第28話 使者
~~~ 呉服屋 ~~~~~~~
風雷「もう大丈夫だ。」
店主「ありがとうございやす。神様。」
風雷「私は普通の医者だ。神などでない。」
店主「神じゃよ。1日で病が治るなどありえん。
しかも煙を嗅いだけとは。
信じられん。」
風雷「治ってなどない。痛みが和らいだけだ。
あと1ヶ月は薬を使う必要があるだろう。」
風雷は現在、呉服屋にて店主の治療に従事している。
どうも3月前から頭痛に悩まされていたようだ。
原因はストレスによるものでアロマテラピーに
よって改善されとのこと。
店主「ええよ。嗅ぐだけじゃろ。
元正院はダメだ。薬は苦いわ。
頭痛は悪化するわで奴らはヤブだ。」
妻 「おとなしくて、良い子さね。」
彼らのすぐ側に立つ店主の妻は、風雷が連れてきた
猫をだっこしながら、体をなでている。
大そうお気に入りのご様子。
猫はというと目を閉じたまま、されるがまま
おとなしくしている。
風雷「1ヶ月分。薬を渡しとく。
毎晩、欠かさずやるように。」
店主「へい、分かりやした。」
店主は風雷から薬の入った紙袋を受け取る。
風雷「次は来週来る。
何かあったら診療所の方へ参られよ。」
店主「ありがたや。」
2人は立ち上がる。
妻 「ええ。もうお帰り?」
妻は、まだ猫と戯れていたいようだ。
店主「こら!
みんなの神様じゃから長居させてはならんぞ。」
妻 「わかりました。」
妻は猫を両手で抱え、目を合わせて話し掛ける。
妻 「私から離れたくないでちゅよね。
寂しいね。また来てね。」
風雷「遊んで頂き助かる。
来週も連れて来るので相手を頼みたい。」
妻 「楽しみにしてます。」
風雷が玄関の方へ振り向くと、猫は風雷が帰るのを
察し、風雷の肩へと飛び乗る。
妻 「お利口さんだね。」
風雷「ではお大事に。」
そして風雷は次の患者の元へと向かうのであった。
店主「いらっしゃい。」
風雷とすれ違いで2名の男性が店へと入って来た。
2人うち1人はカバンを持って半歩後ろにいる。
どうやら付添人と主人の関係のようだ。
店主「なんだい。お前さん達か!?」
医者「薬を持参して来た。その後お加減はどうかな?」
店主「あんたらの薬はまったく効かん。
いらんから帰ってくれ!」
医者「頭痛という病気は直ぐ治るものでない。
最低1年は様子をみないと。」
店主「そうかい。
別の医者に診てもらったが1日で治ったぞ。
わしから長期間、薬を買わせて金を騙し
取ろうしてるだろうが、そうはいかん。」
医者「騙し取るなどと滅相もない。
頭痛が1日で治るなど医学的にありえない話だ。」
店主「そうじゃろ。お前ら医者には無理だ。
わしは神様に診てもらったからのう。」
医者「もしや某は黒猫を連れてるという偽医者では?」
店主「この罰あたりめが。
帰れ!帰れ!もう元正院は来んくていい。」
2人は店を追い出された。
付添「先生。噂の者だろうか?」
医者「ああ。間違いない。
腕を噛んで診察するとか、煙で治療するとかの
デタラメ野郎だ。」
付添「そ奴はバカですね。
偽医者とはいえ、もう少し分からぬように
事をすませればいいものを。」
医者「治療を受けたこのない貧乏人なのだろう。」
付添「しかし、どのようにして1日で病気を治された
のでしょうな?
さぞかし信じがたい話だ。」
医者「さぁな、催眠術でも掛けたのではないか。」
付添「ああ、なるほど。」
医者「これは大問題だ。
我々の商売が上がったりだが、民衆の病が進行する。
上に報告せねば。一刻も早く止めないと。」
~~~ 武田家 ~~~~~~~
従者「よろしいでしょうか。若様に客人が参られた。
損料屋の者であると。」
経頼「通せ!」
損料屋は荷物運びから屋敷の掃除と人手を貸し出す
何でも屋である。
だがそれは表向きであり、実は用心棒の派遣が主の
ならず者集団なのだ。
この時代、個人で用心棒をするのは問題ないとされてるが、
10名を超える団体での活動は藩として許可してない。
それは藩に対して反旗を起こす恐れがあるからだ。
損料屋はそれを破って裏稼業をしている。
3名の刀を持った男が現れた。
経頼「信広殿ではないか。これは心強い。」
信広「この度は経頼殿のお側に付けて光栄でござる。」
武田家の長男である経頼は、畠山藩の使者に命を狙われてる
との情報を損料屋が聞きつけ、無償で用心棒を送った
のが目の前の彼らである。
経頼「3人も預けてくれるとは!
そなただけで十分であろうに?」
信広「いやいや、相手は藩の使いと聞く。
足りないくらいだ。」
経頼「礼は言わん。
拙者も損料屋に出資しておるのだから。」
信広「心得て・・・」
♪パキ
信広は会話を止めるようジェスチャーする。
目線を上に向け、天井裏に人がいることを無言で伝える。
経頼は従者に目で合図をし、周囲を固めるよう指示する。
と同時に3人の用心棒が、一斉に音を立てず鞘から刀を
抜こうとしたその時。
天井の一角が開き、4人のすぐ側に、人1人、
上から落ちてきた。
その者は全身黒でまとい、目だけしか露出してない。
忍者である。
身元は不明だが、体格は小柄の細身で、どうみても女性だ。
信広「くノ一か?」
信広が発すると同時に、忍者は両手に短剣を逆手に握り、
経頼を殺害しようと1歩踏み出し首を切りにかかる。
が、信広の反応も早かった。
鞘から刀を半分出したところで、忍者の短剣を受けて
阻止したのだ。
経頼は驚き、尻もちをつく。
忍者は半歩下がる。
信広は次の攻撃に備え全神経を集中させる。
経頼「くせ者だ!出会えい!」
経頼は、屋敷中に響き利かすよう大声で叫ぶ。
忍者は経頼を倒すのに時間が掛かると悟り、
この場を立ち去る。
♪ドサ
信広を除く2人の用心棒が倒れた。
畳に血が広がり、確認するまでもなく
2人とも死んでると理解した。
屋敷に来てそうそう何という怒濤の展開だろうか。
忍者が現れて去るまでが一瞬の出来事であった。
対応できたのは信広だけである。
経頼を真っ先に狙ったということは使者なのだろう。
それに失敗したものの、去り際に用心棒2人を
殺害するとは、女と言えどあなどれない。
1人だったから良かったものの、数人だったら間違いなく
全員あの世行きであった。
信広「ここは危険でござる。
しばらく損料屋で身を潜めては如何か?」
経頼「お言葉に甘えよう。」




