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黄金の魔術  作者: 木山碧人
第五章 ドイツ

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第48話 基礎の応用

挿絵(By みてみん)




 ドイツ。ミュンヘン。アマリエンブルク荘。


 時はセレーナが交渉した、数分前の出来事に遡る。


「それなら、勝っても負けてもわたくしが鏡面世界にとどまります。その代わり、ジェノ様は外の世界に解放してください。……ただし、彼が解放を拒み、わたくしの元にたどり着ければ、二人とも解放し、あなたには結社を抜けてもらいます」


 持ちかけたのは、互いにメリットがある取引。


 いわば、二番勝負のところを三番勝負にするもの。


 しかも、相手が有利に見えるような状況を作ってある。


 食いつくかどうかは、巻いた餌に気付けるかにかかってる。


 ただ、相手は絶対に気付く。言った言わないは、老婆の十八番。


「……ほぉ、そうきたか。だったら構わないよぉ」


 ほら、かかった。って言わんばかりの笑みを浮かべたくなる。


 だけど、今は我慢。笑顔は、勝負に勝った後に取っておくものだから。


 ◇◇◇


 鏡面世界。アメリカ。ブルックリン。ジャンク屋。一階。


 時は現在。ジェノが、ローラに詳しい説明を求めた後のこと。


「残念ながら、説明義務はないのぉ。そういう条件だったのよねぇ」


 あっけらかんと、ローラは語る。


 恐らく、出された条件の裏をかいた。


 言われてなかったからやらないの精神だ。


 ただ、どうも、しっくりこない部分があった。


(……セレーナさんが、こんなヘマをするのかな?)


 切羽詰まっていたから、気が回らなかった。


 外でトラブルがあれば、その可能性は考えられる。


 だけど、彼女とは少なくない時間を一緒に行動してきた。


 人となりは分かるつもりだ。特に勝負中の性格はなおさらだ。


(例えば、わざと条件を緩くして、食いつかせたのか?)


 頭に浮かぶのは、ある仮説。


 セレーナが考えていそうな撒き餌。


(仮にそうだとしても、その先が分からないな……)


 ここまでが、今の情報から引き出せる思考の限界。


 ここから先は、自分の目と耳で確かめるしかなさそうだ。


「意地悪ですね。……だったら、逃げ回るまでです!」


 ひとまず、鬼ごっこの親と子が入れ替わったとする。


 そうなれば、相手の敗北条件は、時間内に鬼に触れること。


 だからこそ、ジェノは時間を稼ぐために二階の階段の方へ進んだ。


「うーん、せっかちねぇ。やるだけ無駄だと思うけどぉ」


 そんな嫌な声をかけられながらも、階段に足を踏み込む。


 目指すは物置小屋。狙いは、そこにあるかもしれないアイテムだ。


 ◇◇◇ 


 鏡面世界。ジャンク屋。二階。物置小屋。


 中には、くたびれた長机と木の椅子が二つ。


 部屋の広さは、おおよそ十二畳ぐらいの空間。


 窓がないから、逃げ道はどこを見渡してもない。


(きっと、ここのどこかに……)


 そんな中、ジェノは必死になって、目的のアイテムを探る。


 近辺はガラクタで散らばり、机には空き瓶と、二つ分のグラス。


 そして、赤い幾何学模様が彫られた白いアタッシュケースがあった。


「袋の鼠ねぇ。逃げた先は本当にここで良かったのぉ?」


 バタンと扉の音が鳴り、乗り込んできたのはローラ。


 声はすぐ後ろから聞こえてくる。あまりにも近すぎる距離。


 彼女の言う通り逃げ道はなく、不安に駆り立てられそうになる。


(……大丈夫。俺の選択は間違ってない)


 それでも、焦ることなく、冷静に、部屋の奥まで進む。


 近くには白いアタッシュケースがあり、それを手に取った。


「できると思ったらできる。できないと思ったらできない。意思の力の基礎です」


 振り返り、壁を背にして、追い込まれたジェノは語り出す。


 それは空き時間での修行中、セレーナに教えてもらった言葉だった。


「魔術の基礎でもあるわねぇ。でも、この状況で何ができるっていうのぉ?」


 ローラは話に食いつき、急に襲われる展開はなくなった。


 時間稼ぎは成功だ。これで一回分の行動ぐらいは許される。


 ただ、ミスはできない。失敗すれば、負けが確定してしまう。


 それでもやるんだ。やるしかないんだ。これ以外に、道はない。


(鍵は開いている。中身を知っている。能力も覚えている)


 頭に浮かべるのは、鮮明なイメージ。


 失敗すればマルタみたいに消えてしまう。


 鏡面世界だからこそ、強固に意思を保つんだ。


(――あの言葉の重みを俺は、身に染みて理解している)


 イメージはできた。後は形に変えるだけ。


 あの時の問いに、今一度、応えないといけない。


「弱者には敗北を、強者には勝利を、戦わぬものには死を。

 我、この理を以て、この世全てを支配する魔王とならん」


 欲望の言語化。あの時、頭ごなしで否定した言葉をジェノは口にする。


 それに応じるように、アタッシュケースから飛び出したのは、銀色の鼠。


 それはかつての宿敵。大統領レオナルドが使っていた聖遺物レリックに他ならない。


(力の根源は支配欲。中途半端な気持ちは微塵も混ぜない)


 聖遺物レリックは、異能力を宿している動物型の物質。

 

 主との同調率に応じて、能力と形態も進化する。


 詠唱文を理解していないと、きっと進化はしない。


 その状態だと、打開できない。八方塞がりで終わる。


(意思を込め、言葉を込め、魂を込める)


 だけど、意味を知っている。力の引き出し方を分かっている。


 その思いが通じるように、銀色の鼠は銀色の輝きを放っていく。


 瞬間、ジェノは理解した。これは、魔術と同じ類のものなのだと。


「……へぇ。ここまでが、坊やの筋書き通りってところぉ?」


 感心した様子で、ローラは尋ねてくる。


 ただ、表情に焦りの色はなく、落ち着いていた。


 鏡面世界では驚くに値しない。そう言われてるみたいだ。


「さぁ、どうでしょうね……。教えると思いますか?」

 

 冷たい汗が額に浮かんでいくのを感じる。


 想定内だったけど、不測の事態が起きていた。


 ジェノが手に持っていたのは、金と銀。二振りの刀。


 武器化はできたけど、鎧化まで至ってない及第点の結果。


 正直言って、この状態で能力が発揮できるか分からなかった。


 だけど、どの道、賭けてみるしかないかもしれない。次の一撃に。

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