第52話 大活躍
~~~ 畠山城 ~~~~~~~
謁見の間。
忠輔「殿!朗報でございます。」
内光「珍しく機嫌よいではないか、申してみよ。」
忠輔「凜が只今戻られた。」
内光「誠か!生きておったのだな。それは目出度い。
どこに居るのだ。顔を見せよ。」
忠輔「それが重傷でありまして、自力で歩けない有様。」
内光「やはり凜の身になにかあったのやな。」
忠輔「左様でございます。
凜の御役目は武田家の長男、経頼の身辺調査。
反旗の兆候があれば始末、である。」
内光「ふむ、記憶しておるぞ。」
忠輔「凜の話によると経頼殿は危険人物と判断した時、
向こうから仕掛けられたとのこと。」
内光「数々の修羅場をくぐり抜けて来た凜でさえ
逃げ切れなかったということか。」
忠輔「それが逃げ場のないの場所で手下も配備
してたとこのこと。」
内光「経頼の策略にはめられたのだな。」
忠輔「左様でございます。」
内光「なるほど。我々の指示が筒抜けであったと。」
忠輔「御恥ずかしい限り、拙者の不手際である。」
内光「まだ始めたばかりであろう?結果よければ全て良し。」
忠輔「有難きお言葉。」
内光「相手の術中にはまり、なお凜は生きておったと。
流石は、くノ一の中のくノ一。」
忠輔「同感であります。
只今、凜をお呼びします。」
♪パンパン
忠輔は手を叩き、廊下の者に合図する。
大きな板を水平にして、2人の侍が両端を持ち登場する。
その板の上には凜が仰向けで置かれていた。
まるで死人を運んでるようである。
内光「これはまた痛々しいのう。」
凛 「殿、このような無礼、お許しくだされ。」
内光「許す。」
凜を運んだ侍はそそくさと謁見の間を退散する。
忠輔「凜!任務の報告をせよ。」
凛 「武田家の長男である経頼殿は黒でありました。
井口殿と名乗る男と共闘で・・・」
忠輔「なんだと!」
内光「どうしたのだ?」
忠輔「井口とは元桐生領首の元で仕える、
もう一人の片腕と呼ばれていた者であります。」
凛 「良くご存じで。」
忠輔「我々も井口の行方を探しておったのだ。」
内光「その井口とやらはどうしたのだ。続きを申せ。」
凛 「経頼殿と井口殿は我が藩に対し、謀反を
起こそうと企て、浪人どもを集めておりました。
推定1000名は集めたかと。」
忠輔「資金はどうしておったのじゃ?」
凛 「井口殿が2千両近くの貯えがあるらしく
それを使ってるとのこと。」
忠輔「殿、全てがつながりましたぞ。」
内光「どういうことだ説明してみぃ。」
忠輔「拙者の仮説だが、よろしいか?」
内光「話してみい。」
忠輔「相馬領の年貢が消えた事件を覚えておられるか?」
内光「ああ、覚えとるとも。」
忠輔「井口殿の仕業かと。」
内光「どういうことだ?」
忠輔「井口殿が相馬領の年貢を奪うために、領主の屋敷へ
忍び込み、屋敷内の者を皆殺しにしたのでは?」
内光「ほう。」
忠輔「その年貢を使って、次に武田家の長男と手を組み
浪人どもを集め始める。
機会を見て、城攻めを模索してるのではなかろうか。」
内光「なるほど。忠輔の意見、凜はどうだ?」
凛 「同意であります。
元領主の片腕とはいえ、何千両もの金銭の貯えが
あったとは思えない。
浪人どもを集めるため、相馬から強奪を企てたかと。」
内光「確かにその流れは自然だ。」
凛 「今は、集めた浪人どもを貸し出す商売をし、
食いつないでおられます。」
内光「もしや、帝とは井口のことではあるまいな。」
凛 「裏は取れてませぬが、間違いないかと。」
