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弐陸 花の滴と茨木童子


 雨音は鬼切を構え、巨大化していく百目入道(ひゃくめにゅうどう)を見上げた。


 暗がりに、どこかの寺社の楼門が建つ。

 その楼門を見下ろすほど、百目入道はでかくなった。


 雨音はふと、楼門の人影に気付いた。

 咲良が柱の影から、心配そうに見ている。

「咲良ちゃん。なんでここに居るの!?」

 雨音が驚いて尋ねた。


「私、部屋で夢を見てるの…。雨音くんが心配だから、自分の部屋から見てる…」

「そう。じゃ、その柱から一歩も出ないでね。いいね?」

 雨音が念を押した。



 百目入道の全身の目が、一点の方向、雨音を睨む。

 百目入道は数珠を握った右手を突き出し、

「フーム…」

 と、唸った。

 数珠の玉が数個、バラバラに宙に浮かんだ。

 と思ったら、玉が飛んだ。

 玉は弾丸の速さで、雨音を襲った。


 雨音は額の鬼眼で見極め、刀で玉を切った。

 どの玉も真っ二つに割かれ、彼の前から弾き飛んだ。



「その昔、(わし)は平凡な僧だった。なんで、みんな儂をじろじろ見るんだ? 儂に対する目は、誤解ばっかりだった。儂はさんざん、中傷されてきた…」

 百目入道は悔しそうに言った。

 見られることの苦痛、視線への怒り、世間の誹謗中傷や面白半分の噂に対する怨み。


「儂は普通なんだよ。同じだろ?」

 人の視線を意識するうちに、体中に目が浮かんできた。

 彼は山寺に籠って、人目を避けたと言う。


「儂を見るな。誰も、儂を見るな…」

 人にどう思われるかを気にする余り、神経を磨り減らしてきた男。

 彼は遂に、妖怪になった。


 彼は妖怪になっても視線に怯え続け、山奥に隠れた。

「儂を見たか…?」

 山道で出くわした人間に問う。

「しっかと見たぞ!!」

 と言われると恥じて、もっと深い山へ逃げ込んだ。


「儂と同じ、気の小さい人間は居るはずだよ…。そいつらはそのうち儂のように心を病んで…、全身に目を生じるだろう…」

 彼は醜い妖怪になってもまだ、

「儂は普通だ…」

 と、必死に独り言を呟いた。



「ハーム…」

 百目入道が巨大な足を振り上げた。

 草鞋を履いた足の裏が、雨音に向かって降りてきた。

 雨音はかろうじて避け、地響きと土埃が起きた。


「フー…ム、フーム…、ハー…ム…」

 百目入道は鼻息も荒く、数珠の弾丸を放った。


「おまえが憎らしい、源次。おまえはこんなことで悩んだことないんだろ? 頭脳明晰、運動神経もいい。てことは、悪い噂を立てられたり、友人と思ってた相手に陰口を叩かれたり、そんな経験はねーな?」

 百目入道が妬んだ。


「儂はきれい事を言う奴が嫌いだ。そんな奴は信じられねぇー。儂は自分より不幸な奴を見て、やっと安心出来るんだ。…でも、自分を顧みた時、どうしてこんなに醜いのかと情けなくなる。み仏の智慧から、儂は遠過ぎる…」

