。少女の姿はすぐに下へ消えた。


・・・ここ、何階だっけ?





ブタ成分が足りない。

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