あなたに都合の良い世界にようこそ、といえるように
だいぶきかんあいてしまったのですがひょっこりもどってきました。
まだまだ私生活、というか親族トラブルで出てこれそうにないですが気が向いたときにゆっくり続けていけたら、と思います。
「あうあうあー。(お母さんー、おなかがすきましたよー。)」
「あら、おなかがすいたの?」
まだまだ、母乳が必要な状態なので、恥ずかしながらも母を呼ぶという羞恥プレイにも慣れてきた今日この頃な異世界転生者のアイリスです…。
ザリアー王国の末端にある小さな町プリモヴァーチェのこれまたちいさなパン屋の一人娘です。
…うん、完全にただのモブだね。よくある乙女ゲームとかの転生はないね。どこかの貴族の落とし胤…?ないない。
両親の外見には一切貴族的な特徴ないし、このパン屋は代々受け継がれているものらしいのもあって、地図時は疑いようがない。
「けふっ。(おなかいっぱいですー。)」
「おなか一杯になったかしら?それにしてもアイリスはとても頭がいい子なのかしらね。」
「う?(どゆこと?)」
「夜泣きとかもしないし、手のかからない子だもの。黒髪黒目の子供は魔力が髙いから優秀になりやすいって聞くけど、本当なのかしら?」
「うえ!?(そうなの!?)」
「本当に反応が、こちらの言っていることを理解しているようなのよね…。」
げ、やばい。反応が普通にばれてる。これは眠くなったふりをして逃げよう。
「うー…?」
「あら、お眠?ママは店頭に戻るからよい子にしてるのよ。」
といってベッドに寝かされたが、返事はあえてしない。疑われる要素は減らしておかないと!
優秀とか誤解受けたりすると、貴族に養子にされるとかあるらしいし、それは怖い。
というより、黒髪黒目って魔力高い系なのかー。ってことは魔術とか使えるようになるのだろうか。
でも、そもそも魔力とか感じ取れないんだけど。…もしかしてなかったりとか、しないよね…?
にしても、本当に眠くなってきた…。
スヤァ。
『黎明の彼方への新刊!単行本派の私は血のにじむほどの我慢をしてネタバレを回避し、本誌を回避してようやく!今見れた!』
『…ちょっとおちつきなよ。読み終わってから騒ぎなさい!』
『うー。わかった。』
『早く読みなさいね!本誌派の私は今日まであんたとこの話をするのを待ちに待っていたんだから!!』
『うん!』
目の前にいるのは小学校のころからの親友、彼女のおすすめで私はこの少女漫画にはまった。
新刊が出たタイミングで休みを取ってカラオケボックスにて待ち合わせたのだ。
懐かしい記憶だ。
まだ高校生だったころのようでその巻は黎明の彼方のヒロインの親世代編完結話が載っているものだった。
『えええええ!!!!』
『そうよね、わかるわ。』
『え、だってこれはないじゃない!ヒロインの母親の王妃はそうそうに暗殺されてしまうだなんて!』
『そう、それも、原因が公爵令嬢に敵意を持たれていたから、学生時代に立場が悪くされていたから、なにより。』
『後ろ盾になれる存在がいなかったからとかこれ彼女の所為じゃないじゃない!???』
『そうよね。』
『くー!後ろ盾とか、作ってあげられたら!だってこんなにいい子でなにより才女じゃない!何より王太子もふがいない!』
『あー。でも、だからこそ、なのかなって思うのよね。』
『なにが。』
『ヒロインに対して過保護なの。』
『あー…。』
不満そうな顔で文句ばかり口にしていた私が納得したのが分かったように親友が続ける。
『それよりも新章はついに隣国編よ!謎に包まれたオルドール様について何かわかるかもしれないわ!』
と興奮で顔を赤くする親友に私は苦笑いした。
そういえば親友はこの親世代編で一部明らかになった隣国の王家推しだったなと思い出して。
懐かしい、夢を見た。
なんで高校生の時の夢なんて、見たのだろう。そう思ってふと外の音に気が付く。
激しく降る、雨の音。
余り気候の変化がないこの王国には珍しい天気だ。
前世ではよくゲリラ豪雨とか言われていたそれと同じくらいの雨脚に聞こえる。
だから、夢を見たのかもしれない。
でも、それにしても雨音以外に人の声が先ほどからずっと聞こえている。
何かあったのだろうか。
その時。
バンッ。
大きな音を立てて扉が開かれた。
びしょ濡れの父が、何かを抱えている母を連れて部屋に入ってくる。
こんな雨の時に外に出たのだろうか。
それとも雨が急に振り出したのか。
そう考えていた私は、母の腕に抱えられている白い布の塊をみて唖然とした。
金色の髪の赤ん坊だった。
父が慌てて乾いたタオルを出して赤ん坊を拭きだす。
その時、赤ん坊をくるんでいた布の隙間から、見えてしまった。
印籠が。
…うん。印籠って貴族しか持ってないよね、この世界って。
つまり貴族の落としだねだね、この子。
…にしても、この印籠見覚えがあるんだけども。
いや、一民間人の私がお貴族様の印籠知ってるわけないんだけども。
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
うん、これ間違いなければ少女漫画「黎明の彼方へ」のヒロイン母の持っていた印籠だよね・・・・?