 と、自分を蔑んだ。



 雨音の周囲で、鬼切で半分に割かれた玉がキラキラ光って飛散した。

「源次を殺さなくちゃならねぇ…。こいつは儂の嫌な部分を思い知らせる。儂はこんな自分を、誰にも見られたくないぞ…」

 百目入道は雨音に殺意を抱いた。


「ダァー…ン…!!」

 百目入道が叫びながら巨大な握り拳を振り下ろし、雨音を叩き潰そうとした。

 雨音は百目の拳に飛び乗った。

 そこから飛び降りながら、百目の頭の先から臍まで、一気に斬り下ろした。



「雨音くんが勝った…」

 咲良は胸を撫で下ろした。



 百目入道が縮んでいく。

 本当の顔は皺だらけで、白い髭が生えていた。

 百目入道は小柄な老僧の姿になった。

 長い眉毛が、真実の一対の目に被さるように生えていた。


「終わりか…。何もかも」

 百目入道が最後の目を閉じた。

 生まれて初めて、穏やかな気持ちだった。


 その懐から太ったドブネズミが一匹出て来て、走り出した。

 雨音は老僧の死骸に目もくれずに、そのドブネズミを追いかけた。


 彼はドブネズミの頭部に鬼切を突き刺し、脳を貫いた。

 すると、百目入道の遺体に金色の炎が生じ、激しく燃え上がった。


「他人が自分をどう思ってるか、誰でもそんな些細なことで、死ぬほど悩んだりしてる…」

 雨音がぼそっと呟いた。



 空間が、鬼の座敷と繋がっていく。

 逆に、咲良の居る楼門は遠ざかっていく。


 鬼の座敷の戸口に、百足(むかで)大臣(おとど)が立っていた。

「源次、やりおったな…。蝦蟇麿(がままろ)に続いて、百目入道まで…。許さんぞ」

 吐き捨て、襖をピシャッと閉めた。

 雨音は廊下に取り残された。





 咲良の夢は続いた。

 彼女の心は時空の波を揺蕩(たゆた)う。



 雨がぽつぽつ降る、夕暮れの庭。

「ここはどこだろう?」

 咲良が見回した。


 寝殿造りの建物の前に、池や朱塗りの橋があるような、豪華な庭園とは違う。

 対屋(たいのや)の奥庭。

 静かで落ち着いた構成だ。

 ここには主人の家族が住む。

 松の常盤色の葉が茂る枝越しに、遠く山と、どこかの寺の七重の塔が見える。


 長い髪、(こき)袴を履いた女の子がいた。

 袴を手で摘み上げ、裸足で走っている。

 やんちゃな女の子、六、七歳ぐらい。

 彼女を捜す女房(侍女)が渡殿まで来たので、こっそり、庭の木陰に隠れた。


 渡殿で女房が、

稚桜(わかさくら)様ぁー、いずこにおわしますかー!? 稚桜様ぁー」

 と、呼んでいる。

 女の子は小雨に濡れながら、悪戯っ子らしい無邪気な笑みを浮かべた。

 女房は女の子を見つけられず、愚痴を零しながら、対屋へ入った。



 咲良は庭の隅から、そんな光景をじっと見ていた。

 そして、女の子を見ていて、あることに気付く。

「あの女の子の顔、何だか、私の小さい頃に似てる…」



 その時、女の子に向かって、

「お姫様、何をしてらっしゃるの?」

 はっきりと聞き取れない、風のような声がした。


 稚桜は声のした方を見上げた。

 軒下を覗き込む、鬼の姿があった。

 顔色が青白く、唇は薄紫。

 見慣れない種類の古い冠、細身の束帯(そくたい)を着ている。

 稚桜の着物より、古い年代を思わせる。



「マナブ!? …違う、学瀛(がくえい)だ!!」

 咲良は慌てた。



 中門の屋根の上で、鬼のぼろくなった着物が、雨風になびく。

 彼は稚桜だけを見詰め、咲良には目もくれない。

 咲良が透明であるかのように。


「誰ぞ? ここは殿方が入ってはならぬところですよ」

 稚桜が年よりませた口ぶりで話す。

 風のような不確かな声で鬼が答え、

「道に迷ってしまいました。学瀛と申します」

 ひらり、砂利に飛び降りた。


