はがねのけん!
アイカ達は魔女パンソーが住むボワの森に入った。森まで運んでくれたラビタクのカニフとコンパを森の入口に待機させ、カルネに話を聞きながら森を進んでゆく。
「ところでカルネ? 魔女さんのところまでは歩いてどのくらいかかるの?」
「パンソー様の所までは徒歩でおよそ二時間です」
「そうなのね。でも、魔女さんのところまでカニフとコンパに乗って行くことはできないの? そうすれば歩かなくて済むのに」
「ええ、残念ながらそれは難しいのです。ラビタク達は基本的にはこのボワの森に入ろうとしません。よほど緊急の場合は報酬の人参を何倍にも弾んで依頼することもありますが、それは特例中の特例といったところですね」
「そっか。なら横着しないで頑張って歩かないとねっ。ヒマリ、聞いた? 魔女さんのところまで頑張るわよ」
「うん、ママーッ! ヒマリ、頑張る!」
そうしてしばらく歩いていると、カルネは足を止めアイカ達を制止させた。
「どうしたの? カルネ?」
「アイカ、ヒマリ。これはよくあることなのですが前方から大角の鹿がやってきます」
(えっ、大きな角の鹿!? だ、大丈夫なの!?)
カルネの言葉に身の安全を心配するアイカだが、ヒマリとボボは無邪気な反応をする。
「わぁーっ、鹿さん!? ヒマリ、会いたーい!」
「ボーッ! ボーッ!」
「ちょっと! ま、待ちなさいヒマリ! 野生の鹿さんよ!? 危ないから近づかないでね!」
「えーっ? そうなの?」
カルネはアイカ達に説明を続ける。
「アイカ、ヒマリ、ボボ、今から現れる大角の鹿は『パピエ種』と言ってとても好奇心が旺盛です。でも安心してください。こちらから手を出したり襲ったりしなければ安全ですから。ただ、ある一つの場合を除いては……」
カルネの意味深な言葉にアイカは不安をあらわにする。
「ちょっとカルネ? その、ある一つの場合って……それ、何かまずいことなの?」
「いえ、アイカとヒマリ、そしてボボには全く関係ありません。問題は今の私ですね」
「えっ、どういうこと?」
「パピエ種の鹿は……武器を持っていたり戦うことができそうな相手を見つけると、好奇心で力勝負を挑んでくるのです。今、私は銅製の剣を持っているでしょう? これでは勝負を避けられそうにありません」
「そんな!? カルネ! 怪我とかしないでよ!? 大丈夫!?」
「ええっー、カルネ、危ないことするの!?」
「ボーッ! ボーッ!」
アイカ達はカルネを心配する。
「いえ、勝負といっても怪我をするようなものではありません。お互いの武器、彼らは大角、私は銅製の剣ですね。これをぶつけてどちらが強いか? 比べるのです」
「ええっ!? 野生の鹿と一騎打ちみたいなことするの!?」
「そうです、アイカ。でも、この勝負は私たちが今から進む道のりにも関係があるのです」
「えっ? ど、どういうこと?」
「彼らは自分より強い者には道を譲ってくれますが、自分より弱い者は通してくれません。勝負に負けたら少し迂回して遠回りをすることになります。ヒマリの体力を考えると……勝負に勝って最短ルートで進むことが重要です」
(そ、そんなルールがあるの!? カルネに危ないことはして欲しくないけど……その勝負、避けられないのかしら!?)
こうしてカルネが説明をしていると前方から立派な角を生やした鹿が二匹、トコトコと軽やかに歩いてきた。
「ビィーーッ! ビィーーッ!」
「ピフィーッ! ピフィーッ!」
二匹の鹿は腰に剣を携えたカルネの姿を見つけると、興奮を隠せない様子でブンブンと前足を動かして土を蹴り「かかってこいや!」とアピールを始めている。
(あはは……これは分かりやすいわね。確かにこの状況じゃ「勝負せずに道を譲ってくれ」……って言っても無理そうだわっ)
アイカは目の前で起きている状況を理解しヒマリを抱いて後ろに下がる。
「分かったわ、カルネ。後ろでヒマリと見てるから怪我しないでね!」
「ええ、後ろで少しお待ちください」
まずは一匹目の鹿とカルネが向かい合う。
……シュゥゥッーー。
角と剣の一騎打ち。周囲に緊張感が張り詰める。
「カルネーッ! 頑張ってー! カッコイイ姿を見せてちょうだい!」
「カルネ! 負けるなー!」
「ボーッ! ボーッ!」
カルネの後ろで声援が飛ぶ。
「では、行きますよっ!!」
「ビィーッ!!」
互いに全速力で距離を詰める。そして互いに全力の一閃。カルネは下段の構えから突進しながら銅製の剣を素早く振り上げる。一方、鹿は大角をカルネの振り上げた銅製の剣に向けて、思い切りぶつける。
……カーンッ!!