幼少期は王国の民間人に保護されて育てられてたって設定のはずだったけど、そっかー。うちかー。
ってなるかーい!
ここ黎明の彼方への世界だったの!?
というか親世代にがっつり絡んでるじゃないですかー!?
第一王子の1歳の記念式典が先日あったよね???ってことは1歳年上かこの子!
発育不良で私と変わらんようにしか見えんわ!
ってことは未来の王妃が姉になるんかーい!
…ってまてよ。ということは。このこ、19歳で暗殺されるの!?
まって、それはないって。
後ろ盾、ないからって。国で一番影響力ある公爵家の令嬢の坂恨みで?
結婚するまでも、してからも苦しむの?
そんなの、認められない。
ヒロインの母親、アルバニア・カルヴァドス
カルヴァドス伯爵家当主が子爵家の愛人との間に作った女児。
カルヴァドス伯爵家の本妻は夫よりも家格が高い公爵家の令嬢だったため、子爵家令嬢もその子供も許せずに、暗作者を雇って殺そうとするが、夫の妨害によって女児だけは殺すことができなかった。
その女児を拾うのが王国の民間人のパン屋の夫婦で、そこでアルバニアはアリーという名前をもらって成長する。その夫婦の実の子供と仲の良い姉妹で有名だったが、それもカルヴァドス伯爵家当主とその妻とその子供が賊によって暗殺されることで一変する。当主に兄弟がいなかったため、正統な後継者がいないことで国があれそうになった時に、愛人の子であるアルバニアの存在が露見し、彼女は次期当主アルバニア・カルヴァドスとして貴族が通う学院に通うよう言われてしまう。そして、学院に通う中で、彼女は周囲の学生に立場や生まれ、その状況を含めて遠巻きに見られてしまう。その間に必死で貴族として必要な礼儀マナーを身に着ける途中で当時の王太子(現国王)と出会い、お互いにひかれあってゆく。
婚約者のいる王太子にこんな感情を持ってはいけないと、近づいてはいけないとおのれを律する彼女に対して、初めての恋に浮かれた王太子は積極的にかかわってしまい、周りから不評を買う。そのまま、公爵家令嬢ともめ、王太子は公爵家には逆らえなくなる状態を条件に、それでもアルバニアを王妃にするように願った。そして、アルバニアの妊娠を機に結婚するが、出産直後に公爵家に彼女は暗殺されることとなる。自らの感情を優先させ、守るべきものを守る力を持たなかった彼は、公爵家に完全に取り込まれる形になるが、アルバニアの産んだ王女であるヒロインが16年後に公爵家の悪事を明らかにし母の敵を討ち、公爵家に取り込まれた王家からの脱出を行い、王位継承権持ちの中で最も王位に近い立場を手に入れる。
ここまでが私の知っている、黎明の彼方へのストーリーだ。
このあとは、隣国の帝国との外交編になるとの話だった。
原作ではアルバニアは王太子に好意を持っていたし、王太子も彼女を愛していた。
実際のところ、公爵家の令嬢と王太子は婚約していなかったのだ。
だから、王太子と仲良くしても責められるいわれなどなかった。
本来なら王太子は塔の昔に公爵令嬢と婚約させられていたはずだが、公爵令嬢の性格の悪さが婚約に王家が踏み切らなかった原因のようだ。
だから、アルバニアにちゃんとした後ろ盾があって、彼女が王妃教育を完全になしえたのなら、彼女にだって資格はあったし、周りを納得させられたら問題などなかったのだ。
そう、でも。彼女には後ろ盾がない。
彼女が学院に通えるようになるには、カルヴァドス伯爵家が彼女以外いなくなってしまうほかないのだから。
…なら。
私たちが後ろ盾になれるようになればいい。
幸いにも、隣国は民間人であっても、他国の民であっても、優秀であれば自国の爵位を授与する仕組みがある。私の家は隣国へのパンの販売も行っている。
なにより、前世の知識が私にはある。
なら、どんなに卑怯だと言われようと、原作がなくなってしまっても、なによりもアルバニアが、私の
姉になる彼女が幸せになれるように、私が頑張って見せよう。
そして、絶対にあなたを幸せにして見せる!
だって親友と違って私の押しは、あなたなんだもの、アルバニア!
同じベッドに寝かせたあと両親が部屋を出て行ったのを見送ってから、私は隣で眠る体温に誓った。
絶対に幸せになろうね、アルバニア。