「私は…稚桜…。学瀛様、屋根の上で何をしておられたのですか?」

 稚桜が問うと、鬼は、

「猫の真似をして、歩いていただけです」

 と、すまして答えた。



 咲良は稚桜に向かって叫んだ。

「逃げて!! 鬼に喰われるよ!! そいつは恐ろしい、人食いの鬼なんだよ!!」

 咲良の声は、過去の世界に届かない。



 稚桜と鬼が会話を始めた。

 学瀛が話すと、鋭く尖った左上の犬歯が見えた。

 稚桜は内心、

「角や牙があるのは、鬼じゃ…。まっこと、鬼か…?」

 と、考えた。

 いつも女房が、

「稚桜さま。良い子にして下さらぬと、鬼に攫われてしまいますぞ…」

 とか、言っていたっけ。


 鬼は彼女に手招きして、

「雨が強うなって参りました。姫様、お(ぐし)が濡れております」

 と、軒下に誘った。


 彼女は鬼に従って、二人きり、雨宿りした。

 鬼はヨダレを飲み込んだ。

 幼い子供の肉を喰らうことが出来そうだ。

 柔らかく、美味いだろう。



「ヤバい…」

 咲良は見ていて、冷や冷やした。

 このままでは、稚桜が鬼に喰われてしまう…。



 餓えた鬼が長い爪の指を鉤状に曲げ、さぁ襲いかかろうという時に、

「あ、こんなところに可愛い花が…」

 稚桜は微笑み、塀の傍に生えた低木を振り返った。


 鬼はすかされた形になり、少しつんのめった。

 稚桜はしゃがみ込み、(いばら)の花を摘もうとした。

「姫様、気を付けて。(とげ)がありますぞ…」

「痛っ…」

 稚桜は茨の棘で指を刺し、血を滲ませた。


 血の匂いが鬼の鼻孔を突いた。


 茨は、古来より日本にある野薔薇。

 花びらが五枚で、初夏、道端や塀の側にたくさんの花を咲かせていた。

 若葉の緑に、白き花が映えて美しい。


「姫様。茨木(いばらき)はよい香りの美しい花を付けますが、枝にびっしり棘があります」

 鬼は血の匂いにクラクラした。

 最早我慢できなくなり、口が耳元まで裂けて、くわっと広がった。


「これ、差し上げます。学瀛様」

 稚桜が花の一つを摘み取り、鬼に手渡した。

 雨に濡れて白が一層鮮やかで、一粒の水滴が真珠のように光っていた。


「美しいのに棘があって、忌み嫌われる。これは学瀛様のような木ですね」

 稚桜は遠慮なく、思うことを言った。

 鬼はちょっと驚いたが、受け取った。

 僅か一輪の花が、鬼の乾いた心を潤していった。


 無表情な鬼の眸から、涙が一粒落ちた。

「長い間、私は花を見ることも忘れていた…」


 鬼は大きな口を閉ざし、花に見入った。

 花は鬼に触れられ、見る間に(しお)れていった。



 咲良は心に棘のように引っかかる、言葉を繰り返した。

 鬼にあげた花と、一粒の涙。

 茨木童子(いばらきどうじ)


「こんなことが…遠い昔にあったような…」

 咲良は記憶を手繰(たぐ)りながら、戸惑った。

「どうして? これ、全部夢…?」

 咲良は、鬼と女の子を見詰め続けた。



「学瀛様は何故、鬼になってしまわれたのですか?」

 稚桜が尋ねた。

 学瀛は胸に手を当て、

「父と兄を殺され…、心が…夜色に染まっていきました…。そして、気付いたら鬼に…」

 と、囁いた。


「幼いおことには難し過ぎる話です。父と兄は世のつまらぬ争いに巻き込まれて…、遠い島に流されて死んでしまいました…。そこは食べる物もなく…、人と人が食い合う、この世の地獄であったと言います」

 学瀛の眸は遥かな空を見た。


 雨が降り続く。


「されど、私を(あわ)れむには及びませぬ。鬼と成り果て、気もおかしくなったのでしょう。この身は風に吹かれて白骨となり、空を翔けます。人を(あや)め、復讐を果たした今はただ、稲妻と戯れ、月に眠る。腹が減れば、人を喰らう。この自由気侭な暮らし、私には楽しくて堪らぬから…」