勝負は一瞬で決まった。
……ボトッ。
カルネと鹿が高速ですれ違った後、その場に立派な大角が落ちた。
「きゃーっ! カルネー!」
「カルネが勝ったー!!」
「ボーッ!!」
深呼吸をして自身を落ち着かせたカルネは銅製の剣を鞘に納めると、鹿の元に歩み寄って互いの真剣勝負を讃えるように頭を撫でる。
「ビィー、ビィー……」
(あーん、カルネ! 敗者の鹿をちゃんと讃えるなんて素敵な行為よ!)
敗者を讃えるカルネの姿に惚れなおすアイカだが、声をかける間もなく二戦目が始まる。カルネはまた鹿と向かい合い、互いに集中を始める。
……シュゥゥッーーー。
(今度の相手は先ほどのようには行きませんね……)
カルネは先ほどの鹿とは少し違う重みのようなプレッシャーに怯みそうになるが、自分を信じて一歩を踏み出す。
「おぉぉっー!!」
「ピィ! ピィィーッ!!」
先ほどと同様、互いに全速力で距離を詰めながらの一閃。カルネは上段の構えから突進しながら銅製の剣を素早く振り下ろす。そして鹿は大角をカルネが振り下ろす銅製の剣に向けて思い切りぶつける。
……カーーンッ!!
この勝負もやはり一瞬で決まった。
……パキーンッ!!
カルネが振り下ろした銅製の剣は刀身の根本で折れ、その先端は宙に舞った。
……ザクッ!
折れた銅製の剣が地面に刺さる。
「お見事ですね。参りました……」
勝負に負けたカルネは先ほどと同様、互いの健闘を讃え合うように鹿に寄り添って頭を撫でる。
「ピィーッ」
勝者の鹿もカルネの体に頬を寄せてそれに応える。
「あーん! 惜しかったわね、カルネ!」
「今度は負けちゃったねー」
「ボボー……」
アイカ達はカルネに駆け寄っていく。
「でもカルネ? これってどうなるの? 一勝一敗って、道を譲ってもらえるの?」
「そうですね……私の剣は折れてしまいましたから、もはや『武器を持たない者』として通してもらえるとありがたいのですが」
カルネ達は勝者の鹿を見て様子をうかがう。
……ブルッ! ブルッ!
勝者の鹿はまだ興奮冷めやらず、もっと力試しを続けたがっている様子だ。
「わぁ、勝った方の鹿さん、もっと遊びたがってるみたいだよ」
「確かにあの様子だとそう見えるわね……」
「もっと力試しの勝負をしたいのですか? でも、すみません。私はもう武器が……」
カルネが勝者の鹿に説明を続けようとした時、ヒマリがその言葉を遮った。
「そうだ、カルネ! 武器があればいいんだよね!?」
「そ、そうですが……ここには武器なんて、もう……え? ヒマリ?」
ヒマリは「ここは自分の出番!」と言うように嬉しそうな顔で鞄からお絵かき帳とクレヨンセットを取り出すが、その行動にカルネとアイカは戸惑う。
「ヒマリ? お絵かきはいいけど、武器なんて知らないでしょう?」
「いいのママ! ちょっと待ってて!」
……ふふーん♪ ふふーん♪
ヒマリは銀色と灰色のクレヨンを使って輝かしい立派な剣を描き上げた。
……ピカーンッ!!
すると、これまでと同じく立派な剣が実体化して目の前に現れる。
「ヒマリッ!? この立派な剣は何なのですか!?」
「これはねっ、カルネ! ……はがねのけん!!」
(はっ、はがねの剣!? ど、どうしてヒマリがそんな物を知ってるの!?)
ヒマリが「はがねのけん」など知るわけがない。ヒマリの情報源に全く心当たりがないアイカはその光景にただただ困惑し戸惑うのであった。




