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第15話:【王妃の告白、国王の怒り】

第15話:【王妃の告白、国王の怒り】


手足の先が氷のように冷たくなり、息をするたびに胸の真ん中がきしむように痛んだ。トリアノン離宮の小さな居間では、焼きあがったばかりのリンゴのタルトが半分ほど皿に残ったまま冷めており、シナモンの甘い匂いに混ざって、庭の土手で枯れ始めたダリアの茎の苦い青臭さが網戸越しに入り込んできていた。水色の綿のドレスを着たアントワネットは、震える右の耳たぶを指先で強くつまむ癖を幾度も繰り返し、ベーマーから届けられた泥染みの残る手紙の端を指先が白くなるほど強く握りしめた。夫に打ち明ければ、かつて自分が仮面舞踏会で朝帰りをして浪費に明け暮れていた過去を掘り返され、またあの暗く冷たい寝所で背中を向けられるのではないかという疑念が頭をかすめたが、今の自分にはこの無骨な夫の胸の中にしか逃げ場がないのだとすがりついた。

「あなた、お願いですから聞いてください……! 私、こんな首飾りなど頼んでいません、見たことすらありませんの! それなのに、あの宝飾商は私が分割払いで買い取ったと言い張って、大金を払えと手紙を寄越したのです!」


耳の奥に警鐘が激しく鳴り響き、こめかみの毛細血管が破裂しそうなほどに激しく脈打った。居間の片隅に置かれた作業机の上には、鉄粉で真っ黒になったルイの作業用エプロンが丸めて放り出されており、その脇には今朝子どもたちが食べ残した黒パンの耳と、干からびたチーズの欠片が乗った木皿が放置されている。かつて政略結婚で海を渡ってきたこの妻を七年間も放置し、部屋の隅でひとりぼっちにさせていた己の弱さと鈍感さが招いたつけが、形を変えた呪いとなって今まさに妻の首を絞めようとしているのだと激しい自責に胸を焦がした。ルイはやすりを握っていた右手の指を開き、油の染みた掌で、妻の冷え切った両手を力任せに包み込んだ。

「落ち着くんだ、アントワネット。お前がそんな途方もない買い物を勝手にするはずがないことくらい、余が誰よりもよく知っている。この手紙を持ってきたベーマーという男は、今どこにいるんだ?」


妻の苦悩を前にして、自分の中に巣食う愚かな邪推が顔を覗かせ、胸の奥底を黒い毒で濁らせた。窓の外では秋の湿った西風が吹き荒れており、庭先の小さな花壇で赤く咲いていたダリアの花びらが、風に千切れて泥水の中へ無惨に叩きつけられていた。もしかしたら宮廷にいる取り巻きの誰かに唆されて、軽い気持ちで契約書にサインだけして忘れてしまったのではないかという卑怯な疑いが喉元まで出かかり、思わず舌先が滑って余計な詰問を口走ってしまった。ルイは眉間に深い溝を刻み、妻の手を握りしめたまま声を尖らせた。

「……おい、アントワネット、本当にお前は何も知らないんだな? 昔、ポリニャック夫人たちにせがまれて、よく中身も確かめずに夜会のツケをまとめて認めたことがあっただろう、今回もそれと同じなのではないのか!」


信じてくれると信じ込んでいた最後の拠り所から突き落とされたように、みぞおちが激しく痙攣した。居間の暖炉の棚には、昨日庭で摘んできた黄色い野菊の花が水のない壺に挿されたまま萎れかけており、テーブルの上の冷めたタルトには、どこからか入り込んだ一匹のハエが止まって前足を擦り合わせていた。七年の空白を埋めてようやく寄り添えたはずの夫が、結局のところ昔の愚かな自分しか見ていなかったのだという屈辱が頭にカッと血を昇らせ、アントワネットは握られていた両手を乱暴に振り払った。アントワネットは立ち上がり、椅子を床に擦りつけて甲高い音を立てた。

「失礼なことをおっしゃらないで! 私がいつ国家予算ほどの借金を他人に言われるがまま認めたというのですか! あなたにとって私は、いつまでもあの浅はかな小娘のままなのね! もういいわ、誰にも頼らず、私一人で裁判所に訴えて身の潔白を証明してみせます!」


妻を怒らせてしまった自分の口の軽さと愚かさに、胃の腑が雑巾のようにねじれ返った。足元の絨毯の端には、長男のジョゼフが零したインクの黒い染みがまだ濃く残っており、ルイが履いている鹿革の短靴の泥が、居間の乾いた床の上にボロボロと崩れ落ちていた。事実を確かめようとするあまり、傷つき怯えている妻の心をさらに抉ってしまった己の拙劣な判断を殴り倒したい衝動に駆られながら、ルイは二度とこの手を離してはならないと強く心に誓った。ルイは素早く回り込んでアントワネットの細い肩を抱き留め、耳元へ顔を寄せた。

「すまない、余が悪かった! お前を疑ったのではない、余の聞き方が悪かったんだ! 頼むから一人で行こうなどと言わないでくれ、かつて余はお前を七年間も孤独にさせた……だが、二度とお前を一人にはしないと、あの子たちが生まれた日に誓ったのだ!」


背中に回された夫の腕から伝わる体温と鉄の匂いに、張り詰めていた心の糸がぷつりと切れた。窓ガラスを叩く小雨の音が室内に静かに響き渡り、テーブルの脇に置かれたルイの工具箱からは、使い古された油布の懐かしい生活の臭いが立ち上っていた。民衆から「赤字夫人」と嘲笑され、国中の貧困のすべての責任を背負わされている日々の重圧が、夫の分厚い胸板に額を押し当てた瞬間に堰を切って溢れ出し、アントワネットは水色の綿のドレスの袖口で目元をぬぐった。アントワネットはルイの背中の上着を指先で強く掴み、嗚咽を漏らしながら声を絞り出した。

「あ、あの首飾りを……私が欲しがって、国のお金を盗んだのだと街の皆が噂しているのです……! 私、そんなことしていないのに……パンが買えないのは私のせいだと、誰もが私を憎んでいるのです……!」


妻の濡れた頬に触れた瞬間、胸の奥の澱んでいた迷いが吹き飛び、燃え盛るような怒りが腹の底に満ちた。居間の掛け時計の振り子がカチカチと乾いた音を立てて正午を告げ、廊下の向こうからは、子ども部屋で幼いテレーズが子守唄に合わせて笑っている声が微かに漏れ聞こえていた。我が子たちの母親であり、このフランスの王妃である妻を泥棒の濡れ衣で貶め、家族のささやかな幸福を踏みにじろうとする影の存在を絶対に許しはしないという国家元首としての矜持が、ルイの全身を奮い立たせていた。ルイは妻の肩をもう一度抱きしめたあと、油で汚れた右手の指先で自らの耳たぶを強くつまみ、執務机の方を向いた。

「泣くのはおしまいだ、アントワネット。余が国王としての権威のすべてをかけて、この稀代の詐欺を仕組んだ黒幕を白日のもとに引きずり出してやる。おい、外の衛兵を呼べ! 今すぐベーマーを王宮の取調室へ連行し、この手紙の仲介者を一文字残らず吐かせるのだ!」



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