 学瀛は稚桜の手を取り、風に乗って、雲の上まで飛んでいった。

 冠が外れてたてがみのような茶髪が乱れ、獅子の耳が見えた。


 風に吹かれ、学瀛の美しかった顔が半分崩れ、白骨が覗いた。

 稚桜の手を取る、彼の右手も白骨と化した。

 彼は口笛を吹き、降りてきた夜の(とばり)に眷属を呼び集めた。

 稚桜には、黒い影にしか見えなかったけれど、どの眷属も一つ二つの角があった。


 ひゅうう、風が吹き、雲が流れ、金色の一番星が煌めいた。



 稚桜は空から都大路を見下ろした。

「学瀛さま、人恋しくないのですか?」

「人であった頃は、死にたくなるほど孤独を感じました。故郷を離れて暮らし、謀反(むほん)を疑われて捕えられ…。今は孤独も感じぬほど、正気を失った。淋しくはない」


 学瀛は雲の上に座り、片膝を立てて、人差し指の骨で雲を掻いた。

 渦が起こり、旋毛(つむじ)風となって、二人を乗せた雲は都の上を回った。


 稚桜も雲の上に座り、雲を両手で掻いた。

 雲の孔から覗けば、自宅と庭園が見えた。

 空を見上げている召使いや女房達、彼女の家族が、まるで砂粒のような小ささ。



 学瀛は、

「私はこれからも、怨みのない人まで、無意味に殺し続けます。ともかく、延々祟らなければなりませぬ。それが、鬼というものだから。私は雷を落とし、河が溢れるまで大雨を降らし、疫病を流行らせ、やっと実ったばかりの作物を腐らせるのです」

 と、話した。


 稚桜は悲しんだ。

「そのような必要がありますか? 悲しいことは終わりにしませぬか?」

 学瀛は白骨の手で、稚桜の髪を愛しそうに撫で、

「もし、いつか淋しくなったら、おことに会いに来てもいいですか?」

 と、聞いた。


 普通の子供なら一発で泣き出すような、恐ろしい鬼。

 その牙で死体の腹を食い破って、(はらわた)を貪るとも言う。


 稚桜は子供の天真爛漫さで、

「いつでも。貝合わせしたり、双六(すごろく)をしたりして遊びましょう」

 と、約束をした。


「ならば、姫様。人の生首の代わりに、鬼灯(ほおずき)の実を私の墓に供えて下さい。私は人を喰うことをやめるでしょう。姫様に会いたくなったら、使いを送ります。私はあの、一条の小さな橋にて待つ。どうか必ず、必ず来て下さい…」

 学瀛は稚桜の眸を閉じさせた。


 稚桜が眸を開くと、彼女は元の庭にいた。

 雨が上がり、空には星が瞬いていた。



「裏切ったのは、稚桜(わたし)なんだ…」

 咲良は星空を見上げ、呟いた。



 


