第60話 冤罪
~~~ 奉行所 ~~~~~~~
ここは奉行所内の牢獄。
一次的に罪人容疑の者を閉じ込めておく
場所で刑務所ではない。
であるから普段は未使用により
閉じ込められて者など誰もいない。
監視人も不在であるから無人で無音だ。
窓がなく日差しも入ってこない。
現在日中で晴天であるにも関わらず、
ここは薄暗く不気味な空間と化していた。
そんな場所の一角に1人の男の姿があった。
その者は、目をつむり身動き1つせずに、
あぐらをかいてじっと時が経つのを待ってる。
猫「ニャー、ニャー」
いつもは無音なはずの場所だが、
今日は猫の鳴き声で外が騒がしい。
そう牢屋に居るのは風雷である。
そして、外で鳴いてるは相棒だ。
珍しく猫は風雷の側にいない。
それは、風雷が奉行所内に入らない
よう強く指示したからである。
理由は、殺傷されるからだ。
相棒は賢い。
言葉の意味が分からなくとも、殺される
というのを感じ取り奉行所を入る手前で
素直に風雷から離れてくれた。
風雷と黒猫は意思伝達でつながっている。
お互いの正確な位置までは特定できないが、
大体この辺りにいるだろうということは
把握できているので安心はしている。
風雷は意思伝達を使って、しばらくそこで
待機してるよう黒猫へ指示を出し続ける。
こうなることは想定していた。
罪人であると確証があるから奉行所へ
連行したのであろう。
抵抗したら罪を認めたこととなるので
素直にここまで来てしまったのだが、
正解であったと信じたい。
このあと問答を受けることとなる。
そこで解放されなければ終わりだ。
何度も命を狙われてからの、ここへの連行だ。
権力者の陰謀を感じ、話し合いで解放される
とは到底思えない。
となると問答の次に待ち受けるは、
御奉行による裁きである。
この場合、有罪確定となるのは間違いない。
無罪など今まで1度も聞いたことがないからだ。
なので、罰がどれだけ軽いものになるかを
祈るのみといったところだ。
ちなみに、軽い刑罰としては、
金銭の支払いや、お叱りを受けるだけ
というのがある。
そうなることを願いたいものだ。
風雷は決断に迫られている。
実は、この場から逃げ出すことは風雷に
とっては容易いである。
問題は逃げ切れるかにある。
日中は確実に捕まるだろうと予測している。
至る場所に役人が配置され、密告者によって
居場所が特定されるからだ。
誰にも見られずに国外へ逃亡することは不可能。
逃げるとしたら深夜しかない。
風雷の最大の失敗は、昨日から血を摂取して
ないとうこと。
逃走中に人を襲うしなかいと考えてる。
深夜に通行人と出会えるかが不安なところ。
感染隔離から解放された時点で国を出るべき
であった。
それよりもあの女(凜)を捨てて出て行って
しまえばよかったのだ。
まぁ、悔やんでもしかたない。
とにかく、身動きさせず体力を温存させる
のに意識を集中することにした。
・・・
物音がする。そして明かりで視界が良くなる。
格子を挟んで3人の役人が風雷の前に立つ。
どうやらそれぞれ、問答する者。
書き留める者。ロウソクを持つ者のようだ。
役人「お主、名を名乗れ!」
風雷「風雷である。」
役人「ではこれより、お主に課せられた
悪行について問答する。
正直に答えよ。
もし、回答が虚偽であるならば
罪が重くなるゆえ心せよ。」
風雷「理解した。」
さぁ、始まった。
この問答で潔白を説明できれば
ここで解放される。
最大の山場であると言えよう。
役人「お主は、医者か?」
風雷「医者ではない。」
役人「では医者と名乗ったことは?」
風雷「周囲からはそう呼ばれてはおるが、
私から医者と名乗ったことはない。」
役人「病人や怪我人を治療したことはあるか?」
風雷「ある。自己流であることを伝え
理解して頂いた上で治療した。」
役人「医学をまなんだ経験はあるか?」
風雷「ない。独学だ。」
役人「ではどのようにして病を特定してる?」
風雷「人の血をなめれば、身体のどの部分が
悪く、どのような病に侵されるか
分かる得意体質であって、
それで判断してる。」
役人「興味深い。
人の血で病を特定してると?」
風雷「左様だ。」
役人「薬の判定はどうしてる?」
風雷「過去に患者を使っていろいろな
薬草を飲ませ、どう効くのか実験
したことろがる。
その経験を使っている。」
役人「煙を使って治療したことはあるか?」
風雷「ある。それについては進言したい。
その治療を施す者は、身体をむしばむ
病ではなく、悩みが積み重なって
起こる心の病である。
この者たちは、薬では治せない。
精神を落ち着かせる煙を用いたとう
ことだ。」
役人「不当な金額で治療してるとの噂だが?」
風雷「馬鹿げてる。私の治療を受けた者
から払った額を聞くと言い。
相場の半値のさらに半値ははず。」
役人「最後だ。患者に治ったと暗示を
掛けてるという噂だが?」
風雷「こちらも馬鹿げてる。
もし、それが事実ならば治って
いないということになる。
誠がどうか、私の患者に聴いて
みるといい。」
役人「以上。これにて問答を終了とする。」
役人が終了を告げ、3人とも無言のまま
退散してしまった。
問答の結果はどうだったのか。
無罪かそうでないかだ。
ー刻(30分)してその答えが判明する。
2人の下僕が現れた。
下僕「これより御奉行様による裁きを行う。出よ。」
残念なことに無罪ではなかったらしい。
施錠が解除され、牢屋を出ると両手首に縄を
縛られた。
この時点で有罪確定だ。
裁きは明日だと考えていたので、
心の準備が出来てきてない。
どのような判決となろうと実施は明日だろうと
読んだ。
相棒(黒猫)もいるし何とかなるさと楽観的にとなる。
なので脱出は今夜決行することを決め、
裁きは素直に受けることを決意する。
下僕を前後に挟まれ、風雷は後を付いて行くと
真っ白な小石で敷き詰められた庭へと出る。
進む先を見ると、ご座がひいてあり、
刀を持った2人がその場に立っている。
なるほど、あそこに座るのかと理解する。
案の定、その場所へ正座ですわされる。
裁きを受けるのは、風雷にとって初めての
経験である。
無理やり頭を下げさせられ、額に小石が
あたった。
正面の広間に1人の下っ引きが現れる。
下っ引き「上様のおなーりー。」
風雷は小石とにらみ合い笑みを浮かべる。
不安よりも興味の方が勝っていた。
お奉行「その方。面を上げー。」
御目付けが折りたためられた和紙を広げ、
記載されてる風雷の悪行が読み上げられる。
1つ、民に医師と偽り詐欺をした
風雷は何だそれと驚愕する。
どうしても罪人にしたいらしい。
1つ、破格な額で治療を施し、
薬院のお得意様を奪ったあげく、
薬院をつぶしにかかった
1つ、民を実験台に使い、毒物の元
となる草を探した
1つ、麻疹の治療で3名の死者を出した
風雷に驚きはない。
ここまで爽快にでっち上げられると
逆に楽しくなって来る。
心の中で失笑してしまった。
以上4つの罪に問われてる。
御目付け1「風雷殿、申し開きはあるか?」