第54話 好機到来
~~~ 隔離された町 ~~~~~~~
ここは今川家の道場。
風雷が最初に訪れた麻疹病を抱えてる現場だ。
300名ほどの病人がここで寝泊りして看病を
受けている。
初めてここへ訪れたときは、自身の身体に出来た
謎の赤い斑点と妖怪に取りつかれてしまったという
恐怖に怯え、誰しもが死ぬと絶望していた。
だが風雷の説明によって、その病がただの風邪の
一種であることを理解し、しかも薬が存在する
ことを知り、皆の考えが一変した。
その薬は効果を発揮し、ほとんどの者が高熱から
微熱へと変化して見せたのである。
赤い斑点は消えないものの、自身の体調はみるみる
回復するのが感じられ、病気に勝てるという
意識へと変化していた。
重い空気だった道場は、今では皆の顔には笑みが
見え、温かい場所となっている。
ここで勘違いしてはいけないのが、風雷の薬は
麻疹に直接作用する物では無いということだ。
ただの解熱剤である。
そして、風雷1人で、全ての患者を診きれる範囲を
超えているということだ。
案の定、風雷が道場へ戻って来た時には1人
死亡していた。死因は肺炎によるもの。
その者は、風雷が来る前から肺炎を引き起こしていた。
たとえ風雷が付き添っていたところで助けられたかは
何とも言えない。
そして、ここへ来て早々悪い知らせを立て続けに
聞かされることに。
女子1「御医者様。
お手伝いの2名が高熱で倒れました。
診て頂けないでしょうか?」
風雷 「無論だ。案内を頼む。」
女子1の後を付いて行くと、見覚えのある2名が
隣り合って寝ているのを見つける。
そして、その子らのところで立ち止まる。
女子1「ここの2名です。」
2名とも顔に赤い斑点が出ている。
誰かに麻疹をうつされたのだ。
風雷 「薬は飲んだのか?」
女子1「はい。先ほどお飲みになりました。」
風雷は2人の病人へ顔を向ける。
女子2「御医者様。申し訳御座いません。
この様な時に熱を出してしまいました。」
女子3「わたくしも同じで御座います。」
風雷 「お主ら2人とも麻疹をうつされた
ようだ。」
女子2「はい。赤い斑点が出てしまいました。
気を付けておりましたが。」
女子3「重ね重ね申し訳御座いません。
御医者様の言われた通りに
接していたつもりでした。」
風雷 「謝ることはない。
むしろ感謝したい。」
女子3「この有様で滅相も御座いません。」
風雷 「本心である。
良く尽くしてくれたと感じておる。
未知の病に怯えることもなく病人に
接したのは誰にでもできることでない。
これだけの多くの病人がおるのだ。
気を付けてたとて、いつ病をうつされても
おかしゅうない。」
女子2「有難きお言葉。
いつ死んでも本望で御座います。」
女子3「わたくしも同じ思いで御座います。」
風雷 「馬鹿な!死ぬ覚悟でおるでない。
私が死なせぬ。
お主らは十分尽くした。
他者のことなど気にせず、今は休め。」
女子2・3「感謝申し上げます。」
風雷と名のる医者がどのような病も治してくれる
という噂は隔離された町全体で広まりつつある。
というか健康な人達によって広められている。
その甲斐あってか、麻疹に侵され、部屋に
閉じこもって人達やその家族が、ここの道場へ
集まるようになって来た。
これは良い兆候である。
麻疹を一斉に撲滅できる足がかりとなるからだ。
風雷は患者を診回り問題ないことを確認する。
薬作りの方も順調の様子。
1人1日1粒が必要。
しかも最低1週間分は使う。
風雷が持って来た薬草だけでは足りなそうである。
幸いにも薬草探し班よる貢献により、少量では
あるが見つけて来てくれている。
この様子だと何とかなりそうな感触を得た。
しばらくこの道場は安心だ。
何かあれば誰かが駆けつけて来るだろう。
風雷は、次の二条家へと向かうことにした。
~~~~ 新損料屋 ~~~~~~~
ここは吉原の端。
吉原でも珍しく、主の通りからは離れた人通りの
少ない寂しい場所だ。
そこには損料屋と書かれた看板の店がある。
そう、帝が経営する店だ。
今日は、珍しく人が多い。
その中で刀を所持する4人の浪人集団が損料屋の
前で立ち止まる。
店の名を確認し、中へと入って行った。
下僕「親分。成助殿、他3名が参られた。」
景佐「もう来たか。客室へ通せ。」
成助は、昨日仕事が欲しいと下僕を通じて懇望
して来た者である。
仲間を連れ、改めて伺うという事であったが、
早くも次の日の今日参じたのである。
実は彼らは浪人ではない。
浪人に扮した忍びなのだ。
当然、成助という名も偽名である。
彼らは案内されるがまま客室へと入る。
客室と言っても何もない畳の部屋だ。
座布団が1列に4つと対面に1つ敷いてある。
成助一行は、あぐらで座り親分の登場を待つ。
・・・
ー刻(30分)は待っただろうか。
景佐「待たせた。」
成助「問題ない。急に押しかけたのは我らだ。」
景佐は、彼らの対面に正座で座る。
景佐「仕事が欲しいと?」
成助「左様。
世知辛い世の中、我々の仕事はなく。
あっても雀の涙程度の依頼。
羽振りが良い店があると噂で聞き
参じた次第。」
景佐「その方らは、侍の出であるか?」
成助「否。皆、田舎の道場で育った者だ。」
景佐「剣術の心得は?」
成助「皆、三戸無双流だ。」
景佐「三戸無双流?聞き覚えがないが。」
成助「小野田一刀流の系列と言えば分かるか?
暗殺に特化した流派だ。」
景佐「小野田一刀流とは誠か?
それは素晴らしい。
あなた方のような達人を
お待ち望んでおった。
さぞ帝も喜ばれることであろう。」
帝という名が突然現れた。
やはり、この店が正解だったということになる。
忍びの連中は、内心驚くも表情にはださない。
成助「景佐殿。ミカド殿とは?」
景佐「この店の主である。」
成助「今、御在宅か?」
景佐「事務作業しておるぞ。」
成助「であれば是非とも我々の剣技をミカド殿
に披露したい。
腕に自信のある者と手合わせ願えない
だろうか。」
景佐「なるほど。
良かろう。よほど腕に自信があると見た。
偶然にも信広殿がおる。
彼に打ち勝てば帝も喜ばれるであろう。」
信広という名も出て来た。
忍び連中に笑みが一瞬こぼれる。
凛の報告によると信広という人物は、
井口の配下の者であり、経頼(武田家の長男)の護衛に
付いてるという話だ。
全てがつながった。
そして、井口と経頼の2名が偶然にもこの建屋内に
居合わせている。
忍び連中に笑みがこぼれるのも無理はない。
今日の目的は帝に雇われること。
井口と経頼の確保は、2人がそろう日を
狙うつもりでいた。正にそれが今日である。
成助「信広殿は相当の手練れであるか?」
景佐「我々が雇っている中で1番だ。
金井一心流の達人と言えば理解できるかな?
彼に勝てれば帝の直属になれるぞ。」
成助「ほう、一心流とな。
それは是非とも手合わせ願いたい。」
景佐「これは面白い。
対戦は、成助殿でよろしいか?」
成助「拙者がお相手する。」
景佐「信広殿の剣技も拝見したいと願って
おったところだ。
急いで準備を致す。
拙者も楽しみとなった。」