内光「ハハハ。出来した。凜がおればすべて解決じゃ。」
忠輔「左様でございます。」
ある1人の男が廊下側から忠輔へ小声で話掛けて来た。
男 「忠輔様。ご報告があります。」
忠輔「何の件だ?」
男 「帝を捕らえる件であります。」
忠輔「殿!帝を捕らえる件で進展がありました。
一旦、席を外させていただきたい。」
内光「構わん。」
忠輔は部屋を出て、廊下でその男と立ち話をする。
その間、殿と凜はというと、帝を捕らえる策を
討ったことをこと細かく殿の口から説明されたのである。
忠輔の立ち話しは意外と早かった。
忠輔「殿!待たせた。
帝の件でご報告があります。」
内光「早う申せ!」
忠輔「結論から、失敗に終わりました。」
内光「相手の数が上回っておったか?」
忠輔「いえ、それが屋敷はもぬけの殻だったそうです。」
内光「ではそのまま引き上げて来たのか。」
忠輔「それが、屋内に毒を仕込んでいたようで、我が兵の
約200名近くが亡くなったとのこと。」
内光「我々が襲撃すると予想していたということか?」
忠輔「そうなります。」
内光「現在の居場所は掴んでおるのか?」
忠輔「いえ。
内通者が牢獄に居る以上、知るすべがありませぬ。」
凛 「井口殿の居場所なら特定できますが。」
忠輔「誠か?」
内光「申してみよ。」
凛 「井口殿は浪人どもの貸し出しをしておられる。」
忠輔「それは先ほども聞いたぞ。」
凛 「活動拠点は桐生領の吉原近辺。
であれば吉原周辺の浪人どもを捕まえて雇い主を
聞き出せば井口殿に辿り着くかと。」
内光「流石は凜。でかしたぞ。」
忠輔「あっぱれである。」
忠輔「ならば。
1万の兵を動かし、大体的に捜索するとしよう。」
内光「待て!同じことになるぞ。
別の場所へ逃げられ、こちらは毒で大量の兵を
失うことになりかねん。」
凛 「同感であります。」
内光「凜には何か秘策があるのか?」
凛 「忍びを使うのがよろしいかと。
聞き込みは専門で在ります。
帝すなわち井口殿の場所を特定するのは容易いですし、
大量の浪人に関しては彼らは所詮は金で雇われてる身、
忠誠心などないはず。
井口殿と経頼殿のみが捕らえれば反撃はないかと。」
内光「どうだ、忠輔?」
忠輔「拙者も凜殿の策に賛成であります。」
内光「凜の復帰は、我が藩に栄光をもたらす。」
凛 「それは大げさであります。
情報収集した結果から判断したまで。
私には大した力はありませぬ。」
内光「忠輔よ、直ぐに動け!そして朗報を持って参れ。」
忠輔「受けたまわりました。」
忠輔は部屋を飛び出し、場は凜と殿だけとなる。
内光「凜は容態が回復するまで城内で休むといい。」
凛 「有難きお言葉。
ですが無作法な自分にはもったいない。
せめて下僕と同じ宿舎をお望み申し上げます。」
内光「なんと謙虚な。」
~~~ 隔離された町 ~~~~~~~
風雷はある寺の前にいる。
病人が大勢いるとする第3の場所だ。
大きな寺ではない。
坊さんは1人しかいないはずだ。
お経の声が聞こえる。
♪ガラガラ
引き戸の扉を開ける。
一人の男が立っていた。顔に赤い斑点がある。
この人、麻疹に侵されてるのが伺える。
寺院1「何用だ?」
風雷 「ここに病人が沢山いるということ
を聞き見に来た。」
寺院2「何事だ。」
別の者が現れた。風雷の顔を見るなり急変する。
この人も麻疹に侵されていた。
寺院2「貴様は!」
寺院1「知人か?」
寺院2「煙とかで病を治すという例の医者だ。」
寺院1「帰れ!偽医者め。」