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パペトリ王国と魔法のクレヨン  作者: 田山照巳


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お姉さん、だぁれ?

「サキ先生、さようならーっ!」

「はーい、ヒマリちゃん、また明日ねー」


 ヒマリはサキ先生に元気良く挨拶し、アイカと手をつないで幼稚園をあとにする。幼稚園であった出来事を楽しく話しながら歩いていると、昨日発見した奇妙な落書きのある細い路地に差し掛かった。ヒマリはそこで足を止め、不思議そうにその落書きを眺める。


「ママ、この落書き……何か変だよ?」

「ヒマリ? どうかしたの?」


 アイカは壁の落書きに目を向けると、何とも言いようのない不思議な感覚に襲われた。少しの間アイカがその感覚に戸惑っていると……ヒマリはアイカの手から離れ、壁の落書きに吸い込まれるように細い路地へ進んでいってしまう。


「ヒマリ!?」

「えっ……ママ? ……何? これ?」


 ヒマリは何かを発見したかのように進んでいく。嫌な予感、そして不安と恐怖にかられたアイカは大声でヒマリを呼び止める。


「ヒマリ! 何だか分からないけど……行っちゃダメッ! 戻ってきて!」

「えっ、ママっ!?」


 ヒマリはアイカの声を聞き振り返って戻ろうとした。しかし、ヒマリの足は急に鉛のように重くなり、身動きが取れなくなってしまった。


「えっ? ママ!? ……ヒマリ、動けないよっ!? 足がっ、足が動かないの!」

「ヒマリ!? 何でっ!?」


 二人が戸惑っていると……次の瞬間!


 アイカは目の前で起きた信じ難い光景に困惑した。壁に描かれた不思議な落書きが目の前に浮かび上がって実体化し、ヒマリの身体を包み込んでゆく。ヒマリは自身を包み込んでゆく実体化した落書きを必死に手で払おうとするが、ヒマリの身体はどんどん落書きに飲み込まれてゆく。


「ヒマリーっ!!」


 咄嗟にアイカはヒマリの元へ駆け寄り、そしてヒマリの身体が在るであろう落書きの中に飛び込んだ。


「ヒマリ!! ヒマリ!!」

「ママーッ!! ママーッ!!」


 アイカは必死に手でもがいてヒマリの体を探す。


(……ヒマリっ!! ……ヒマリッ!!)


 アイカは何も見えない空間の中で、何とかヒマリの手を取ることができた。そして全力でヒマリの身体を引き寄せて抱きしめる。


「ヒマリ! いいっ!? 絶対離れたらダメよっ!!」

「ママーッ! ママーッ!! 何これ!? 怖いよーっ!!」


「ヒマリ! しっかりママに抱きつきなさい!! いいわね!!」

「うん! うわぁぁーんっ!」


 泣きながら必死に抱きつくヒマリの身体をアイカは力強く両手で抱きしめる。そして、そのまま二人は不思議な空間に飲み込まれてゆく。


 ヒューーーッ!! バーーーン!!!


(何これっ!? 何が起きてるのっ!?)


 ……宙に浮く感覚?

 ……水に流される感覚?

 ……高いところから落下する感覚?


 ……数秒間? ……数十秒間?

 ……二人はこれまで味わったことのない不思議な感覚に襲われる。


 正確な時間は分からないが……しばらくの間、何とも言いようのない不思議な感覚に襲われていると、必死に抱き合う二人の視界がようやく開けた。


 ……ゴォーン、ゴォーン。


 気がつくとアイカはヒマリを抱きしめたまま、何故か見知らぬ教会の聖堂のような場所にいた。鳴り響くのは大きな鐘であろうか? 教会内に鐘の音が響いている。


(えっ!? 一体どうなってるの? ……教会? ……ここはどこかしら!? それよりもヒマリはっ!?)


 アイカは腕の中を確かめるように、ゆっくりと下を向く。


(……よかった! ヒマリ! ヒマリの感覚っ! ちゃんと腕の中にいる!?)


 アイカは強く抱きしめるその小さな身体に目を向け、そこにいつも通りのヒマリの姿があることを確認し安堵する。


「良かった! ヒマリ、大丈夫!? 痛い所とかない?」


 慌ててヒマリの様子を確認するアイカだが、ヒマリは戸惑いながら小さな声で答えた。


「お姉さん……だぁれ?」


 きょとんとして自分を不思議そうに見つめるヒマリを見て、アイカも戸惑う。


「え? ヒマリ? 何を言ってるの? ……私、ママでしょう?」


 アイカの言葉に、やはりヒマリは戸惑う。


「……ママ? ううん? 違うよ。お姉さんはママじゃないよ」


(えっ!? どういうこと? 何が起きてるの? 私がママじゃないって!?)


 アイカは抱きしめていたヒマリの身体を一旦離し、自分の両手を確認する。確かに自分の両手、自分の身体の感覚であるが……そこにはある違和感があった。


(……あれ? 何だか肌が綺麗になってるみたい。えっと、綺麗っていうよりスベスベっていうか、それに手首がちょっと細くなってる?)


 アイカは状況を整理するため、周囲をキョロキョロと見回して確認する。


──まずはヒマリ。


 その姿は幼稚園から帰宅する時と同じ。制服と鞄を背負ったいつものヒマリだ。ただ、アイカのことを不思議そうな顔で見上げている。


──続いて周りの状況。


 二人がいるのは恐らく教会の中。シスターの格好をした女性が数名、驚いた様子で何かを相談している。建物の様子はヨーロッパにありそうな教会といったところで、ステンドグラスが装飾された窓、パイプオルガン、十字架などがある。


──最後にアイカ自身の様子。


 服装と荷物は変わっていない。厚手の長袖シャツとジーンズ、肩掛け鞄は先ほどまでと同じだ。自身の外観を確認した後、アイカは鞄の中から小さな鏡を取り出して自分の様子を確認する。そして、鏡に映った自分の姿に目を疑う。


(……えっ!? 何で!? 一体どういうこと!?)


 鏡に映るその姿は確かにアイカ自身である。ただ、ある一つの事実を除いては。


(……私!? 若くなってる!? これって高校生の頃の私!? どうしてっ!?)


 アイカは両手で自分の身体を触りながら確認する。


(そうだわ……間違いない。これ、二十歳前の私よ。どういうこと!? ヒマリはそのままなのに、何で私だけ若くなってるの!?)


 知らない教会に瞬間移動してしまったアイカとヒマリ。そして不思議なことに、アイカだけは二十歳前の若い身体に変化していた。

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