第61話 不問
~~~ 奉行所 ~~~~~~~
御目付け1「風雷殿、申し開きはあるか?」
風雷「御座いません。」
これは茶番だ。
反論したところで結果は変わらない。
ここに来た時点で有罪は確定してる。
ならば、どのような判決が下されようと
もはや興味はない。
今夜脱走するのだから。
お奉行「ふむ。では罰を言い渡す。」
風雷に動揺はない。
打ち首でもなんでもすればいいという気分だ。
お奉行「患者本人の合意とは言え、
適当な治療法で3名を死なせた
のは由々しきこと。
よって島流しの刑と処す。」
まさか死罪とならないとは、
調子抜けであった。
といっても島流しは、離れ小島へ
送られる罰のこと。
無人島という訳ではなく、他の罪人もいる。
畑はなく、動物がいないため狩りができない。
木の実を食べるか、魚を取って生き延びる
しか手段のない場所だ。
本土へ泳いで帰れる距離でもない。
どの道、死刑となったようなものだ。
これにて審議は終了した。
風雷は元の牢獄へと戻され、部屋の中央
であぐらをかき、目をつむって迷走する。
ここで1つ想定外なことが起こる。
見張りが1名付いたことだ。
まぁ、見張りがいたところで計画に変更はない。
難しくなったはいつ決行するかだけ。
誤って見張りの入れ替え時に決行でもしたら、
仲間が呼ばれ脱走に失敗する可能性がある。
確実を狙うならば深夜だろう。
見張りは相棒(黒猫)に倒してもらえば、
騒ぎにならずに抜け出せる。
あとは、朝までに国外へ脱出できるかどうか。
ここが読めない。
街道の関所を抜けるのは危険だろう。
となると山越えしかない。
風雷は瞑想しながら逃走経路をいくつか考える。
深夜までには、まだ随分と余裕がある。
考える時間があってちょうどよかった。
ーー 一時(2時間)後 ーー
何やら建屋内が騒がしくなった。
風雷は目を開けると、その答えが判明する。
3人の侍が風雷の前へ仁王立ちし
にらみつける。
3人とも服装が立派である。
城家の者と見られる。
さて、この者達は何しに来たというのだ。
風雷は思考を回転させる。
まさか、この時間に船を出すという
気ではないよな、と風雷は少し動揺する。
見張りも含め、ここにいる4人を始末する
のは容易だ。
だが、その後指名手配が出され、
数万を相手に逃走することとなるだろう。
流石の風雷でも逃げ切れない。
まぁ、たかが罪人1人に数万もの兵や
下っ引きどもを出動させるとは思えない。
風雷がそんなことを思考してると、
3人の侍のうち、真ん中者が、
懐から和紙を取り出し語り出す。
侍1「お主が風雷だな?」
風雷「如何にも。私は風雷だ。」
侍1「拙者は清華家に仕える身。
殿より文を受けたまわった。
お主にお伝えする。」
風雷「殿様?」
侍1「左様だ。殿からの勅命である。」
風雷「直々に?なぜ私が?」
侍1「知らん。読み上げるぞ。」
侍1は折りたたんである和紙を広げ読み上げる。
侍1「温情。風雷殿」
温情?どういうことだ。風雷は混乱する。
手紙は、次のように綴られていた。
この度、其方は桐生領富中町で発生した
麻疹という治癒不可能とされる病に対し、
自らが病に掛かる危険があるにも関わらず
献身的な治療を施し多くの民を救った。
1つの町を救ったと言っても過言ではない。
本件の功績を称え、其方に課せられた
罪を帳消しとし、不問といたす。
侍1「との事だ。」
風雷「不問!?」
侍1「左様だ。
要するに本件はなかったことになる。」
♪ガチャガチャ
牢屋の施錠が解除された。
侍1「島流しの刑が下されたと聞く。
どのようにして殿から温情を根回し
させたか知らんが、お主は自由だ!
解放する。」
風雷は狐につままれた感じである。
まったく心当たりはない。
というか殿様と面識もないのだから。
出ていいというのであれば、お言葉に甘えるまで。
風雷は牢屋から出て、案内人の後を付いて行き
何事もなく奉行所から出ることが出来た。
そして、風雷が奉行所から1歩足を踏み出した
ところで黒猫が肩に飛び乗って来たのである。
風雷「待たせた。相棒!」
猫の返答はないが、思念伝達で再会できて
嬉しい気持ちは伝わって来る。
相棒の気持ちとは裏腹に、風雷に笑みはない。
というのも死罪とならなかったので、
敢えて奉行所を退出させ、暗殺を狙って
いるのではと想像してしまったのだから。
ここからは夜道だ。
襲うにはもってこいである。
島流しの刑は、二度と本土に戻れない。
死罪でなくても風雷を狙う者にとっては
結果満足だったはず。
なので深読みなのかもしれない。
だが、安心はできない。
風雷は、警戒しながら帰宅するのであった。
我が診療所の前へと到着すると。
部屋が明るい。誰かいる。
風雷はつい懐に手を入れるも
短剣がないことを思い出す。
奉行所へ向かう途中で投げ捨てたからだ。
身体検査で、短剣を持ってることが
見つかればその場で切りつけられるのだから。
どうしようか一瞬迷ったが、戸を開け
部屋の中を確認してから考えることにした。
幸いにも今回は外だ。
例え相手が刃物を持っていたとしても
逃げながら1人づつ対処すれば勝算はある。
♪ガラガラーー
風雷は勢いよく戸を開ける。
すると中に一人の女性がいた。
風雷はその女性を知っている。
凛 「おかえり。」
吉原で腹を刺され救った女性だ。
なぜここに居るのだ?
あともう1~2週間はあの宿で世話に
なってるはず。
もう回復したとでもいうのか。
凛 「遅かったわね。」
『おかえり』という割には口調が
殺意に満ちている。
そりゃあそうだ。兄を目の前で殺して
しまったのだから。
彼女にとっては、命の恩人であり
兄への復讐相手でもある。
風雷「穏やかでないな。目的は何だ?
まさか、感謝を言いに待っていた
のではなかろう。」
凛 「そうね。どちらかというと
感謝されたい方かしら。」
風雷「何のことだ?」
凛 「あなた。
奉行所で裁きを受けたのでしょ?」
風雷「まさか。
不問にしたのはお主のさしがねか?」
凛 「無論よ。
だって、あなたは私が殺すのだから。
死罪で殺されては困るわ。」
風雷「殿の勅命であったぞ。
側近でさえ、今回の件に関して
進言など難しいと思うが。
改めて問う。お主何者だ?」
凛 「答えると思う?」
風雷「想像はつく。殿の命令により
私を殺しに来たのであろう?」