 二週間ほど過ぎた。


 幼い子供達や老人に流行し始めた病気は、麻疹(はしか)ではなかった。

 症状は赤いプツプツが出来て、高熱が出るので、麻疹に似ていた。

 けれども、何かが違うのだった。

 運のない子供達は死亡し、老人も重症化して、数人死んだ。


 紅葉と咲良とコマチは、疫病と四条通りの鬼の関係を疑った。

 あの赤い顔の鬼が歩くと、水色の滴が散って、どれも青い小鬼になった。

 青い小鬼が子供達の口から入った。


 幸い、紅葉と咲良には何も変化が現れなかった。

 彼女達はしゅとーん部に行き、山上に相談した。

 山上は顎の髭を撫でながら、

「わかってる。鬼の仕業や。今、雨音に鬼を捜させてる…」

 と、答えた。


 その日、彼女達の組太刀は、旭が相手をした。

 紅葉は居合型も抜刀・納刀も出来ないのに、少し剣道を習った経験からか、うまく間合いを取る。

 動きも振りも素早い。

 咲良は運動神経のいい紅葉が羨ましくなった。


「紅葉ちゃんに抜かされちゃう…」

 彼女は生まれて初めて、他人に嫉妬を覚えた。


「紅葉ちゃん、もっと深く切り込まないとダメですよ。それじゃ切れないから」

「こうかな!?」

 紅葉は習ったばかりなのに、咲良よりずっと上手くやってのける。

「合ってますよ」

 旭が頷いた。



 雨音が遅刻してきた。

 酒井が、

「雨音ー、ようやったなー。バレてへんと思ってるやろー?」

 と、片目を(つぶ)ってみせた。

 百目入道を倒したことについて、言っている。


 雨音は酒井の冷やかしを無視し、

「山上さん、旭さん。四条通りの鬼、見つけました!!」

 と、言った。

 旭は急に表情が変わった。

「どこ!?」

「四条です。来て下さい!」

 雨音の呼びかけに応え、旭は居合道着のまま、真剣を掴んで道場を走り出た。


「雨音くん、私も行く!」

 紅葉が飛び出した。

「よいしょ…っと」

 酒井が車のキーを持ち、描きかけの絵を置いて立ち上がった。


 咲良は裸足で、雨音と紅葉を追いかけた。

「待って、雨音くん。お願いがあるんだけど。…ねぇ、マナブを殺さないでほしいんだけど…!」

 雨音は振り返り、咲良をキッと睨んだ。

「ごめん。約束出来ない。僕だって、尊敬するマナブさんを殺したくないけど」

 二人の間に、気まずい空気が流れた。


 紅葉は驚いた。

「ちょっ…。咲良ちゃん…、何言ってんの? そんなこと言うてたら、うちら殺されてしまうやん…」

 紅葉は焦って言った。


「大丈夫だよ、咲良ちゃん。雨音はマナブより弱いから。それより、靴履いて来て。その格好でいいから」

 旭が咲良に言った。





 酒井の車で、しゅとーん部のメンバーが四条に向かった。

 山上、酒井、旭に雨音、紅葉と咲良の他、しゅとーん部に剣術の稽古に来ていた大学生も一緒だった。

「何が起こるんですか?」

 彼はワクワクしながら、山上に尋ねた。


 山上はその大学生に、

「変なこと聞くけど、松野くん。君、鬼って見える?」

 と、聞いた。

 松野はウケて、

「しょっちゅう見てますよー。ゼミの先生がそうなんですけどー」

 と、噛み合わない返事をした。


「松野くん。たぶん、鬼はわかりやすい外見をしとる。角が生えてて、牙があって、半分裸で指が三本。空を飛んでくる。…斬れッ!!」

 山上が真剣を松野に渡した。

 松野は頬をちょっと引き攣らせた。

「ええっ…!! 斬っていいんですか!?」


「構わん。稽古の集大成やと思え。相手は新撰組やと思ってな、京都がどんと焼かれる前に、本気で斬れ!! 俺が許可する!」

 山上はいつになく、やけっぱちに言った。


「紅葉ちゃんと咲良ちゃんは、旭と雨音の後ろにおるんやで。まだ初心者やさかいな」

 山上はしつこく念を押した。


「山上さん。斬ったら、鬼の体から血が飛び散って、それが全部青い小鬼になるんじゃないですか!?」

 旭が心配した。

「脳幹串刺しするしかないんです、旭さん」

 雨音が横から口を挟んだ。



 咲良は震える胸を、手でギュッと抑えた。

「あの…、山上さん。鬼灯(ほおずき)って…どこに売ってるんですか…?」

「咲良ちゃん。そんなもん、お盆前になったら、どこのお花屋さんでもスーパーでも売ってるよ。お盆はお仏壇に供えるね…。今はないんちゃう? 鬼灯、どうするん?」


 咲良はおろおろした。

「鬼灯がいるんです…。それと、学瀛のお墓の場所…、どこか知りたい…」

「学瀛の墓? 聞いたことないな。祖父さんの書いた本にも載ってへんわ」

 山上が助手席から答えた。


 雨音は咲良を振り返り、

「鬼灯って、葉が割れて実が見えたら、人間の生首みたいだよね」

 と、言った。

「咲良ちゃん、これ、内緒だけど持ってて…。必要になるかも知れないから」

 彼はどうやってしゅとーん部から持ち出したのか、護り刀の神泉を咲良に渡した。


「う…ん」

 咲良は唾を飲み込んで、じっと短刀を見詰めた。

「斬らなくていいから。もしマナブさんに会っても、絶対、話を聞かないで。あの人はもう、鬼になってるんだから…」

 雨音が咲良に告げ、前を向いた。


「咲良ちゃん、大丈夫?」

 紅葉が咲良の顔を覗く。

 咲良は青い顔をして、冷や汗をたらたら流していた。



「着いたで。四条や」

 酒井が言った。

 




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