「風はただ流れる」
風が、吹く。
それは、どこから来たものでもない。
どこへ向かうものでもない。
ただ、流れている。
街を抜ける。
埃を巻き上げ。
洗濯物を揺らし。
子供の笑い声をさらっていく。
止まらない。
風は、知っている。
人の営み。
その繰り返し。
喜びと、嘆き。
どれも、特別ではない。
ただ、在るもの。
流れの中にあるもの。
かつて。
わずかに、重さを感じた場所があった。
巡礼地。
そこでは、何かが偏っていた。
留まりすぎたもの。
重なりすぎたもの。
風は、それを撫でる。
だが。
何もしない。
押し戻すことも。
散らすこともない。
ただ、通り過ぎる。
そこに在るものは。
やがて、自ら崩れる。
あるいは。
別の何かによって、均される。
風は、それを知っている。
だから。
何もしない。
夜。
静かな場所で。
風は、わずかに揺れるものを感じる。
光。
淡く、揺らぐ存在。
それは、何かを導いている。
風は、それを追わない。
ただ、横切る。
その後ろで。
別のものが在る。
影。
形を持たず。
ただ、そこにあるもの。
風は、それにも触れる。
何も変わらない。
変える必要もない。
風は、流れる。
ただ、それだけだ。
やがて。
重さは消える。
偏りは、崩れる。
何かが、終わる。
風は、知らない。
それが何であったかを。
知る必要がない。
ただ、流れの中にあったもの。
そして。
流れの中で、消えたもの。
それだけだ。
朝が来る。
人は、目を覚ます。
何も変わらない世界で。
同じように、日々を繰り返す。
風は、それを通り過ぎる。
触れて。
離れて。
何も残さない。
何も持たない。
風は、ただ流れる。




