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第14話:【消えた160万リーブル】

第14話:【消えた160万リーブル】


腹の底から湧き上がるような下卑た興奮が、指先をぶるぶると震わせた。ロンドンの裏路地にある安宿の薄暗い部屋には、昨夜から飲み明かしたエール酒の酸っぱい匂いと、暖炉で焦げた羊肉の匂いが充満していた。窓辺のヒヤシンスの鉢植えは水をもらえず枯れかけており、テーブルの上には台座から外されたばかりの六百四十個のダイヤモンドが無造作に散らばっている。長年貧乏暮らしで惨めな思いをしてきたが、妻のジャンヌが持ち帰ったこの光の粒を一つ残らず金に換えてやれば、これからは毎日脂の乗った牛肉を食えるのだと確信した。

「おい、そこのナイフを寄越せ。この台座の金も火で溶かして、ロンドン塔の近くの金貸しに持ち込んでやるからな」


胃袋が雑巾のように絞り上げられ、冷や汗が背中を滝のように流れ落ちた。パリの裏通りにあるベーマーの宝飾工房では、窓の外に降る冷たいみぞれがガラスを激しく叩き、ストーブの上で温められていた薄い玉ねぎのスープからはすっかり湯気が消えていた。弟子が脱ぎ捨てた汚れたエプロンが椅子の背にだらしなく掛かっており、机の上に置かれた第一回目の支払いを催促するロアン枢機卿からの手紙は、返事がないまま埃を被っていた。あんなにも自信満々に契約書にサインした枢機卿が、期日を過ぎても一向に金を払わないどころか、宮廷の王妃様からも何の音沙汰もないのは、きっと自分がどこかで無礼を働き、王家から見放されてしまったのだと疑心暗鬼に陥った。

「ああ、どうしてこんなことになったのだ! あの時、ジャンヌ夫人にポンと品物を渡してしまった私が馬鹿だったのか……ええい、お前、この残りのスープは後で飲むから、今すぐ馬車を呼んでくれ!」


目の前が真っ白になり、こめかみの血管がドクドクと破裂しそうなほどに脈打った。馬車に飛び乗ったベーマーのすり切れた黒い上着には、先ほどの玉ねぎスープの染みがべったりとついており、冷たい風が吹き込む車内には、御者が吸っている安タバコの煙がひどく鼻をついた。道端には枯れたマリーゴールドが泥にまみれて倒れており、すれ違う馬車の車輪が汚れた泥水を高く跳ね上げている。こうなったらもう中途半端な貴族や女の仲介など信じず、直接トリアノンに押し掛けて王妃様本人に泣きつくしか自分が借金取りから逃れる道はないのだと、完全に周囲が見えなくなった無謀な決意を固めた。

「急いでくれ! ヴェルサイユのトリアノン離宮までだ! 王妃様はきっと私を試しておられるのだから、直接お会いしてご機嫌をとれば、すぐにでも金庫を開けてくださるはずだ!」


背中の芯がポカポカと温まり、重たかった肩の力が抜けていくようだった。トリアノン離宮の小さな居間には、薪がはぜる心地よい音と、焼きたてのリンゴのタルトにシナモンを振りかけた甘い香りが満ちており、テーブルの下には長男が放り出した泥だらけの毛糸の靴下が片方だけ転がっていた。アントワネットは肌触りの良い水色の綿のドレスを着て、右の耳たぶを指先で軽くつまむ癖を繰り返しながら、隣で設計図を広げているルイの分厚い背中を眺めていた。最近はこうして家族だけで過ごす時間が増え、かつて宮殿で感じていた針のむしろのような視線から解放されて、ようやく普通の母親として生きられるようになったのだとしみじみ噛み締めていた。

「あなた、その定規についた油が図面に垂れそうですよ。あとでタルトを召し上がるなら、ちゃんと石鹸で手を洗ってきてくださいね、昨日もリンゴに鉄の匂いが移っていましたから」


足元から冷水が這い上がってくるような寒気が走り、喉の奥がカラカラに干上がった。和やかな空気を破って居間に入ってきた侍女が、銀の盆に載せて差し出した封筒には、雨と泥で汚れた靴跡のような染みがついており、廊下の奥からは湿ったウールの外套の臭いがかすかに漂ってきていた。開かれた便箋には、ベーマーの震えるような筆跡で『百六十万リーブルの首飾りの支払い』と『王妃陛下からの契約』という見覚えのない言葉がびっしりと書き連ねられており、窓辺の瓶に挿してあった季節外れのリンドウの花が、ふいに首からポロリと落ちた。自分がまったく知らないところで、国家予算にも匹敵する途方もない大金を無断で使われ、あまつさえその泥棒の濡れ衣をこの私に着せようとしている悪意が存在するのだと理解した瞬間、底知れない陰謀の暗闇に突き落とされた。

「……な、何ですって? 百六十万リーブルの首飾り? 私が購入の契約にサインしただなんて……そんなもの、一度も見たことも聞いたこともないわ! いったい誰が、私を騙してこんな恐ろしい罠を仕掛けたというの!?」


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