複雑な恋の糸
苦しい。
息をするのも辛いくらいに。
生まれて初めて知ったこの思いは、二次元で見ていたキラキラなんかじゃなくて、
・・・でも。
あり得ないぐらいに魅力的で、もう、後戻りはできないほどはまっていた。
そう、それは──恋だ。
「せーんぱいっ」
前を歩く、同じ委員会の先輩、神崎流星に後ろからじゃれつくのは、
「・・・緋花、くっつくなよ、歩きづらい」
うんざりした顔を向けられているのに、ふふっと笑った藤堂緋花は、
「えーっ、そんなこといっても先輩、結局は許してくれるじゃないですかっ」
はあ、とため息をついているのを、緋花は知っている。
知っていて、でも、止められない。
その理由も、分かっていた。
「・・・これで仕事終わりな。お疲れ。気ぃつけて帰れよ」
「・・・はいっ。お疲れ様です」
笑顔で手を振るけれど、心は泣いていた。
遠くで、先輩の彼女が駆け寄って、先輩の頼れる腕に抱きついている。
相合い傘をして、歩いていくのが、雨なのか、・・・それとも涙なのか分からないけど、徐々に見えなくなる。
人が辛いとき、目に涙が溜まるのは、見たくないものを見えないようにする、カーテンを掛けるためかもしれない。
「先輩、・・・」
目に浮かんだ涙を拭いながら、自分も昇降口へと向かった。
「緋ー花」
「あーっ、大翔!どうしたの?」
花田大翔。
彼は、この高校のOBで、モデルになった有名人だった。
そして、緋花の幼なじみでもあり、昔から、緋花のことを熱の籠もった目で見てきたのだ。
「もう遅いからさ、緋花お嬢様を迎えにきてやったんだよ」
と軽口を叩く大翔に、緋花は笑って、
「もう高校生だし、大丈夫だよ。大翔ってば、心配症だなあ」
なんて笑うのだ。
「ほら、早く行こーぜ。今日はケーキ奢ってやるよ」
「えーっ、太るー!けど食べたいっ」
なんだよそれ、矛盾してんな、なんて笑い合いながら歩くのが、もう日常になっていた。
そして、緋花は、その事が周りにどう見えているか、まだ知らなかったのだ。
「流星、まだあの子のこと、諦めてないの?」
一緒の傘に入っているのは、自分の妹である神崎瑠奈だった。
「ん。・・・まあな。そんな簡単に諦めれんなら、好きになってねえと思うし。」
淡々と答えてはいるが、口に出してみると改めて実感する。
・・・緋花のことが好き。
イケメンな彼氏がいて、お互いに愛し合っていそうな、そんな彼女だけど、一緒にいて、すごく心地いいのだ。
初めて花田大翔に会ったとき、緋花をみる目をみて、直感した。
こいつは、緋花のことをものすごく愛している。
そして・・・
『大翔』
呼び捨てにした緋花との関係は、つきあっている以外の何があるのか。
それでもやめられないのは、恋の魔力かもしれない、なんて考えて自嘲的に笑った。
「ほら、瑠奈、濡れちまうぞ。早く帰ろうぜ」
まったく、焦れったい関係なんだから。
お兄ちゃんと緋花さん。
端から見れば両想いにしか見えない二人は、お互いに勘違いして、所謂両片思いな状態になっていた。
それを流星の妹である瑠奈は、おせっかいだと分かっていても心配するのを止められないのだ。
苦しいならあきらめればいいのに、なんて言っても、自分だって報われない恋をしてるくせに。と自分の中のもう一人が容赦なくつっこんでくる。
・・・分かってるよ、そんなこと。でも、別に誰に迷惑かけているってわけでもないから、それくらい許してよ・・・
兄妹揃って悲恋の方向に進んでいることに、瑠奈は気づいていながらも、それを放置していた。
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